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カナダ政府はもう一つの懸念となっている化学物質ビスフェノールAについて対応

Government of Canada Takes Action on Another Chemical of Concern: Bisphenol A
April 18, 2008
http://www.hc-sc.gc.ca/ahc-asc/media/nr-cp/2008/2008_59_e.html
保健大臣Tony Clementと環境大臣John Bairdは本日カナダ人の健康と環境をもう一つの心配な化学物質から守るために対応することを発表した。
カナダは世界で初めて企業やその他の関係者と協議してビスフェノールAのリスク評価を完了する国となり、ビスフェノールAを含むポリカーボネート哺乳瓶の輸入や販売、宣伝を禁止すべきかどうかについて60日間のパブリックコメント募集を開始する。
コメント募集期間は2008年4月19日からで、カナダ政府は評価の概要を官報に告知する。
カナダ政府は首相が2006年12月8日に発表した新しいイニシャチブ「化学物質管理計画」により、多数の懸念される化学物質のリスク評価を行う最初の国である。カナダ人やカナダの環境が有害な可能性のある化学物質に暴露されないことを確保することが我々の責務であると信じるが故に直ちにビスフェノールAについて対応した。
ヘルスカナダのビスフェノールAスクリーニング評価は新生児と18ヶ月齢までの乳児への影響を主に検討したが、全ての年齢層のカナダ人の健康についても考慮した。
新生児や乳幼児のビスフェノールAの主な暴露源は、高温に暴露されたポリカーボネートの哺乳瓶と乳児用ミルクの缶であることがわかった。この評価において科学者は、新生児や乳児のビスフェノールA暴露量はリスクとなる可能性のある量より低いと結論したが、暴露量と影響量の差は十分に大きくはない。
慎重を期してカナダ政府はいくつかの対応により新生児や乳児のビスフェノールA暴露量を減らすことを提案している:ポリカーボネートの哺乳瓶の使用禁止;乳児用ミルクを入れる缶の溶出規制を厳しくする;企業と共同して代替容器を開発し服務規程を作成する;ビスフェノールAをカナダ環境保護法のスケジュール1リストに掲載する。
環境カナダの科学者は低濃度のビスフェノールAが長期間では魚や水棲生物に有害である可能性を発見している。現在下水や汚泥処理施設に検出されている。
環境大臣は「カナダの環境に関しては、安全性に値段はつけられない」と述べている。我々はビスフェノールAの健康影響についてだけではなく環境影響についても検討している。カナダ政府がビスフェノールAを環境から排除する方向で、安全な使用と廃棄を確保するための対応をしているのはそのためである。


保健大臣所感
Minister's Remarks on Bisphenol A
http://www.hc-sc.gc.ca/ahc-asc/minist/speeches-discours/2008_04_18_e.html
2006年に発表された化学物質管理計画で約200の優先的評価物質を選び、そのうち一つがビスフェノールAだった。
評価の結果、予防的対応としてビスフェノールA暴露削減策を提案する。評価案では健康影響がある濃度は暴露量よりはるかに高く、ほとんどのカナダ人は心配する必要はないと結論された。但し新生児と乳児については、ビスフェノールAの影響への感受性が高いと結論した。新生児や乳児の暴露量は影響が出る量より低いが、安全側に対応した方が良いと考え、暴露量を減らすための対応を発表した。
もしパブリックコメント募集期間に新しい情報が寄せられなければ、ポリカーボネート哺乳瓶の輸入と販売と宣伝を禁止するつもりである。そのような対応を執るのはカナダが世界初であろう。
科学評価の結果ビスフェノールAは(新生児や乳児を除く)ほとんどのカナダ人にとって問題にはならないことから、ポリカーボネートの哺乳瓶は禁止するつもりであるがプラスチックのリユースビンや食器などは継続して使用できる。
また乳児用ミルクの缶のエポキシ樹脂については企業と協力してビスフェノールA暴露量削減を検討する。はっきりさせておきたいのは、缶詰乳児用ミルクを使うことの栄養的メリットはビスフェノールA暴露によるリスクをはるかに上回るということである。


ファクトシート
Bisphenol A
http://www.chemicalsubstanceschimiques.gc.ca/challenge-defi/bisphenol-a_fs-fr_e.html
一部抜粋
保護者向け助言
ポリカーボネート哺乳瓶を使う場合には、高温でビスフェノールAの溶出が早まるので熱湯で茹でないように。材質がわからない場合はリサイクルマークの中央の数字が7であるかどうかを確認する。7の脇にPCと記載があればポリカーボネート
お湯はぬるくなるまで冷ましてから哺乳瓶に入れること。
均等に加熱できないため赤ちゃんが火傷する可能性があるため電子レンジで加熱しないこと。
ヘルスカナダは6ヶ月までは母乳のみで育てることを推奨している。母乳が与えられない場合は缶入り乳児用ミルクを勧める。


Q & A
Questions and Answers for Action on Bisphenol A Under the Chemicals
Management Plan
http://www.chemicalsubstanceschimiques.gc.ca/faq/bisphenol_a_qa-qr_e.html
1. ビスフェノールAとは何か?
2. 何故政府はビスフェノールAについて調査しているのか?
3. ビスフェノールAの有害の可能性がある作用とは何か?

一部の動物実験で低用量のビスフェノールAが生まれて間もない時期の暴露で神経発達や行動に影響する可能性が示唆された。
ヘルスカナダの科学者はビスフェノールA乳がん前立腺がんや肥満に関連するとは考えていない。ヘルスカナダの科学者は新しい科学的根拠を評価し続ける。
4. カナダ政府の評価の結果は?
スクリーニング評価案ではビスフェノールAをカナダ環境保護法1999の定めるヒト健康や環境に「有害toxic」な物質に提案している。
この予備的評価では一般人は心配する必要はないとしている。問題としているのは新生児と乳児(18ヶ月齢以下)である。科学的根拠は暴露量は有害影響がある濃度より低いことを示しているが、影響のある可能性のある濃度が近いため政府は慎重を期して暴露量を減らしたいと考えている。
環境影響については低濃度のビスフェノールAは長期には魚や水棲生物に有害で ある可能性があることと現在下水から検出されていることを示している。
5. 新生児や乳児はどのようにしてビスフェノールAに暴露されるのか?
主な暴露源は以下のようである
・缶に入った液体乳児用ミルクに溶出
ポリカーボネートに入れた熱湯でビスフェノールAが溶出しそれを使って粉ミルクを溶かしたり直接乳児に与えたりする
6. 乳児用ミルク缶の塗装にビスフェノールAが含まれるなら、赤ちゃんにミルクを与えるのを心配しなければならないか?
保護者は新生児や乳児に缶入りミルクを与えることについて心配しべきではない。缶入りミルクからのビスフェノールAの暴露は少なく、乳児用ミルクの栄養上のメリットはリスクをはるかに上回る。ヘルスカナダは企業と協力して乳児用ミルク缶の塗装のビスフェノールAレベル削減に取り組み、代替技術を探す。
7. もしポリカーボネート哺乳瓶にビスフェノールAが含まれるのなら、使用を中止すべきか?
保護者はポリカーボネート哺乳瓶を使い続けることができる。赤ちゃんのビスフェノールA暴露を減らすための方法がある。
・哺乳瓶に熱湯を入れないこと。
・哺乳瓶にお湯を入れる場合はさましてから。
・乳児用ミルクの表示に従って哺乳瓶を殺菌したり洗ったりできる。ミルクを入れる前に冷ます。
・電子レンジで加熱しない。
8. ポリカーボネートの哺乳瓶に熱湯を入れなければリスクは少ないのだとしたら何故禁止を提案しているのか?
替わりのものが簡単に入手できるからである。
9.  ビスフェノールAの入ったポリカーボネートビンを識別する方法は?
10. ポリカーボネート哺乳瓶の代替品はあるか?それらは安全か?
代替品はいくつかある。ヘルスカナダの検査では市販の代替プラスチック哺乳瓶からはビスフェノールAは検出されなかった。ガラスの哺乳瓶も使える。
11. 再利用可能なプラスチック水ボトルや食器や食品容器について心配すべきか?
室温で液体中に溶出するビスフェノールAは少なく、心配する必要はない。
12. 缶飲料や缶詰食品を避けるべきか?
缶詰食品からの暴露量は健康リスクとはならず、避ける必要はない。
13.  ビスフェノールAが危険だというならそれを含む製品は捨てるべきではないのか?
捨てる必要はない。但し適切に使うように。
14. カナダ人をビスフェノールAから守るために政府はどうしているのか?
初めにビスフェノールA暴露量削減のために保護者に実践的助言を提供。
次にパブリックコメントで新しい情報がなければパリカーボネート哺乳瓶の輸入・販売・宣伝を禁止。
3番目に企業と協力して乳児用ミルク缶のコーティングからのビスフェノールA溶出削減のための服務規程を作成。
4番目に企業による缶コーティング剤の代替品の安全性評価を援助
5番目に乳児用缶のビスフェノールA溶出基準を厳しくする
15. カナダ政府が有害であるとみなす物質を含む製品を使い続けるカナダ人には政府は何を薦めるか?
「有害toxic」というのはカナダ環境保護法1999で使用されている用語である。これに分類されると保健大臣や環境大臣リスク管理対策を行う。
16. もし魚にビスフェノールAが検出されたら食べても安全か?
魚にビスフェノールAが検出されたという報告はヨーロッパで極僅かあるだけである。カナダで販売されている魚のビスフェノールA濃度についてのデータはないが、ヨーロッパでの研究報告を考えると魚からの暴露は健康リスクとはならない。
17. 米国NTPの最近の評価はヘルスカナダの結論案と同じか?
結論は極めて似ている。いずれも発達初期の神経と行動への影響について幾分かの懸念を同定している。
NTPは他に前立腺や乳腺や女性の思春期早発についても幾分かの懸念があるとしているがヘルスカナダはこれらのデータは結論を出すには不確実性が高すぎると考えた。
NTPもヘルスカナダもこれらの研究は限られた根拠しか提供せず、ヒト健康影響との関係を理解するにはさらなる研究が必要だと指摘している。
18. 私はポリカーボネートの食品容器や食器を使うことを心配しなければならないか?
一部の食器や容器はポリカーボネート製である。使う温度ではこれらの製品からのビスフェノールAの溶出は最小限である。加熱により溶出が増加するかどうかについてはさらなる研究が必要である。心配ならガラスなどの代替品は容易に入手できる。


評価案
Phenol, 4,4' -(1-methylethylidene)bis-(Bisphenol A)
http://www.ec.gc.ca/substances/ese/eng/challenge/batch2/batch2_80-05-7_en.pdf
カナダにおけるビスフェノールAの暴露は食品由来(食品包装からの溶出、再利用ポリカーボネート容器からの溶出)、環境由来(大気、室内空気、飲料水、土壌、ダスト)、消費者製品使用およびその他由来である。主な暴露源は食事由来である。カナダの一般人の暴露推定は0.08-4.30 microg/kg体重/日である。最も高濃度に暴露されている乳児の推定暴露量は0-1ヶ月齢で平均0.50(最大4.30)microg/kg体重/日で、12-18ヶ月で平均0.27(最大1.75)microg/kg体重/日である。ヒト健康リスクにとって最も重要な影響は生色発生毒性である。齧歯類における神経発達及び行動への影響に関するデータが、極めて不確実性の高いものであるが、暴露量と同程度か、暴露量より1-2桁高い用量での影響の可能性を示唆している。トキシコキネティクス及び代謝のデータから妊娠女性/胎児と乳児で感受性の高い可能性があること、齧歯類で発達段階による感受性の高い時期の存在が示唆されることからリスクを記述するのに予防的アプローチを採用するのが適当であろうと考えられた。従ってビスフェノールAはある条件・ある濃度・量で環境に入ればカナダ人の健康に危険となる可能性のある物質と見なすことを提案する。



缶入りの乳児用ミルクは、そのまま飲ませることができる液体が缶に入っているもの。
日本では粉ミルクしか見ない。粉ミルクが缶に入っていても問題にはならないと思う。

カナダ政府案は哺乳瓶のみを対象にしているが、市場は既に成人用製品についても「危険なビスフェノールAを使っていません」と宣伝する商品に追い風となっている。リスク判定としてはNTPより安全側だったのに念のための予防的措置であるなどという説明は消費者には届いていないようだ(というかメディアは伝えていないようだ)。
http://www.cbc.ca/canada/manitoba/story/2008/04/18/bpawatercoolers.html