食品安全情報blog過去記事

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偉大なるシャワーカーテンの恐怖

The Great Shower Curtain Scare
June 30, 2008
Dr. Joe Schwarcz
http://www.acsh.org/factsfears/newsID.1171/news_detail.asp
最近電話や電子メールの問い合わせが絶え間ない。大抵は最近の恐ろしいニ ュース報道でパニックになった消費者がどうしたら全ての「化学物質」(しば しば彼らはこの単語を毒と同じ意味で使う)を避けることができるか知りたくなってのものである。
私は彼らに、シャワーの時に心配すべきなのはポリ塩化ビニル(PVC)製のシャワーカーテンから放出される化学物質への暴露ではなくて滑って転ぶことのほうである、と話す。私はリサイクル用の同定番号1、3、6、7などと記されたプラスチック製品を私の生活から排除しようとは思わないし、シャワーキャップ をかぶらなければならないとしてもその健康影響を心配することはない。私は 墓地で育ったニワトコの実から隣人がワインを作っても心配しない。詳しく説明しよう。
最初にシャワーカーテンの恐怖について。この話は米国の活動家団体「健康と環境と正義のセンター(CHEJ)」の発したものである。
CHEJはPVC製のシャワーカーテンについて調査を行い、その結果が北米中のメデ ィアで報道された。PVCシャワーカーテンから108の揮発性有機化合物が放出さ れるという結果だったからである。これが何故ニュースになるのかは私はわか らない。カップ1杯のコーヒーは1000以上の揮発性物質を放出する。CHEJの言い 分ではシャワーカーテンから放出される物質のうちのいくつかはEPAが有害大気汚染物質と分類している。でも御存知?コーヒーに入っているフルフラールやスチレンやカフェ酸でも同じことが言える。でも我々はコーヒーショップを閉鎖せよとか他人のコーヒーの香りから人々を守れとは言わない。
暴露はハザードと同じではない。シャワーカーテンから放出される化学物質が 我々に有害であることを示すには空気中にどれだけあるかについてのさらなる 根拠が必要である。CHEJはこれらの物質が意味のある量我々の身体に吸収されるかどうか調査しただろうか?していない。CHEJはそのような化合物が我々の 身体に吸収されたらどのように分布して代謝されて排出されるか調べただろう
か?調べていない。吸収・分布・代謝・排泄(ADME)は毒性学にとって重要な項目である。このような項目が考慮されていないリスクについての主張は無意味である。
CHEJは自然の空気の中にどのような化学物質が存在するか調べただろうか?調べていない。実際今日の洗練された分析技術では天然由来及び人工の無数の化合物が空気中に存在することがわかるだろう。これらは車の排気ガスや燃焼、香水、洗浄剤、塗料、花、木、アスファルト、食品、下水、汗、調理、そしてもちろんシャワーカーテン等に由来する。人間が排出するものもある。我々の腸内ガスは極めて有毒な硫化水素を含む数十もの揮発性化合物を含む。それで全体として無数の化合物に暴露されていることから考えて、シャワーカーテンだけが特に目立ったリスクになるだろうか?いや、ならない。シャワーを使うときに水から蒸発する塩素化合物の方が多いであろう。
PVCシャワーカーテンはフタル酸類と呼ばれる化合物を添加することで柔軟性が与えられている。一部のフタル酸類はホルモン様の作用があるとして小さい子どもが口に入れるおもちゃなどでは使用が禁止されている。CHEJの調査でフタル酸類も検出されているがそれは驚くことではない。しかしこの調査では技術的問題からこれらが空気中に放出されるかどうかはわからないし、さらにほとんどの人はシャワーカーテンを食べる習慣はない。
(以下シャワーキャップやポリカーボネートの話が続く)
ニワトコの実についてはどうか?この話は我々の生活に浸透した恐怖の雰囲気を照らし出すものだ。ある婦人が隣人が自家製のニワトコのワインをこぼしたのを見て心配したのだ。何故かというとそのニワトコの実は墓地の茂みから採ったもので、墓地は死体の防腐処理に使われた化学物質で汚染されている可能性があるからだ。彼女の家庭菜園がその毒素で汚染されただろうか?そんなことはない。
我々が「化学物質の海」の中で生活しているということに関する恐ろしい話の多くは極端に誇張されていて、その恐怖によるストレスは現実のものである。 その結果人々は生活を忘れ死ぬことを恐れる。ニュースで報道されているシャ ワーカーテンから放出される微量の化学物質について心配すると生活は良くな るのだろうか?だから深呼吸してリラックスしよう。もし自分が吸っている何兆もの分子のことが心配でたまらないのなら暖かいシャワーをあびて落ち着こう。でも実際のリスクである滑り止めのためのマットは忘れずに。そしてそのマットがPVCでできているからという幻のリスクについては心配しないように。