食品安全情報blog過去記事

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リスクの伴う商売(Guardianより)

Risky Business (from the Guardian)
By Henry Miller
July 11, 2008
http://www.acsh.org/healthissues/newsID.1711/healthissue_detail.asp
水道水に含まれる微量の化学物質や家の中の一酸化炭素が心配ですか?心配しないで。アヒルのおもちゃやプラスチックのボトルから農薬やフレンチフライまで、世界は致死的なハザードに溢れているように見えるかもしれない。しかしそれらの警告の多くは完全にインチキだったり無視できるほど僅かなリスクだったりする。
さらにそれらを避けるためや改善のために支払われる注意や間違った(そしてしばしば非常に高コストの)対応は、もっと重要なリスクからの注意をそらしたり資源を無駄遣いしたりしてそれ自体が有害であることがある。
食品中の合成トランス脂肪酸のことを考えてみよう。この部分硬化油は、血中の「悪い」コレステロールを増やす飽和脂肪の摂取量を削減するために広く使われるようになったのだ。1980年代に、トランス脂肪はより健康に良い脂肪と謳われていたのだ。しかしその後の研究でトランス脂肪は実際には飽和脂肪より良いことはなく、恐怖を利用する者たちは態度を一変させた。今やトランス脂肪はアメリカ人の食事中の最も悪い成分であるとレッテルを貼られて(これも大げさである)、ニューヨークのレストランから追放された。しかし20年前には多くの人がトランス脂肪を含むスプレッドを選んでいたのである。
リスクの間違った受け止め方のもう一つの例はアクリルアミドである。この有用な工業用物質は食品を高温で調理した場合に自然に生じる。従ってこの物質はヒトが食べ物を調理して食べるようになった時からずっと我々の食事の成分だった。我々が食品中にこれが存在するのを知ったのはごく最近のことであり、大量に動物に食べされるとがんができることから、揚げた食品に警告表示を求める動きがある。しかし食品中のアクリルアミドがヒト健康に有害であることはまだ示されていない。
さらにほとんど根拠無く現在健康上の脅威と言われているのがビスフェノールAである。大量に与えると動物に悪影響があり、プラスチック製品から微量が溶け出すためメディアで乳幼児への危険が盛んに宣伝されている。
化学物質に関する論争は別のところでも激化している。2003年にEUの健康消費者保護研究所がDINPのリスク評価を行った。結論として「衣料や建材やおもちゃなどの消費者製品の最終製品のDINPや食品や包装容器などに由来する暴露量は消費者のリスクとはならない」と結論した。しかしリスク評価とは別に政治家はこれを過剰規制し、2005年にDINPや関連化合物の子ども用おもちゃへの使用を禁止した。
しかしこのリスクは現実的ではなく正確でもなく、立証されていない。もしがんや先天障害や精子数の低下やアルツハイマー自閉症やその他の原因と疑われる化学物質は全て禁止すべきだとするなら、天然物を含め世界中のほとんどの物質を禁止しなくてはならない。
不幸なことに恐怖は実際注意をひきつける。彼らは出版物を売ったりテレビの宣伝に注目させたりする。そして政治家は言うまでもなく多くのジャーナリストや編集者は科学的根拠などどうでもいい。恐怖の物語は何度も何度も繰り返され、ついには一般的な見方となる。
継続する警告や警報は実際に問題となる健康上の脅威についてはほとんど何も教えてくれない。リスクの専門家はしばしば皮肉を込めて作り話をする−ミシガン湖のビーチにいる男性が誰かがサメが来ると言うのを聞いて、ビールを6缶急いで飲んで煙草に火をつけてシートベルトを締めずにツルツルになったタイヤの重心の高いスポーツ用多目的車で猛スピードで逃げる。(ところで五大湖にサメはいない。)
何を心配すればいいのかはどうやって知ることができるだろうか?消費者のこの質問について答える新しいインタラクティブウェブソースにACSHの作ったRiskometerがある。
これでがんの死因の大きなものは喫煙であることがわかる。煙草が原因で死ぬヒトは2002年は771人に一人、肥満や事故は約2800人に一人、一方クリーニングの溶剤パークロロエチレン(PERC)や飲料水中のヒ素が原因で死亡するのは600万人に1人で概ね虫に刺されて死ぬのと同じくらいである。このような小さいリスクであっても法律はPERCの使用を禁止した。
このような間違った理解は社会のリソースを無駄にする。EPAの有害物質がある場合の埋め立て処分規制では、毎年地下水汚染によるがん0.22症例と大気汚染による0.037症例、すなわち4年に1人のがん患者と約2000万ドルの経済的被害を防ぐために約2億600万ドルの費用をかけている。
Riskometer
http://riskometer.org/

Henry Millerは医師で分子生物学者でスタンフォード大学Hoover Institution の特別研究員。著書に「化け物食品(フランケンフード)の神話:反対運動と政治がどのようにしてバイオテクノロジー革命を脅かしたかThe Frankenfood Myth: How Protest And Politics Threaten The Biotech Revolution」(2004年)がある。GM技術による乾燥耐性品種などの開発で食糧危機を緩和する夢が根拠のない反対運動により邪魔されているというような話。