食品安全情報blog過去記事

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哺乳瓶の化学物質と疾患の関連

ScienceNOW
Baby Bottle Chemical Linked to Disease
By Erik Stokstad
16 September 2008
http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2008/916/3?etoc
哺乳瓶や飲料容器に含まれるよくある化学物質であるビスフェノールAが糖尿病と心疾患リスク増加と関連することが主要疫学研究で初めて示唆された。この知見はFDAがこの物質の健康リスク評価案を評価するための科学レビュー委員会の会合と同じ日に発表された。
ビスフェノールAの影響については実験室での多くの研究が行われているが、その結果は一貫していない。懸念理由はエストロゲン受容体と弱く結合するためで、一部の研究者が齧歯類で生殖や発育などに悪影響があると主張しているがそれを否定している研究者もいる。
英国のPeninsula Medical Schoolの疫学者で医師のDavid Melzerらのチームが、米国CDCのNHANES調査のデータを調べた。90%以上の人は尿中からBPAが検出されている。Melzerらは2003年と2004年の1455人の成人のBPA濃度と健康状態を調べて、上から1/4のレベルの人が、下から1/4のレベルの人と比べて2型糖尿病と心疾患リスクが2倍であるとJAMAに発表した。Melzerは糖尿病との関連は動物実験BPAインスリンの関連についての知見があるので意味があるが心疾患については驚いたと述べている。尿中濃度から大まかに推測して、この調査の対象となった成人は現在FDAが安全としている一日摂取量50 microg/kg体重より少ない量しか摂っていない。
この研究はFDAのヒヤリング当日に発表された。先月発表されたFDABPA評価案を6人の科学者が評価した。この評価案ではFDAは主に大学で行われた多くの動物実験を規模が小さすぎる、一致していない、信用できないと却下し、現状の規制値は適切であるとしている。
JAMAの論文については評価案には含まれておらず、評価委員会のメンバーはこの知見に懐疑的である。心血管系生物学者であるGarret FitzGeraldは、「この論文ではたった79人しか心疾患と診断されておらずサンプルサイズとして小さすぎる。この論文が人々にBPAが心疾患と糖尿病の原因だというメッセージを伝えることを懸念している」と述べている。
環境団体はFDA評価委員会にJAMAの論文を検討して安全レベルを再計算することを要求している。それは簡単なことではない。評価委員会FDAの科学委員会に10月31日までに報告する予定である。



FDAの資料は以下
Food and Drug Administration Science Board Subcommittee
September 16, 2008
http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/08/briefing/2008-0038b1_01_00_index.htm
vom Saal博士から直前まで資料提供があったようだ。
結果はまだのようだ


・問題の論文
成人の疾患と検査値異常と尿中ビスフェノールA濃度の関連
Lang, et al. JAMA. 2008;300(11):doi:10.1001/jama.300.11.1303
Association of Urinary Bisphenol A Concentration With Medical Disorders and Laboratory Abnormalities in Adults
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/full/300.11.1303
2003-2004年のNHANESデータを用いて、米国一般人の尿中BPA濃度を横断解析した。尿中BPAクレアチニン濃度が測定されている18才から74才の1455人が対象となった。
BPA濃度の高さは心疾患とオッズ比1.39; 95% CI, 1.18-1.63; P = .001で、糖尿病とはOR 1.39; 95% CI, 1.21-1.60; P < .001で関連したが他の良くある病気とは関連しなかった。
男性694人女性761人でBPA濃度はそれぞれ平均4.53 (3.98-5.08)、 4.66(3.67-5.65)ng/mL。
表1からは年齢とBMIに関連することがわかる。
心疾患と診断されているのは1272人中79人、糖尿病は1455人中136人。


エディトリアル
Bisphenol A and Risk of Metabolic Disorders
Frederick S. vom Saal; John Peterson Myers
JAMA. 2008;300(11):1353-1355
vom Saal博士だから煽ってる。


vom Saal博士の言い分
Expert urges FDA to take action to reduce BPA exposure http://www.eurekalert.org/pub_releases/2008-09/uom-euf091608.php
vom Saal博士らがBPAは危険だと確認してきたにも関わらずFDAやEFSAやその他の政府機関は我々の言い分を無視してきた。これ以上の証拠は要らない、BPAは減らすべきだ。
(研究の主題は生殖器への影響だったんじゃないの?BPAが悪いと言えるならどんな影響でもいいのかな?)


J・AMAに発表されたBPAの研究についてのNAMPAの声明
North American Metal Packaging Alliance (NAMPA)
Statement of NAMPA Regarding JAMA-Published Study on BPA
September 16, 2008
http://www.metal-pack.org/docs/pdf/00036099.PDF
BPAは速やかに尿中に排泄されるので、単一時点での尿中濃度が慢性疾患と直接関連するとは考えられない。著者自身もさらなる研究が必要だと述べている。