食品安全情報blog過去記事

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貝類の海洋性バイオトキシン サキシトキシングループ

Marine biotoxins in shellfish Saxitoxin group
17 April 2009
http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1211902452476.htm
サキシトキシン(STX)グループの毒素は、世界各地のカキやイガイやホタテやアサリなどのろ過摂食性の二枚貝から検出されている極めて類似したテトラヒドロプリン類である。それらは主にAlexandrium tamarensis、A. minutum (syn. A. excavata)、A. catenella、 A. fraterculus、 A. fundyense 、A. cohorticula.などのAlexandrium属の渦鞭毛藻類が作る。STXグループの毒素はヒトには、唇の周りのちくちくした感じや無感覚から致死的呼吸器麻痺までの多様な症状が特徴の麻痺性貝毒中毒(PSP)を引き起こす。致死的呼吸停止症例はSTXグループ毒素を含む貝類を食べて2-12時間でおこっている。30以上のSTX類似体が同定されているが、そのうちSTX、 NeoSTX、 GTX1及びdc-STXが最も毒性が高いようだ。
STXグループ毒素の毒性学的データは限られていて主に腹腔内投与による急性毒性データである。モニタリングにはHPLCを用いて検出された類似体に毒性等価指数(TEF)を適用してSTX当量が用いられている。よりよい情報が入手できるまで、CONTAMパネルはマウスにおける急性毒性に基づく以下のTEFを提案する: STX = 1、 NeoSTX = 1、 GTX1 = 1、GTX2 = 0.4、GTX3 = 0.6、 GTX4 = 0.7、 GTX5 = 0.1、 GTX6 = 0.1、 C2 = 0.1、 C4 = 0.1、 dc-STX = 1、dc-NeoSTX= 0.4、 dc GTX2 = 0.2、 GTX3 = 0.4及び 11-hydroxy-STX = 0.3。
入手できる情報から、STXグループ毒素は電位依存性ナトリウムチャンネルに結合してこのチャンネルを介したイオン透過性を阻害することがこの毒素の神経や筋繊維での主な作用メカニズムであると結論できる。
ヒトや動物でのSTXグループ毒素の慢性影響についてのデータはないため、 CONTAMパネルはTDIを設定できない。急性毒性の観点からARfDを設定することにした。500人以上のヒトでの中毒事例から、LOAELは1.5 μg STX 当量/kg b.w. となる。このLOAEL以上の摂取量で何の症状もないヒトが多いことから、この値は感受性の高い個人における影響が出る閾値に近い。従ってNOAELとしては係数3で十分で0.5 μg STX 当量/kg b.w.をNOAELとする。この数値は感受性の高い人を含む多数のヒトでのデータによるため、追加の個人差のための係数は必要ない。従ってSTXグループ毒素のARfDは0.5 μg STX 当量/kg b.w.とした。
STXグループ毒素による急性影響から保護するためには、健康リスク評価の際に長期間の平均摂取量より大摂食量を使うことが重要である。EO全体での貝類の摂食量データは限られているため、EFSAは加盟国に相当する貝類の消費量に関する情報提供を求めた。加盟国から提供されたデータに基づき、CONTAMパネルは海洋性バイオトキシンの急性リスク評価には大摂食量として400g貝の身を使うことにした。
現在のEUの規制値800 microg STX 当量/kgのSTXグループ毒素を含む貝の身を400g食べるとすると摂取量は320microg 毒素 (体重60kgの成人で5.3microg/kg b.w.に相当)になる。この値はARfD 0.5 μg STX 当量/kg b.w.(体重60kgの成人で一回30microg)より相当多いため、健康上の懸念となる。
体重60kgの成人が貝を400g食べてもARfDを超過しないためには、400 gの貝の身に30 microgのSTX 当量、すなわち75 microg STX 当量/kg以上の貝毒を含んではならない。
毒素の組成には相当な違いがあること、分析法による定量限界や分析できる類似体が多様なこと、定量できない検体が多いことなどを考慮すると、EU諸国におけるSTXグループ毒素の食事からの暴露量推定には不確実性が多すぎる。さらに各種分析法の抽出段階で用いられる酸性条件の違いがSTX類似体のより毒性の低い類似体への変換率の違いをもたらす。従ってCONTAMパネルは現在市販されている貝を食べることによるリスクについてはコメントできない。
家庭での調理による水分の消失でSTXグループ毒素は身から調理液に移行する。 ロブスターの肝膵では40-65%のSTXグループ毒素の減少が観察されている。一部の類似体は他の類似体より減りやすいことが示唆されている。STXグループ毒素は調理に使うような温度(約100℃)では熱に安定である。オートクレーブのようなより高温での加工(115-120℃)では最大90%まで減少する。この減少は一部は流出、一部は分解であろう。しかしながらCONTAMパネルは入手できる情報から商用加工による変換や分解について確実な結論を出すことは困難であると結論した。
EUではSTXグループ毒素の検出にはマウスバイオアッセイ(MBA)とAOAC HPLC法(いわゆるローレンス法)が使用されている。いずれの方法も国際的プロトコールにより検査室間認証されたものである。これらの方法では現行のEU規制値800microg STX 当量/kgの毒素を検出することができる。MBAでは検出限界は約370microg STX 当量/kg 貝の身である。ローレンス法は毒素の組成により定量限界が異なるが、個別のSTX類似体については10-80 microg STX当量が定量限界である。STXグループ毒素の規制値を厳しく引き下げるには定量限界を引き下げるためのローレンス法の改良とその後の検証が必要である。MBA法ではSTXグループ毒素の抽出に塩酸での加熱を用い、ローレンス法では酢酸で加熱している。このような抽出方法の違いが検出される毒素の組成やSTX当量で表した場合の量の違いにつながっている可能性がある。他の検出方法としては、受容体ベースの分析法、抗体を用いる方法、LC-MS/MSなどがある。分子生物学的方法はスクリーニングにのみ適する。確認分析にはLC-MS/MSが使える可能性がある。いずれの方法も公式に検証されておらず、公式法に比べた性能評価はできない。