食品安全情報blog過去記事

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EFSAは食品中のヒ素を評価

EFSA assesses arsenic in food
22 October 2009
http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1211902968626.htm
EFSAのCONTAMパネルは食品中の汚染物質としてのヒ素による健康リスクについての意見を発表した。
CONTAMパネルは食品や飲料から摂るヒ素の量と健康影響のある可能性があるヒ素の量を比べた。この2つの間には全く、あるいはほとんど差がないため、CONTAMパネルは一部の人々に健康リスクがある可能性を排除できなかった。結果的に、CONTAMパネルは有害性の高い無機ヒ素の食品中濃度は削減することを薦める。
しかしながらそのリスク評価には不確実性があることも強調した。健康影響のあるヒ素摂取量や各種食品中の無機及び有機ヒ素濃度についてさらなるデータが必要である。
ヒ素は天然にも人工由来でも広く存在する汚染物質である。化学形は多様で、 無機と有機がある。ヨーロッパの一般人にとっては食品が主な暴露源である。
EFSAの意見は主に地質学的に由来して地下水に含まれる無機ヒ素に焦点をあてた。無機ヒ素の長期摂取は皮膚の傷害や心血管系疾患や一部のがんなどの健康問題と関連する。
食事全体からの暴露量に主に寄与するのは穀物ベースの製品、海藻のような特別な食品、ボトル入り水、コーヒー、ビール、米及び米製品、魚、野菜である。

  • 食品中のヒ素についての科学的意見

Scientific Opinion on Arsenic in Food
22 October 2009
http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1211902959840.htm
データの要請に応えて、ヨーロッパ15ヶ国から10万件以上の各種食品中ヒ素濃度データが提出された。2/3は検出限界以下であった。約98%が総ヒ素として報告され分子種まで調査したのは僅かであった。ヒ素濃度が高かったのは魚やシーフード、海藻特にヒジキ、穀物特に米、ふすま、胚芽である。食品の加工、温度、時間により総ヒ素濃度やヒ素の分子種に違いが出る。調理水に含まれるヒ素含量が特に重要なようである。
データが乏しいためCONTAMパネルは各食品の無機ヒ素と総ヒ素の割合を評価できなかった。従って推定のためにいくつもの仮定を行った。すなわち、魚やシーフード以外の食品については無機ヒ素の割合は総ヒ素の50-100%、全体の平均としては70%と推定した。魚やシーフードについては無機ヒ素の割合は少なく種類によるが、推定値として魚は0.03 mg/kg、海藻は0.1 mg/kgという固定値を用いた。
上述の仮定のもとに19ヨーロッパ諸国の食品からのヒ素摂取量は、平均で0.13− 0.56 µg/kg体重/日、95パーセンタイルで0.37−1.22µg/kg体重/日となった。国による違いは食生活の違いにより2-3倍だった。
ヨーロッパでは一部の民族集団などの米を多く食べる集団で1µg/kg体重/日、 海藻を多く食べる場合には4 µg/kg体重/日と推定される。ベジタリアンと一般人では、海藻を多く食べない限りあまり差はない。
無機ヒ素の暴露量が最も多いのは3才以下の子どもである。2つの研究では推定暴露量は0.50−2.66µ g/kg体重/日となる。米ベースの食品を食べる3才以下の子どもの無機ヒ素暴露路量は成人の2-3倍と推定される。この推定には米ベースのミルク代用品は含まれていない。
食事からの暴露量に比べてその他の暴露量は小さい。
ヒ素代謝や毒性には種差、集団差、個人差が大きい。動物とヒトでは違いが大きいため動物実験をもとにリスクキャラクタリゼーションはできない。
ヒトにおいては、可溶性無機ヒ素は速やかにほぼ完全に吸収される。有機ヒ素の吸収率は概ね70%以上である。吸収されたヒ素は広く全ての臓器に分布し胎盤を通過する。ほ乳類における無機ヒ素の生体変換は5価のヒ素から3価のヒ素への還元や3価のヒ素のメチル化などを含む。
CONTAMパネルはJECFAがPTWI 15µg/kg体重を設定しているものの、新しいデータで無機ヒ素の皮膚の他に肺や尿路への発がん性が確立されたことやさらに低い濃度での各種有害影響が報告されていることからこの値は適切ではないと結論した。
ヒトでの無機ヒ素の長期摂取による有害影響として報告されている主なものは、皮膚傷害、がん、発達毒性、神経毒性、心血管系疾患、グルコース代謝異常、糖尿病などがある。神経毒性は主に急性暴露で報告されている。低濃度のヒ素暴露による心血管系疾患と糖尿病については結論は出せない。発達毒性については用量相関や臨界暴露時期などについてさらなる検討が必要である。
従ってがんについてのデータを採用した。全ての研究で食事からの総暴露量については測定されておらず、多くが指標として飲料水中ヒ素濃度を使用している。CONTAMパネルは重要な疫学データから容量反応モデルを作成し1%のリスク増加をベンチマークとしてBMDL01を計算した。最も低い値が得られたのは肺がんについてであり、規模は小さいがアジアの田舎のデータよりヨーロッパの集団に近いと考えられた。一方皮膚の傷害については規模も大きく一貫したデータが出ており信頼性は高いが、アジアの地方でのデータであり栄養状態などに影響されている可能性もある。そこでCONTAMパネルは0.3− 8 μg/kg体重/日という幅のある値を採用すべきであると結論した。
CONTAMパネルは無機ヒ素が直接DNAに結合するわけではなく、発がんメカニズムとしては酸化的ストレスやエピジェネティックな影響、DAN傷害の修復過程への干渉など多数が提案されており、それぞれ閾値のあることが想定される。しかしながら用量反応関係の形が不確実であることなどを考慮して、ヒトデータから健康リスクのない値、すなわちTDIやTWIを設定するのは不適当であろうと考えた。従って評価は暴露マージンとして行った。
ヨーロッパ人の無機ヒ素への平均及び高レベル暴露量は上述のBMDL01の範囲内であり、従ってMOEはほとんど又は全くなく、一部の消費者においてリスクがある可能性は排除できない。米をたくさん食べる集団や海藻をたくさん食べる集団は暴露量が多い。これらの集団における推定暴露量もまたBMDL01の範囲内である。母乳やEU規制値内の水で作った牛乳ベースのミルクを飲んでいる6ヶ月齢以内の乳児の無機ヒ素暴露量は低い。子どもの暴露量は成人より多い。しかしながら影響は長期暴露によるもので推定暴露量がBMDL01の範囲内であることから、必ずしも子どもにリスクが高いことを意味しない。
魚やシーフードの主要成分である有機ヒ素、アルセノベタインは毒性学的には問題はないと見なされている。アルセノ糖とアルセノ脂質はヒトでは主にジメチルアルシン酸に代謝されるが毒性に関する情報はない。その他の有機ヒ素化合物についてヒト毒性データはない。データがないため、アルセノ糖、アルセノ脂質、メチルアルソン酸、ジメチルアルシン酸については検討対象としなかった。
CONTAMパネルは無機ヒ素の食事からの暴露量は削減すべきと助言する。無機ヒ素のリスク評価をさらに精細化するためには健康影響の用量反応データと食事からの暴露量評価のための食品中の分子種別のデータが必要である。

(予想通り厳しい。Myヒ素論文はしっかり引用してあった。ヒジキご飯は真っ先に排除すべきメニューということになるけど。妊婦のマクロビなんてとんでもない、と。)