食品安全情報blog過去記事

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Lancetから

  • 科学ジャーナリズム:繊細な綱渡り

Science journalism: a delicate balancing act
The Lancet, Volume 378, Issue 9789, Page 374, 30 July 2011
最近のメディア企業のスキャンダルにも関わらず、報道が人々の意見に大きな影響をもち続けている。科学についてのメディア報道は、政策同様個人の健康や環境に影響しうる。英国ではBBCが重要な科学ニュースや情報源で、その名前は質の高い報道として世界に知れ渡っている。しかしその報道内容は公正だろうか?BBCトラストが委託しロンドン大学の遺伝学名誉教授Steve Jones博士が行った独立したレビューがこの点を精査した。
先週発表されたこのレビューは、BBCの科学報道は全体としては良いが、2010年に導入された「公平性配慮」をあまりにも厳格に科学にあてはめていると指摘している。「番組制作者は、科学報道においてはしっかり確立されている事実と意見を明確に区別しなければならない」と報告書は述べている。BBCはしばしば異端者や特定集団の見解に対して、きちんとした専門家の見解と同じように時間を与えすぎる。これはBBCだけの問題ではない。
公平なメディアはしばしば対立する意見を紹介しようとする。これは基本的に良いことのようにみえ、多くの場合適切であるが、科学については本当のバランスが存在しない限り間違いになりうる。正当な科学への反論は質の高い新しい根拠があれば歓迎されるが、メディアは根拠の確からしさを計って正確に科学を伝える義務がある。これは簡単なことではない。そのためには科学者の継続した支援と関与が必要であろう。

  • 減塩が心血管系疾患リスクを下げる:アウトカム試験のメタ解析

Salt reduction lowers cardiovascular risk: meta-analysis of outcome trials
The Lancet, Volume 378, Issue 9789 Pages 380-382
Feng J Hea and Graham A MacGregor
コクランライブラリーのRod Taylorらのレビューについて、プレスリリースの「塩の摂取量を減らすことは心血管系疾患や死亡には明確な利益はない」という発表は正しくない。
1つは、解析対象になっている7つの試験のうちひとつが強力な利尿薬と液体制限をした患者でのもので、減塩により結果が悪化するのは驚くべきことではない。この試験を除外すると減塩の効果は観察される。さらに有意差がなかった理由は高血圧者と正常血圧の人を別々に解析したため検出力が低くなったせいで、一緒にして再解析すると20%の心血管系イベント削減(p<0.05)となる。
Taylorらのプレスリリースはコクランの名声を損なうもので、英国のDaily Expressなどが「塩は食べても安全−健康ファシストは間違っていた」と報道しているように誤解を招くものである。総合的な根拠は、減塩にはメリットがあることを示している