食品安全情報blog過去記事

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本の紹介

無添加はかえって危ない

無添加はかえって危ない

この本の後書きを書いている編集の中野さんはFoodScinceのwebmasterでした。その時にも何度か、消費者を騙すことで儲けようという「無添加商法」に対して、なんとかしたいという想いを書いてました。この本はタイトルは「無添加はかえって危ない」ですが、読んでみた感想は「無添加は損する」です。経済的損失はつきつめれば人命の損失につながりますので、「危ない」でもいいのかもしれませんが、「食品添加物は危ない」系の本で書かれるような「危ない話」を期待して読むと期待はずれかもしれません。とても平易に書いてあるので、そういう「危ない」系の話が好きな人に読んで欲しくてわざとこういうタイトルにしたのかな、とは思います。
経済的側面から添加物、主に保存料について考えるというのがこの本のオリジナルな所でしょうか。以前地方の特産物の開発に携わっている方から、首都圏向けに製品を開発するのに地元の生産者の添加物は使いたくないという主張がネックになって製品が作れないという話を聞いたことがあります。首都圏で食品を販売するなら輸送にかかる日数などを考えても1週間程度は日持ちする製品を作りたいのですが、「無添加」と書きたいとなると、方法としては例えばフルオートメーションの最新工場で高度な衛生状態を保って作るとか生産から消費までコールドチェーンをつなげるとかになるわけですが、そんなお金はかけられない、とのこと。地方の特産品を作っているのはせいぜい数人の町工場ですから。結局「保存料は悪いものなのだから使えない」という間違った思い込みにより商機を逸しているし、首都圏の消費者にとっても地方の特産品を手軽に食べられるという選択肢が無いという「損をしている」わけです。
この本のなかに無添加で儲けている人の例として「講演料20万円」の阿部某さん(名指しされてはいませんがすぐわかります)が取り上げられていますが、例えば食品安全委員会では基本的に講師は謝金無しで派遣してくれます。http://www.fsc.go.jp/sonota/koushihaken.html
私や同僚が講師をする場合でも相手が地方公共団体なら通常無料です。もしどこかの市町村などがこの人を呼ぶとしたら、うその話に大金を払うということになりますから住民にとっては「損」ですね。
この本の最後の方に、わかりやすい正確な情報源としてこのブログを紹介して頂いているのですが、「わかりやすい」の方は申し訳ありませんが一般の人にとってはあまり当てはまらないかもしれません。もしこの本を読んで、ここのサイトに来た人がいたとしたらその点についてはごめんなさいと言っておきます。
著者の有路さんが「イクメン」をやって、自分の子どものことになるとこうも感情的になるものなのかと気がついたと書かれています。そこはとても大切なことで、多くの場合お母さんたちの不安や感情はお父さんたちがそれを共有してくれない、話を聞いてくれない、ことからこじれてしまったりするのです。お母さんだけに育児の全責任を押しつけるのは(意図的に引き受けているという側面もあるけれど)、不安商法に付け入るすきを与えてしまうことにもなります。そのへんも伝わってくれたらいいなと思います。