食品安全情報blog過去記事

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重要な加齢遺伝子に疑問

ScienceNOW
Study Casts Doubts on a Key Aging Gene
21 September 2011
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2011/09/study-casts-doubts-on-a-key-agin.html?ref=hp
何年もの間、加齢研究者たちは食餌制限無しでカロリー制限と同様の寿命延長効果を得る方法について夢見ていた。10年前に、あるグループがある種の遺伝子を活性化することでこれが可能だと主張し、これに新しい論文がその遺伝子は寿命に全く影響しないと冷水を浴びせた。
実験動物では普通の場合より30-50%のカロリー制限をすると概ね30%長生きすることが知られている。カロリー制限がどうやって寿命を延ばすのか?10年ほど前にあるチームが線虫で、この答えがSIR2遺伝子かもしれないことを示唆した。カロリーを減らすとこの遺伝子が活性化してタンパク質が作られ、それが長生きと関係するというわけだ。実際SIR2遺伝子を線虫の食事を抑制しないで人工的に活性化すると寿命が延びた。科学者がSIR2タンパク質の産生を誘導する錠剤を検討し始めたのは無理もない。そして企業はSIR2関連タンパク質(このファミリーはサーチュインとよばれる)の産生を刺激する薬物を、2型糖尿病などの加齢関連疾患患者で既に試験を始めている。
しかし昨年、10あまりの論文がSIR2とその他サーチュインをコードする遺伝子が本当にカロリー制限による加齢抑制に役立つのか疑問であるとした。
新しい研究はNatureに発表されたもので、SIR2が線虫やショウジョウバエで寿命を伸ばすのにあまり役に立たないことを示唆して、この疑いを強力にした。ロンドン大学のバイオ老年学者David Gemsは、SIR2タンパク質を過剰に発現する遺伝子組換え線虫を使って研究をし始めてからSIR2の役割を再考し始めた。彼の実験室で線虫を何回か正常線虫と交配させると、組換えSIR2を持っているにも関わらず長寿は消失した。
遺伝的に同一の線虫やハエを大量に作るのは難しいため、遺伝子組換え系統が対照群と違うのはその変異させた遺伝子のせいなのかその他の違いのせいなのかを確認するのは難しい。通常研究者は対照系統と何回か異系交配させることで確認する。異系交配により組換え系統と対照群は遺伝的により均一になる。
異系交配によりSIR2の長寿効果が消失するという最初の観察に続いて、Gemsは加齢におけるサーチュインの役割に疑問を持っていたワシントン大学Matt Kaeberleinとロンドン大学のLinda Partridgeとチームを作った。他の研究者も協力してSIR2を過剰発現する線虫やハエを最大6回異系交配させた。その結果、SIR2を過剰発現しているにもかかわらず寿命は変わらなかった。同時にPartridgeのチームはハエでSIR2を過剰発現させても寿命が長くならないことを発見した。
Gemsは加齢と食餌制限に関しては、SIR2と関連遺伝子は多分全く関係ないだろう、とGemsは言っている。
SIR2支持者は早まるな、という。10年前にSIR2と寿命の関連を見つけたMITのLeonard Guarenteは、最初の論文に間違いがあったことを認めつつも、Gemsの論文と同じ号のNatureに、長生き線虫にはDyfというもう一つの遺伝子に変異があって、これも長生きに関連するという短報を発表している。

Absence of effects of Sir2 overexpression on lifespan in C. elegans and Drosophila
Camilla Burnett et al.,
Nature Volume: 477, Pages:482–485 Date published:(22 September 2011)
http://www.nature.com/nature/journal/v477/n7365/full/nature10296.html

Natureでも
長寿遺伝子に疑問
Longevity genes challenged
Published online 21 September 2011
http://www.nature.com/news/2011/110921/full/news.2011.549.html
こちらではグラクソスミスクラインの声明を紹介。「下等生物でのこれらの論文はヒト健康や疾患におけるサーチュインの役割の理解には直接影響しない」
サーチュインの周辺では騒ぎが大きくかなり大げさな話も飛び交っていたため投資家の熱は下がるだろう、と。

(長めに紹介したのはレスベラトロールサプリメントに飛びつくのはまだ早い、ということ。NHKがヘンな報道したので)