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政策:化学物質リスク評価再考

Policy: Rethink chemical risk assessments
Natureニュース
Nature Volume:489, Pages:27–28 Date published:(06 September 2012)
http://www.nature.com/nature/journal/v489/n7414/full/489027a.html
米国EPAはリスク分析の迅速化と不確実性への対応が必要、とGeorge M. Gray とJoshua T. Cohenは言う
EPAが批判に晒されている。規制担当者などが使う化学物質の暴露によるヒトリスク値を開発しているEPAにとって最も重要なIntegrated Risk Information System (IRIS)が、その遅さと科学的欠陥について広く批判されている。このシステムはオーバーホールが必要である。
たとえば昨年NASEPAホルムアルデヒドの健康リスク評価が不適切だと酷評した。ダイオキシンなどの評価も同様に議論を呼んだ。2011年12月には議会が改善を指示しNASにレビューを求めた。しかし問題はIRISのプロセスより深刻である。
EPAのリスク評価が意志決定にとって不適切である理由は主に二つある。一つは結論を出すのに何年、何十年とかかるために多くの化学物質は評価されない。二つ目はその科学的信頼性がしばしば疑問である。EPAがデータを恣意的に選択していることと科学的根拠のギャップを埋めるための推定についてピアレビュー者から疑問が提示されている。NASEPAにリスク評価のための仮定をより正当なものに定量的にするよう助言されている。
我々(著者)はさらに多くのことが必要だと信じている。EPAはリスク評価へのアプローチを根本的に変える必要がある。最初により多くの化合物に対してより速やかに要約を作ることである。政策決定にはしばしば大雑把な推定でも足りることがあり、何もしないよりはましである。IRISは他の団体や個人や政府機関からの情報も取り入れて、データが少ない化合物については利用できる技術を使うべきである。2つめはEPAはリスクの推定には不確実性があることを知らせる必要がある。
問題の根本は過去にある
1970年にEPAが設立されてから環境規制への態度は変わってきた。1962年にRachel CarsonがSilent SpringでDDTによる環境への被害を告発して10年未満のこの時期にはアメリカ人は政府が保護する「リスクのない世界」を望んだ。EPAは注目された環境汚染物質による健康への脅威にはうまく対応してきた。ガソリンへの鉛使用禁止は子どもたちの血中鉛濃度を削減した。1970年代初期に導入された他の規制は二酸化硫黄や一酸化炭素などの大気汚染物質の量を減らした。
1990年代半ばまでには目立った環境問題はなくなり、EPAの進歩は停滞した。現在IRISのリスク評価は557あるが1995年以降年に一桁しか発表していない。リスク評価は論争の中に苦しみレビューに時間がかかるようになった。さらに悪いことにはEPAは既に評価された化学物質の再評価を優先している。
IRISの遅延は公衆衛生上の脅威である。IRISに載っていない化合物は載っているものより安全だと多くの人が考える。たとえばドライクリーニングに使われるパークロロエチレンはIRISに掲載されていて使用を段階的にやめていくことが勧められている。そのため一部のクリーニング業者はIRISに掲載されていない臭化n-プロピルに変えたが、こちらのほうがパークロロエチレンより健康リスクが大きい可能性があるという根拠がある。
もう一つの問題はこれまでにない低用量の、健康影響を観察するのが難しい暴露でのリスクを評価しなければならないということによる。EPA動物実験をもとに、二つの重大な仮定をしている:動物でみられたどのような有害影響でもヒトでおこる、動物実験で高用量でみられた影響は何桁も低い低用量まで外挿できる、である。NASが指摘したように、EPAはしばしば何故そのデータを使ったのか、低用量でのリスクをどう推定したのか説明できない。
我々の見解ではEPAが主張する「公衆衛生保護のため」の推定はデータが不足している場合にリスクを過剰に推定する間違いを犯している。たとえばダイオキシンについてはEPAは最悪ケースを想定し、可能性が排除できないという理由でダイオキシンは低用量でも発がん性があるとしているがWHOなどの他の機関はダイオキシンの細胞内動態研究から低用量ではがんの原因になることはありそうにないとしている。
このような過剰なリスク推定は過度に厳しい規制につながり機関の優先順位をかく乱する。
(以下略)