食品安全情報blog過去記事

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ヒ素と古米

Wellness Letter
Arsenic and Old Rice
Issue: January 2013
http://www.wellnessletter.com/ucberkeley/feature/arsenic-and-old-rice/#
ヒ素は天然や工業副産物に含まれる元素で、飲料水中に含まれると世界中の何百万人もの人々の重大な健康リスクとなっている。高用量では極めて毒性が高いが低濃度を長期間摂ると膀胱がん、肺がん、皮膚がんのリスクを高め、不妊、糖尿病や心疾患やその他の病気とも関連する可能性がある。しばしばバングラデシュなどのような途上国の主要問題とみなされるが、米国にもヒ素問題はある。実際200万人のアメリカ人がヒ素濃度の高い私用井戸水を飲んでいると推定されている。2012年には米やその他の食品に存在することが何度かニュースの見出しになった。
穀物の背景
9月にConsumer Reportsが223のコメ、白米や玄米、オーガニックや慣行栽培、国産や輸入、ブランド品、などの分析結果を発表した。またライスシリアルや飲料、パスタ、粉、クラッカーなどのコメ由来製品についても検査した。全ての製品からヒト発がん性のある無機ヒ素と毒性は低いものの懸念はある有機ヒ素の両方が、その多くが「懸念のある量」、検出された。有機ヒ素というのは化学用語で、オーガニック栽培とは関係ない。
濃度は大きく違い、世界中でいろいろな条件でいろいろな種類のコメが栽培されている。しかしいくつかの傾向はあって、米国の主なコメの産地であるArkansas、Louisiana、Missouri、 Texasのコメはカリフォルニアやインド、タイなどの他の地域のコメより総ヒ素と無機ヒ素濃度が高かった。また同じ品種のコメなら白米より玄米の方がヒ素が多い(精米の時に一部のヒ素が除去されるため)。9月に発表されたFDAによる200あまりのコメ製品の予備的検査の結果はConsumer Reportsの結果と同様で、まもなく約1000の結果が発表されるだろう。
またオーガニック玄米シロップもニュースになった。Dartmouth大学が5月にEnvironmental Health Perspectivesに発表した研究で、オーガニック玄米シロップを使って甘味をつけたシリアルバーや乳児用ミルクなどのヒ素濃度が高かった。この研究ではオーガニックと慣行栽培の玄米シロップを比べてはいないが、栽培方法により変わるとは思えない。
何故コメにヒ素が引きつけられるのか?コメは、特に水田で育てるとヒ素と土の結合が減り吸収しやすくなって、極めて効率的にヒ素を取り込むことがわかった。さらに米国の一部の綿栽培地域では、今はコメが栽培されているが、数十年前にヒ素を含む農薬が使われていてそれが土壌に残っている。石炭を燃やしたり、採鉱や精錬が行われたりといった土壌汚染源や一部のヒ素含有農薬、動物の飼料、肥料などもヒ素汚染源となる。
一部の野菜や果物、ジュース、ワイン、キノコ、鶏肉、海藻(特にひじき)などにもヒ素は含まれる。海藻を食べる魚にもヒ素が多いがほとんどの場合毒性の低い有機ヒ素である。2010年のEPAの研究では、食事からの無機ヒ素暴露のうち17%がコメで、果物やフルーツジュース濃縮物が18%、野菜が24%である。もちろん、コメをたくさん食べると総ヒ素暴露に占めるコメの割合はもっと高くなる。ヒ素は他にミネラルウォーターやホメオパシー製品、アーユルベーダで使われるハーブなどにも含まれる。
コメのリスクは?
コメのヒ素濃度は心配な量だろうか?言うのは難しい。飲料水のようなヒ素基準は食品にはない(皮肉なことに食品安全性水準が低い中国が食品中のヒ素基準をもつ唯一の国である)。2001年にEPAは水のヒ素基準を1975年の50ppbから10ppbに大幅に引き下げたが、それでも高すぎると一部の専門家は言っている。EPAは先により厳しい5ppbという案を提案している(ニュージャージーしか従っていない)。
Consumer Reportsの検査では多くのコメ製品が5ppbの水を1L飲むことで摂る量を超えている。一方でコメのヒ素が飲料水のヒ素と同じリスクかどうかはわからない。なぜなら人体での吸収や代謝が異なるだろうから。全てのデータを解析して、FDAが何らかの決定をするだろうが、何年も先になるかもしれない。それまでの間、FDAはコメを避ける必要はないと言っているが、多様な穀物を食べるようにとも助言している。
大局的に見る
我々は食品や水や大気から、常に微量のヒ素に曝されている。何世紀にもわたって、ヒ素は医薬品や化粧品に使われ、一部の動物では生理的機能も有する。コメが無機ヒ素の大きな摂取源であるとしても、多くの食品には何らかのリスクがあり、勧められるのは、特定の食品に存在するかもしれない特定の有害物質の暴露量を減らすことになる、多様な食品を食べることである。
長期的には、ヒ素問題の解決はヒ素濃度の少ないコメを作る企業の努力(少ない水で稲を育てる、ヒ素の取り込みの少ない品種を作る、土壌からヒ素を取り除く、など)と政府による食品や飲料のヒ素基準設定によるだろう。
Consumer Reportsは検査結果に基づき成人は週に2-3サービング以上のコメ製品を食べるべきではないとしている。子どもたちは体が小さくヒ素毒性の影響を受けやすいので5才までは週に1から1と1/2までに止め、乳製品の代わりにライスミルクを飲まないこと、乳児は乳児用ライスシリアルを1日に1サービング以上食べてはならないとしている。我々は成人がそのような厳しい制限に従う必要はないと考えるが、もしコメをたくさん食べるのであれば、以下の方法でヒ素暴露量を減らすことができるだろう。
・パスタを調理するときのように大量の水を使ってコメを料理する。大量の水で茹でてゆであがったら水を捨てる。
・カリフォルニア米や輸入バスマティ米、ジャスミン米を食べる
・玄米シロップを避ける
・乳児にはオートミールや大麦、コーングリッツなどの他の穀物を与える。
ヒ素から身を守る兵器:さらに4つのTIPS
・ジュースを制限する。リンゴやブドウジュースは水の基準よりヒ素濃度が多いものがある
・自宅に井戸があるなら検査し、必要なら処理する
・野菜は良く洗う。
・Consumer Reportsを発行している団体consumer unionが食品のヒ素基準を設定しヒ素含有農薬や肥料などの禁止を訴えているのでそれを支持する。