食品安全情報blog過去記事

はてなダイアリーにあった食品安全情報blogを移行したものです

ビスフェノールAに関するFAQ

FAQ on bisphenol A
17 January 2014
http://www.efsa.europa.eu/en/faqs/faqbisphenol.htm?section=accordion&subsection=16
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20140120#p3の追加分)

1.ビスフェノールA (BPA)とは何?どのように使用されるのか?
BPAポリカーボネート(PC)プラスチック、エポキシ樹脂、他の高分子化合物の製品やある種の紙製品(たとえば感熱紙)に使用される化合物である。PCは食器(皿やマグカップ)、電子レンジやオーブン用器具、調理道具、給水貯蔵器のような食品や液体用の食品と接する物質に使われ、おもちゃやおしゃぶりなど食品以外にも使用されている。BPAから作られるエポキシ-フェノール樹脂は食品と飲料缶の保護ライニングとして、また住居用の飲料水貯蔵容器の上塗りとして使用される。BPAはエポキシ樹脂ペンキ、医療器具、歯のシーラント、表面塗料、印刷用インク、難燃剤など食品以外にも多くの用法で使用される。エポキシ樹脂の床と接触する研磨材、接着剤、ペンキ、電子機器、プリント配線基盤に由来して、BPAハウスダストにも含まれる。

2. BPAはどのように食事に入り込むのか?
少量のBPAが食品と接触する物質から食品や飲料に溶出する可能性がある。

3. 過去にBPAについて懸念が生じたことはあるか?
BPAは1930年代から女性ホルモンエストロゲンに似ていることが知られている、いわゆる「内分泌活性物質」である。齧歯動物による試験で観察されたBPAの「低用量影響」に関連し、繁殖、生殖と内分泌(ホルモン)系への影響が議論されている。EFSAは内分泌活性物質の規則に関するレビューの一部としてこの問題に関する意見を発表した。
•Topic:内分泌活性物質
•FAQ:低用量効果

4. EFSAはBPAの安全性のレビューを実行したことがあるのか?
欧州委員会の食品に関する科学的委員会は2002年にBPAの安全性をレビューした。2006年にはEFSAはより強力な科学的証拠に基づき消費者にとってのBPAの安全性を再評価し、一日摂取許容量(TDI)を 0.05 mg/kg bwとした。TDIは明らかなリスクなく生涯にわたって毎日摂取できる(体重を基本として表される)と推定される量である。幼児と子供を含むヒトの食事からのBPA暴露は、TDI以下だと推定された。
•Topic:ビスフェノールA

5. EFSAは2006年からBPAの安全性をレビューしているか?
2008年と2009年にEFSAはBPAに関する追加助言を発表し、2010年9月には低用量でのBPAの毒性に関する詳細な包括的レビューに従い、BPAの意見を更新した。EFSAの専門家による食品接触物質、酵素、香料及び加工助剤に関する科学パネル(CEFパネル)は企業の研究と何百もの学術研究を考慮した。パネルは当時、BPAのTDI 0.05 mg/kg bwを改訂する新しい証拠は一つも同定できなかった。しかし、最近の低用量研究から浮かび上がった発育中の動物のBPAに関連するいくつかの影響については不確かさがあるとした。脳や免疫系の変化と乳がん感受性の増加を示唆したこれらの実験動物での研究は、いくつかの欠点があり、ヒトの健康への妥当性は評価できない。CEFパネルはフランス食品安全庁 (‘Anses’)によるBPAの健康効果に関する報告書の発表を受けて、2011年11月の声明でこの全体的な見解を再確認した。

6. EFSAが現在BPAの新しい完全リスク評価を実行しようとしている理由とは?
2012年2月に、新しい科学的研究をさらに検討した結果、EFSAのCEFパネルの専門家は、食事以外と食事を通したBPA暴露に関するヒトのリスクの完全再評価に着手することにした。完全リスク評価の一部として、パネルは低用量で動物に見られたいくつかのBPA関連影響がヒトの健康と関連する可能性について、さらに評価することを目指した。

7. 2013年にEFSAはBPAに関する新しい意見案の一部分についてパブリックコメントを始めた。なぜ一部分だけ?
EFSAの新しい科学的意見の任務は2つの局面に取り組むことを目的としている:
i) BPAのヒトの健康への潜在的な影響
ii) 食事と食事以外の暴露源からのBPAの現在の消費者暴露
この研究の最初の部分の進行中、EFSAの専門家は2013年7月にBPAの消費者暴露の評価案を完成させた。これに関する一般の関心が高いため、EFSAは、2014年の完全リスク評価の完成前に全ての関係者と協議するために、二段階の意見募集を行うことにした。

8.「暴露評価」とは何か?それは「リスク評価」の一部?
暴露評価はリスク評価の重要な一部である。科学的リスク評価にはいくつかの段階がある。食品チェーンに関連する潜在的なハザードの同定。ハザードとは物質に固有脅威の可能性である(たとえばがんの原因となる)。だが、危害を与えるリスクはハザード暴露の程度(量)、持続期間と時期による。ハザードは暴露しなければ、または害を及ぼすには暴露が低すぎるなら有害ではない。ハザードを扱うリスク評価は「ハザード評価」と呼ばれ、暴露を扱う部分は「暴露評価」と呼ばれる。暴露評価には、食品と食品に接触する物質に存在するBPA濃度について広範囲で比較できるデータを必要とする。ある食品部門でBPAに関するデータが入手できなければ、BPAが存在する食品と接触する物質のタイプと、食品に移行するBPAの量についての情報を使用して推定できる。食品摂取量に関する広範なデータも必要である。この二つのデータを比較しモデル技術を使用することで、専門家はこれらの潜在的な健康ハザードに対し異なる消費者集団の暴露量を予測することができる。

9.この暴露評価について重要なのは?
これは2006年以降で、食事と食事以外(たとえば、感熱紙や空気と埃のような環境原因など)の両方の暴露源を含むものとしては初めての、BPAの消費者暴露に関するEFSAのレビューである。EFSAの暴露評価案は以前よりさらに特定の人口グループも考慮している。たとえば、母乳で育った乳児、ミルクで育った乳児、5日・3か月・6か月・12か月までの乳児、10代の青年(10-18歳)、出産可能年齢の女性(18-45歳)のグループを含む。
2006年以降に発表されたものとEFSAの情報提供要請から得られた科学的データを使用し、EFSAの専門家は2006年と比較して暴露推定をかなり改良することができた。2011年EUがPC哺乳瓶を禁止したため乳幼児の暴露量が変わっていることが特に重要である。
食品のBPA濃度のデータは食品摂取量(母乳を含む)データと併せて食事からの暴露量を推定した。この暴露評価は食事以外からの暴露も含み、食事以外(埃、感熱紙、化粧品を含む)由来のBPA濃度のデータと行動パターンのデータを組み合わせた。さらに、バイオモニタリング(つまり、ヒトの尿のBPA濃度の分析)の結果が、データモデルから得られた推定値を裏付けるために使われた。

10. BPA暴露のEFSA評価案の主な知見は何?
EFSAの科学専門家は、欧州連合では全ての人にとって食事がBPAの主な暴露源だと暫定的に結論した。三歳以上のグループにとって感熱紙は食事の次に重要なBPA暴露源であり、いくつかの集団では計算上総暴露量の最大15%になる可能性がある。全ての集団にとって総暴露量は、最大でも、2006年にEFSAが定めた現在の一日摂取許容量(TDI)0.05 mg/kg bwをかなり下回る (上記Question 4参照)。たとえば、成人(出産可能年齢の女性を含む)の食事からの暴露推定である最大132 ng/kg bw/dayは、2006年に推定した値の約11分の1で現在のTDIの1%より低い量である。

11. 2006年と2013年の食事による暴露推定量はなぜそれほど違うのか?
2006年には、BPAの食事からの暴露推定量は、当時のデータ不足によりかなり高く、食事と飲料のBPA濃度をかなり保守的に仮定していた。2012年のデータ要請に従い、EFSAは広範囲な食品分野でのBPA濃度を評価するために2500以上のサンプルをレビューした。さらに、EFSAは現在、2010年に最初に作られた包括的欧州食品摂取データベースにより、以前のBPA暴露評価と比べてより詳細な欧州での食品摂取パターンを参照できる。これらの新しいデータから2006年の暴露推定量と比べてかなり改良されている。

12.感熱紙からのBPA暴露は懸念となるのか?
三歳以上の全ての集団にとって感熱紙は食事の次に重要なBPA暴露源となり、いくつかの集団では計算上総暴露量の最大15%になる可能性がある。10-18歳グループの平均及び多量暴露消費者(体重に基づく暴露が最も高い濃度の集団)にとって、現在のTDIの0.05 mg/kg bwのそれぞれ0.1% および0.5%以下である。だが暴露の推定に不確実性があり量は不確かなので、EFSAの専門家は、感熱紙からの暴露量をさらに詳細に推定するためにより多くのデータが必要だと考えている(特にBPAの肌からの吸収と領収書を手で触る習慣)。

13.他のカギとなる発見は何?
・科学者は3-10歳の子供たちにはBPAの食事からの暴露量が最も多くなることを発見した。これは体重あたりの食品摂取量によって説明できる。
・ミルクで育った0-6か月の乳児にとって総暴露量は特に低い(38 ng/kg bw/day)。これは2011年に哺乳瓶にBPAを禁止することを欧州連合で決定した結果であろう。
・缶入り食品や缶入りではない肉と肉製品は全ての年齢集団にとって食事からのBPA暴露の主な原因である。缶入り食品は、缶の内側にBPAが使用されるため、食事由来のBPAの暴露源として知られている。BPAは包装や加工機器との接触を通して、また他の形の汚染によって肉や肉製品に存在する可能性がある(たとえば環境、飼料)。だが、EFSAの専門家はこれを支持する確固たる科学的証拠を一つも見つけていない。

14.一般人はEFSAの意見の後半部分について意見を出すことができるのか?
EFSAはBPAの完全リスク評価に関する二段階のパブリックコメント募集を行うことを約束した。BPA暴露に関するEFSAの意見案の前半部分についての意見募集は7月25日から9月15日まで計画されている。2014年初旬に開催される後期には、EFSAはBPAに関する潜在的なヒトの健康リスク評価に焦点を当て、パブリックコメントを募集する予定である。
意見募集の結果は受け取った意見に対するEFSAの回答と一緒に最終的な意見と共に報告書として発表される。この過程は、EFSAの専門家が科学的意見を採択する前に、隅々まで調べつくし、できる限り広範囲の科学的意見と情報が考慮されることを保証する。

15. BPAについての最終的な意見はいつ用意できるのか?
EFSAの完全リスク評価は2014年半ばの完成が計画されている。この計画の現状に興味がある人はEFSAのオンライン諮問記録で確認できる:
・食事由来のビスフェノールAのリスク評価に関する科学的意見のための権限

16. BPAの毒性に関するEFSAの意見は何を含んでいる?
EFSAは、胎児・乳児・その他の子供・成人を含む特定年齢集団のヒトへのBPAの毒性を評価している。450以上の科学的研究と専門家組織による以前のリスク評価が、食品接触物質、酵素、香料及び加工助剤に関する科学パネル(CEF)によって考慮されてきた。その意見は二つの部分からなる:
1.ハザード評価―BPA暴露に関する健康ハザードを見極めるために動物とヒトの研究からのデータを使用する。
2.リスクキャラクタリゼーション―現在のBPA暴露量―経口摂取、埃を吸うこと、肌からの暴露での消費者への同定されたハザードのリスクを分析する。

17.「ハザード」と「リスク」は同じ?
いいえ、ハザードとリスクは異なる。ハザードは腎臓に害を与えたりがんの原因となる力のような、物質に本来備わる特性により健康に対して脅威をもたらす可能性である。だが、物質が負の影響を与えるリスクは以下による:
・ヒトが暴露する物質の量
・暴露時間の長さ
・暴露が生じた時期、たとえば胎児、子供、成人の時など
ハザードは暴露しなかったり、暴露が有害作用を引き起こすには低すぎる場合は害にはならない。たとえば、物質Xは毒性があるかもしれない―だからハザードである。だが、ヒトや動物がそれに暴露しなければ、健康へのリスクをもたらさない。

18. BPAの暴露に関する健康ハザードをEFSAは見出した?
EFSAはBPA齧歯類で腎臓と肝臓に悪影響があり乳腺への影響があると結論した。

19. このことはBPAがヒトに対して健康リスクとなることを意味するか?
EFSAはビスフェノールA (BPA)の現在の暴露は害を及ぼすには低すぎるので、消費者への健康リスクは低いと結論した。EFSAの科学的意見は、あらゆる年齢の消費者が暴露するBPA濃度は安全な暴露推定濃度― 一日摂取許容量(TDI)として知られている―をかなり下回ることを示した。EFSAは経口とそれ以外からのBPA暴露を合わせた最も高い推定量はTDIの数値の3‐5分の1なので健康に対する懸念はないとした。あらゆる集団にとってBPAの経口暴露はTDIの5分の1以下である。

20.ベンチマーク用量アプローチとは何か?
ベンチマーク用量(BMD)アプローチは特定の物質が体内のある臓器に、たとえば腎臓の重量の5%の変化や肝毒性の発生率の10%の増加などの小さいが測定可能な影響を誘発する量を推定する統計的手法である。この参照点として知られるベースライン値はTDIのような健康影響に基づく指標値を設定するのに使われる。
BPAの意見のために、より広く使用される他の方法:最大無毒性量(NOAEL)有害影響が観察されない量―の代わりにBMDアプローチが採用された。NOAELは物質への暴露による有害影響がないベースライン値である。
物質の安全性試験では、様々な服用量を動物に与えその反応をグラフ上に記録する。科学者はこのグラフの形を用量反応曲線と呼ぶ。
この二つのアプローチの主な違いは、BMDが用量反応曲線の全てのデータを使用するのに対し、NOAELは実験が行われた単一の用量に基づいているということである。より多くのデータを使用するため、BMDのほうが正確で洗練された方法だと認識されている。
この意見では、EFSAは動物でBPA暴露に関連がありそうだと確認された3つの健康ハザードそれぞれのBMDを計算した(腎臓と肝臓への有害作用と乳腺への影響)。マウスの腎臓の重量での知見が低い用量でおこる信頼できる影響だと考えられたためt-TDIを設定するのに使用された。

21.一日摂取許容量(TDI)に関するEFSAの勧告とは?
EFSAはTDIを現在の濃度50 µg/kg bw/ day(または 0.05 mg/kg/bw/day)から5 µg/kg/ bw/day (0.005 mg/kg/bw/day)に下げるべきだと提案している。EFSAはBPAの健康リスクは不確実なので、TDIを暫定的なものとして設定することを推奨している。

22. EFSAが現在のBPAのTDIを減らそうとする理由は?
EFSAが低いTDIを推奨する理由を理解するために、2010年に行われた以前のBPA評価で用いた方法と、現在の意見案の方法と比べる必要がある:
a)2010年には、EFSAは次のようにTDI 50 µg/kg bw/dayを設定した:
起点はラットとマウスでの毒性試験から得たNOAEL 5 mg /kg bw/dayだった。科学的慣行に従って、この値はそれに不確実係数100を用いて導かれた:
i.動物とヒトの間の違いを説明する係数10の要因。この10のデフォルト値は毒性影響についての2.5とキネティクスの違いの4から成る。
ii.この値にヒトにおける感受性の違いを説明する10を乗じる。
これらのことから、CEFパネルは安全な暴露、つまりBPAのTDIは50 µg/kg bw/dayと設定した。
b)現在の意見案ではEFSAは異なるアプローチを使用し、t-TDI 5 µg/kg bw/dayを次のように提案した:
専門家は2010年に使用された同じ毒性研究を分析し、マウスの腎臓での小さな悪影響―この臓器の重量の10%の変化―を引き起こすベンチマーク用量下限値(BMDL)を計算した。EFSAはこの影響が3.6 mg /kg bw/dayの用量で生じるとした。
2010年から入手可能となった新しいしっかりした研究で、EFSAはヒトと比較して多様な動物種でのBPAの作用の仕方についてよりよく評価できるようになった。この新しいいわゆるキネティクスデータに基づき、マウスで有害悪影響を誘発する用量(BMDL)をヒトでの経口相当量に変換することが可能になった。EFSAはヒトの経口相当用量は113 µg/kg bw per dayだとした。次の段階はTDIを導出するために不確実係数を適用することである。EFSAは動物種におけるキネティクスの違いに関連したデフォルトの不確実係数4は動物からヒト用量に換算する際に既に考慮されていることを注記する。そこで、(i)動物とヒトにおける毒性の違いと(ii)ヒトの感受性の違いの不確実係数25を113 µg/kg bw per dayに適用してt-TDI 5 µg/kg bw/dayを新しく提案した。

23. EFSAがBPAの一時的TDI (t-TDI)を推奨する理由とは?
EFSAはがんの発生、生殖、神経性、免疫、代謝、心血管系に関するBPAの影響を取り巻く現在の不確実性を反映してTDIを暫定的なものと提案している。BPAとこれらの後発影響の関連は現時点ではありそうにないと考えられているが、EFSAはそれらがヒトの健康にとって懸念となるかもしれないと結論し、BPAのリスクに関してする全体的な不確実性を付け加えた。EFSAはBPAの健康影響について現在の不確実性の多くについての米国の国家毒性計画(NTP)の研究成果を待ってこのTDIを暫定的なものとすることを提案する。

24.証拠の重み付け手法とは?
証拠の重み付け(WOE)アプローチは、特定の質問に対して科学的に正確な回答を提供することができるように実験データや研究の長所と短所を評価する。BPAに関する意見で、このアプローチは新たに検討対象となった根拠のBPA暴露とある種の健康ハザードの関連の可能性を強めたり弱めたりする程度を推定するのに使われた。2006年と2010年にEFSAが結論した初期のBPA評価を新しい評価の出発点とした。EFSAはそれぞれのハザードに対するBPAが関連するという証拠の長所を評価し、6段階で評価した。最も強い段階を示す「可能性が高い」「見込みがある」から最も弱いとみなされる段階の「見込みがない」「非常にありそうもない」に及ぶ。EFSAは「可能性が高い」「見込みがある」と評価された健康ハザードだけがリスクキャラクタリゼーションで直接検討されると言う。
WOEアプローチはハザード同定にのみ使われることを強調する。それは実際にヒトで影響が生じる可能性や頻度(ハザードキャラクタリゼーションで検討される)、及びBPAへのヒトの暴露量(暴露評価で検討される)では使われない。