食品安全情報blog過去記事

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論文

  • 新しい研究は飲酒が心臓の健康にメリットがないことを示す

New study shows drinking alcohol provides no heart health benefit
10-Jul-2014
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2014-07/uops-nss071014.php
この結果はこれまでの1日1杯は心血管系の健康に良いかもしれないという研究に疑問を提示する
BMJに発表された論文
エディトリアル
アルコールと心血管系疾患
Alcohol and cardiovascular disease
MJ 2014;349:g4334
http://www.bmj.com/content/349/bmj.g4334
新しい研究ツールがこの不可解な関連を解き明かすのに役にたつだろう
多くの観察研究で小量飲酒する人の方が全く飲まない人より心血管系疾患のリスクが小さいことが報告されているが、それらは最も重要な疑問に答えることはできない:少量飲酒で心血管系疾患のリスクが下がるのか?この観察試験の結果(相関関係)と、健康を増進するために必要な答え(因果関係)の差は根本的なものである。相関関係と因果関係の取り違えは、たとえば肺がん予防のためにマッチを取り上げるようなことにつながる。
近年、観察研究から因果関係を評価するための方法に進歩が見られた。その科学的価値にもかかわらず、議論は多い。Holmesらの論文はこの理由を完全に描写している。Holmesらはメンデル無作為群間比較デザインを用いて少量飲酒が心血管系疾患予防に役立つのかどうかを評価しようとした。この論文は効果の方向のみ、飲酒が心血管系リスクを増やすのか減らすか−を探った。
メンデル無作為群間比較では遺伝的バックグラウンドを「疑似実験」として扱う−ADH1B座位のA-対立遺伝子の遺伝は無作為により少ない飲酒に割り付けられるとみなす。HolmesらはA-対立遺伝子は飲酒量が少なく心血管系疾患は低いことを見いだした。彼らは飲酒は心血管系疾患リスクを増やすと結論しこれまでの観察研究の結果は見直すべきだとした。
Holmesらの推論は、個人を少量飲酒に割り付ける無作為対照化試験と同様の二つの仮定に基づく。ここではADH1B対立遺伝子が治療に相当する。最初に、試験は無作為化される−つまりA-対立遺伝子と対照群は同じ心血管系リスクをもつと仮定する。次にこの割付は飲酒量以外には心血管系疾患に影響しないと仮定する。この仮定は実際の無作為割付試験と同様であるが、メンデル無作為群間比較のほうが尤もらしさが少ないためさらに精査が必要であろう。
通常の観察試験の仮定と比べてこれらの仮定はどうだろうか?結局のところ、少し尤もらしさの少ない新しい方法の方が、さらに尤もらしさの欠ける仮定に基づくこれまでの方法よりいいかもしれない。明示的に言及されることは滅多にないものの、これまでの観察研究では飲酒量が効果的に無作為に割りつけられているという仮定のもとでのみ成立する。つまり私たちが飲酒と心血管系疾患に影響する全ての要因(交絡因子)を考慮しているということであるが、これはほぼ不可能である。
これまでのアプローチもメンデル無作為群間比較アプローチも、証明されていない仮定に基づくため、矛盾が生じることは驚きではない。両方で答えが一致した場合に結果は信頼できるだろう。Holmesらの知見はそうではないので、我々はどちらがありそうなことか選ばなければならない。
全ての観察研究の解釈には仮定を疑うことが重要であり、仮定を調整するのは報告の重要な一部である。(略)
Holmesらの結論の最も驚くべきことのひとつは、少量(light)から中程度(moderate)の飲酒者であっても、飲酒量を減らすことにはメリットがあるだろうということである。この論文ではこれを証明できないが他の解析で可能かもしれない。
彼らの解析は挑発的で革新的である。多くの限界はあるが。これまでの研究にも限界はある。確実な結論は難しいが次の段階はある。飲酒の大規模無作為割付試験は不可能でないとしてもできそうにはないので、観察試験のデータを使ってより多くの情報をうみださなければならない。

アルコールと心血管系疾患の関連:参加者個人データに基づくメンデル無作為化解析
Association between alcohol and cardiovascular disease: Mendelian randomisation analysis based on individual participant data
Michael V Holmes et al.,
BMJ 2014;349:g4164
http://www.bmj.com/content/349/bmj.g4164
56の疫学研究のンデル無作為化メタ解析
欧州人261991人が含まれ、冠動脈疾患症例は20259人、脳卒中は10164人。ADH1B rs1229984変異、アルコール表現型、心血管系バイオマーカーについてのデータがある。
アルコールデヒドロゲナーゼ1B遺伝子はアルコールの代謝に関わる遺伝子で、その単一ヌクレオチド多形rs1229984は飲酒で顔が赤くなる、日常的に飲酒量が少ない、などと関連することが知られている。この変異を用いてアルコールと心血管系疾患の関連を調べる国際共同研究の結果。The InterAct Consortium

  • NOAAとその協力者がこの夏エリー湖西部で有害藻類の大発生を予想

NOAA, partners predict significant harmful algal bloom in western Lake Erie this summer
10-Jul-2014
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2014-07/nh-npp070914.php

  • ネオニコチノイド系農薬の使用が鳥類やミツバチの減少に関係していると懸念されている

Natureエディトリアル
Be concerned
A possible link between neonicotinoid pesticide use and a decline in bird numbers is worrying.
http://www.nature.com/news/be-concerned-1.15516
ミツバチや昆虫を食べる鳥への影響について。オランダの一部の鳥の集団の減少とネオニコチノイドの使用に関連があるという研究が発表された。
相関があるという研究は因果関係があることを意味しないが懸念の声は高まっている

Natureニュース
Chimpanzee IQ starts in the genes
Sara Reardon 10 July 2014
http://www.nature.com/news/chimpanzee-iq-starts-in-the-genes-1.15533
研究は動物の知能の約半分が遺伝であることを示す
賢いチンパンジーはしばしば子どもも賢い。Current Biologyに、チンパンジーの知能への遺伝の寄与についての最初の解析が発表された。Yerkes 国立霊長類研究センターの9-54才の99頭のチンパンジーの知能を調べた。ヒトでは子どもは約30%成人では70%が遺伝で説明できるとされていてこれと同程度。

  • 妊娠マウスの飢餓は子どものDNAに印をつける

Starvation in pregnant mice marks offspring DNA
Ewen Callaway 10 July 2014
http://www.nature.com/news/starvation-in-pregnant-mice-marks-offspring-dna-1.15534
飢餓の影響はエピジェネティック変化に3世代影響
妊娠後期に50%カロリー削減で小さい子どもを産んだマウスを観察。子どもはのちに糖尿病の兆候を示すが、この世代の雄の子どももまた普通に食べても糖尿病になる。このモデルは第二次世界大戦末期の1944-45年の冬にオランダ人が経験したものと同程度。Ferguson-Smithらは飢餓母親から生まれた雄の精子のDNAメチル化を調べ、メチル化の程度と遺伝子発現に差があることを示した。しかしコロンビア大学エピジェネティクス学者Tim Bestorらはこの実験で使ったマウスが近交系ではないことを指摘して、エピジェネティクスではなく選択の可能性があるという。母親が飢餓状態で生き残った子どもは栄養が少なくても生きられるが代謝疾患リスクが高い可能性がある。研究者はなんでも遺伝子のせいにするが、遺伝子が原因である可能性はとても低い。
(戦時中の飢餓なら日本だって負けてないよねぇ・・オランダ人のほうが太ってるけど)