食品安全情報blog過去記事

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オーガニック作物の栄養についての論文関連

  • オーガニック食品−はあなたにとってより良いか?専門家の反応

SMC nz
Organic food – is it better for you? Experts respond
July 14th, 2014.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2014/07/14/organic-food-is-it-better-for-you-experts-respond/
British Journal of Nutritionに発表されたメタ解析について
ESRの環境健康科学者Peter Cressey( ニュージーランド)
この報告ではオーガニック産物が抗酸化ポリフェノール類の濃度が高いこと、カドミウムが少ない、残留農薬が少ない、ことを報告しているがこれらは予想されていなかったことではない。
抗酸化物質はヒト健康によいと信じられているが確認されているわけではない。植物が防御反応として作ることが知られており、ストレスが多いと多くなる。有機農法では植物への害虫や病気の脅威が大きくストレスが大きいのはありそうなことである。この報告では有意差があるのは重み付けを行わない場合だけで、作物の収量が少ないあるいは育ちが悪い場合には乾燥重量が多くなり結果的に可食部の化合物量が多くなる。
カドミウムは一部のリン酸肥料に含まれている。有機農業ではそれらを使用しない。残留農薬有機農産物で少ないのは当然である。むしろ有機農産物の11%から残留農薬が検出されていることに注意すべきである。交差汚染にしては濃度が高い。

Adelaide 大学医学部薬学科上級講師Ian Musgrave博士(オーストラリア)
British Journal of Nutritionの論文はこれまでの論文と概ね同じ結果である。たくさんの栄養素の中で統計学的に差があるのは一部で生物学的に意味がありそうなのはたったひとつ(カドミウム)である。抗酸化物質が統計学的に有意に多いといってもその差はわずかで健康には影響しそうにない。全体としてオーガニック食品には生物学的に意味のある健康上のメリットはありそうにない。値段の高さを考えると、オーガニックを買う前によく考えた方が良い。

Melbourne大学名誉教授Ian Rae教授(オーストラリア)
メタ研究の最も興味深いところは一部の抗酸化物質の差であるがこれが栄養的に良いかどうかはさらなる研究が必要である。有機農産物に残留農薬が少ないのは驚くべきことではないが、もともと有機ではこれらを全く使わないとされていることを考えると、「低い」ではなく「非検出」であるべきではないか?有機生産者は不正行為を行っているのか?

以下英国SMCなので略

  • オーガニック作物の研究は農薬が少ないことと抗酸化物質が多いことを発見

NYT
Study of Organic Crops Finds Fewer Pesticides and More Antioxidants
By KENNETH CHANGJULY 11, 2014
http://www.nytimes.com/2014/07/12/science/earth/study-of-organic-crops-finds-fewer-pesticides-and-more-antioxidants-.html?_r=0
(英国の研究の米国での報道)
Newcastle大学生態学的農業教授Carlo Leifertは「もしオーガニック野菜や果物を買うなら、同じカロリー当たりの抗酸化物質は平均すると多いだろう」という。しかし「この研究をもとに健康については言うことができない」ともいう。それでも著者らは一部の抗酸化物質はがんや他の疾患のリスク低下と関連すると示唆する。この結論は2年前にStanfordの科学者がオーガニックと慣行栽培で栄養にほとんど差はないとしたものに対抗する。Stanfordの研究でもこの研究でも、オーガニックのほうが農薬は少ないことを見いだしているが高いと言っても安全性の限度よりははるかに低いので重要性は薄い。オーガニックは農薬や肥料を使わないため土壌を良くするが収穫は減る。有機取引協会によると米国の昨年の有機食品販売額は323億ドルで総市場の4%強である。
議論になっているのはオーガニック作物の栄養価が高いかどうかであるが、2009年に発表されたオーガニックと慣行栽培に意味のある栄養の差はないというレビューを発表したLondon School of Hygiene and Tropical MedicineのDr. Dangourは「野菜や果物をほんの少し余分に食べればもっと栄養が摂れるというだけの話」という。気候や場所など栄養に影響する要因はたくさんあるのでそのような差は識別不可能だ。さらに差があったとしても健康に影響するかどうかは不明である。
Leifertらの研究はEUと英国の有機農業支持団体Sheepdrove Trustから429000ドルの研究費を得ている。
(記事はまあ普通なのだけれど例によってコメントが熱い。市場全体に占める割合は少ないのに物言うヒトが多いということなのだろう。)