食品安全情報blog過去記事

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甘味料についての論文関連

  • Natureニュース

砂糖代用品は肥満と関連
Sugar substitutes linked to obesity
Alison Abbott
17 September 2014
http://www.nature.com/news/sugar-substitutes-linked-to-obesity-1.15938
人工甘味料が腸内細菌叢を変えるようだ
Natureに今週発表された研究によるとサッカリンのような砂糖代用品はヒトの腸内細菌に作用して代謝疾患を悪化させるかもしれない。これまで人工甘味料代謝疾患の関連を示したとする小規模研究はあるが、腸内細菌を介して甘味料の使用と代謝疾患悪化を示唆したのはこの研究が初めてである。この知見は食品作業の頭痛の種になる可能性がある。現在人工甘味料の市場は拡大している。この知見についてEFSAのスポークスマンは専門家レビューが必要かどうかそのうち決めると言っている。
イスラエルのWeizmann科学研究所のEran Elinavらのチームはマウスに各種甘味料を与え、11週間後に耐糖能異常を示すことを発見した。チームは一部のマウスには普通の餌を、一部には高脂肪食を与え、飲料水にグルコース単独あるいはグルコースプラス甘味料を加えた。グルコースのみの群に比べてサッカリンを与えられたマウスの耐糖能が異常だった。しかしマウスに腸内細菌を殺すため抗生物質を与えると耐糖能異常は予防された。無菌マウスにサッカリンを与えて耐糖能を異常にしたマウスの糞便を移植すると異常が伝染した。
また現在イスラエルで400人近くが参加して行われている臨床栄養研究のデータを用い、体重が重かったり糖代謝に異常があったりすることと人工甘味料摂取が関連すると指摘した。ただこれは鶏卵問題で、太ってきた人はダイエット飲料を飲むことが増えるのでダイエット食品が肥満の原因であることを意味しない。そのため7人の痩せて健康な人に許容量の最大限の甘味料を毎日1週間摂取してもらった。4人は耐糖異常になり腸内細菌が変化した。
EFSAのNDAパネルの委員長代理の栄養学者Yolanda Sanzは、結論を出すのは早すぎると言う。代謝疾患には多くの原因があり、この研究は非常に小規模である。

  • プレスリリース

腸内細菌、人工甘味料、耐糖能異常
Gut bacteria, artificial sweeteners and glucose intolerance
17-Sep-2014
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2014-09/wios-gba091514.php
ある種の腸内細菌が人工甘味料暴露により代謝を変える可能性
Natureに発表された研究。マウスに甘味料入りの水を飲ませると水を飲んだ場合に比べて耐糖能異常になる。抗生物質で腸内細菌を殺したマウスに甘味料を与えたマウスの腸内細菌を移植すると耐糖能異常が伝達された。
(濃度も化合物名も書いてないとにかく人工甘味料が悪い可能性があるとだけ言っているプレスリリースでいらいらする)

  • UK SMC

ノンカロリー人工甘味料(NAS)と耐糖能異常
expert reaction to non-caloric artificial sweeteners (NAS) and glucose intolerance
September 17, 2014
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-non-caloric-artificial-sweeteners-nas-and-glucose-intolerance/
Natureに発表された論文が人工甘味料と耐糖能異常の関連について報告した
St George’s Hospital NHS Trustの主任栄養士Catherine Collins
サッカリンのような人工甘味料が血糖値に問題をおこすと示唆することは、減量や血糖管理のために使用している人たちを心配させるだろう。しかし結果をよく見るとリアルなヒトの話ではない。もしあなたが減量しようとしているなら、食事由来のカロリーを減らす必要がある。低カロリー甘味料は砂糖に代用すればカロリーを減らせるので良い方向への変更である。しかしあなたがもし実験室のマウスで60%のカロリーを脂肪から摂るような餌を与えられているのなら、飲料水に高濃度の甘味料を加えるのは良くないかもしれない。研究者らはマウスの腸内細菌が甘味料入り水で変わることを示し、この変化が血糖値に影響する可能性を示唆した。この根拠をもとに、私は実験室のマウスに大量の甘味料入りの水を飲ませるべきではないということには合意する。でもここで話しているのは実験室のマウスについてであることを忘れないで。しかもこのマウスは餌の60%が脂肪であるため炭水化物は25%くらいだろう。このような食事パターンが結果に影響するだろう。
私たちヒトは60%のカロリーを脂肪から摂るのは難しい。多分重大な消化器症状が出るだろう。ヒトはカロリーの半分程度を炭水化物から摂り、脂肪は30%くらいである。
直接の懸念は「ヒト研究」についてだろうが、これは7人の肥満でも糖尿病でもないヒトに、ADIの最大量を1日3回に分けて与えるという現実的でない状況でのものである。7人中4人で腸内細菌に変化が見られたが3人には変化がなかった。このような少人数での、大量のサッカリン摂取での影響を考えると、我々登録栄養士がこの研究から学ぶべきことはない。
エジンバラ大学統合生理学センターJohn Menzies博士
人工甘味料は砂糖代用品として広く使用されている。砂糖と違ってカロリーがほとんどなく、総摂取カロリー削減のために有用であることが証明されている。人工甘味料は数十年食品や飲料に使われていてこれまでのデータからは安全であることが示されているが一部の研究では体重増加との関連を示している。この関連について信頼できるメカニズムは提案されていない。
砂糖を摂ると血糖値が上がってインスリンにより下がる。しかし糖尿病では血糖値の上昇は普通より高く長い。これが病気の悪影響をもたらす。この研究では人工甘味料を与えたマウスにこのような糖尿病に似た血糖値のコントロール不全があったと報告している。この影響を見るためには高濃度(FDAのADIの最大量)の甘味料が必要で、マウスには他に飲むものがないことに注意すべきである。この実験をヒトに当てはめるには注意が必要である。
この研究はマウスの腸の細菌が役割を果たしていることを示した。肥満と腸内細菌の重要性についての理解は最近盛んになっている。
この研究はヒトに当てはまるか?ヒトの腸内細菌に甘味料が与える影響は明確ではない。この研究では人工甘味料摂取と一部の代謝疾患パラメータに正の関連を見つけているが、ヒトの食生活は複雑で関連が人工甘味料が原因であることを意味しない。ヒト試験はたった7人で変化が見られたのもその一部の4人である。
動物実験はメカニズムの解明のための基本になるがヒトで動物と同じ長期影響があるのかどうかわからない。一方砂糖の摂りすぎによるヒトの肥満や糖尿病との関連は極めて強力である。従って砂糖の代わりに人工甘味料をつかうことをやめさせるのは時期尚早である
Exeter大学内分泌学糖尿病コンサルタントKatarina Kos博士
この研究は主にマウスでのものでヒトはたった7人である。しっかりした結論を出すには確認が必要である。一方この知見は水が一番良いことを支持する。
ケンブリッジ大学臨床生化学教授Stephen O’Rahilly卿
砂糖入り飲料の摂取が肥満に寄与するという根拠は強力で増加している。最近の子どもたちでの無作為化対照試験では炭酸飲料を砂糖入りから人工甘味料に変更することで過体重になるリスクを減らすことが示されている。この研究を見るためにはこれらのバックグラウンドが必要である。
この報告の大部分はマウスでのもので、マウス実験は医学研究にとって重要であるがヒトに当てはまるかどうかはいつも難しい問題である。ヒトでの報告部分はあまり説得力がない。著者らは381人での人工甘味料入り飲料摂取と糖尿病マーカーの関連について報告しているが、最近の30万人以上の研究では人工甘味料入り飲料摂取と糖尿病発症には関連がないことが報告されている。またサッカリンを与えたあとでの血糖への影響も報告しているがたった7人である。
結論としてはこの報告は良くても極めて慎重に見られるべきものである
ケンブリッジ大学MRC 疫学ユニットリーダーNita Forouhi博士
マウスでの実験はエレガントで我々の理解を助けるものであるがヒトでの実験は結論を出せない。たった7人に、サッカリンを大量に、典型的なコーラタイプの飲料なら1日40缶に相当する量を与えた試験である。この研究を根拠に公衆衛生や臨床助言が変わることはない。
Robert Gordon University栄養学Brian Ratcliffe教授
この論文はどうやって砂糖の摂取量を下げればいいのかについて幾分かの疑問を提示する。栄養に関する科学委員会の助言案はWHO同様総カロリー摂取量の5%以下としSheiham とJamesは今週3%以下にすべきと主張している。我々のほとんどは砂糖の摂りすぎである。一つの方法がノンカロリー人工甘味料である。残念なことに著者らは論文のタイトルで全ての甘味料をひとくくりにしてしまった。彼らが調べたのはサッカリンスクラロースアスパルテームで、甘いこと以外に化学的共通点がない。そして実験のほとんどはサッカリンについてのものでアスパルテームにはほとんど影響がなかった。この論文のタイトルは全ての人工甘味料を指すものではなく「サッカリン」にすべきであった。
砂糖入り飲料代用品にサッカリンは普通含まれず、砂糖入り炭酸飲料をダイエット飲料に交換することが賢くないことだと示唆する理由は全くない。
グラスゴー大学代謝医学Naveed Sattar教授
これはマウスの面白い知見ではあるが二つ重要なことがある
実験動物のデータはヒトでは同じではないので当てはめるには注意が必要である。
現在の疫学データはダイエット飲料と糖尿病に意味のある関連は支持しないが、砂糖入り飲料と糖尿病には関連がある。従ってこの知見をもとにダイエット飲料の代わりに砂糖入り飲料を選ぶことはない。
この研究は甘味料がヒトにとってリアルなリスクになることを証明したものではない。
公衆衛生栄養学者で栄養士のGaynor Bussell
栄養に関する科学委員会が砂糖の摂取量削減を主要政策にする必要があると助言しているので、人工甘味料の使用は増えると予想される。肥満や糖尿病と腸内細菌の関連はこれまでも知られていて、人工甘味料の使用が微生物叢を変えることもわかっていはいるがその意味はまだ不明である。この研究のヒト部分はたった7人で行われたもので不十分である。一方で人工甘味料が肥満予防に効果的に使用できることは証明されている。

  • NZ SMC

人工甘味料と耐糖能異常−専門家の反応
Artificial sweeteners and glucose intolerance – experts respond
September 18th, 2014.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2014/09/18/artificial-sweeteners-and-glucose-intolerance-experts-respond/
英国SMCと同じ

  • ScienceNews

人工甘味料は糖尿病に寄与するかもしれない、議論をよぶ研究が発見
Artificial sweeteners may contribute to diabetes, controversial study finds
By Kai Kupferschmidt 17 September 2014
http://news.sciencemag.org/biology/2014/09/artificial-sweeteners-may-contribute-diabetes-controversial-study-finds
甘いものについて科学はしばしば酸っぱい。砂糖と虫歯や肥満や糖尿病、あるいは子どもの暴力との関連を示したほとんど全ての研究は非難を浴びてきた。それでもWHOは今年始めに砂糖の最大推奨摂取量を半分にするガイダンス案を発表した。そして今回、新しい研究でサッカリンのような合成甘味料は素晴らしい代用品ではないかもしれないことを示唆する。腸内細菌に負の影響を及ぼし糖尿病リスクが高くなる可能性があると研究者らが言う。しかし他の科学者はこの研究はこれまでの研究に反していて間違っている可能性があるという。英国ケンブリッジ大学代謝研究ラボのヘッドである内分泌学者のStephen O’Rahilly博士は「もしこのデータが公衆衛生政策に影響を与えるとしたら不幸なことだ」という。
ヒトの腸にいる何十億という微生物が食事や病気にどのような役割を果たしているのかについて、科学者はまだ理解の初期段階にしかいない。ある種の微生物は食品の栄養素を分解するのに必須であることが知られている。また太った人と痩せた人の腸内細菌は違うことがいくつかの研究で示されているがそれが肥満や糖尿病の原因になるのかどうかについてはわかっていない。
イスラエルのレホボトのWeizmann科学研究所の科学者がマウスに砂糖かノンカロリー甘味料サッカリンスクラロースアスパルテームのどれかを含む水を与え、11週間後に人工甘味料を与えたマウスはグルコースを餌で与えると血糖値が急上昇した。しかしこのマウスに抗生物質を4週間与えると耐糖能異常はおこらず、腸内細菌が関与していることを示した。さらに研究者らはサッカリンを与えたマウスではある種の腸内細菌がよく見られることを発見し、この腸内細菌を無菌マウスに移植すると耐糖能異常も伝染した。さらに健康なマウスの腸内細菌をサッカリンで培養し無菌マウスに投与すると耐糖能異常になった。ある種の細菌が作る分子が糖産生を増やして血糖値を上げる可能性があると研究者は示唆する。
これがヒトでもあてはまるかどうかを確認するため、研究者らは7人に高用量のサッカリン(5 mg/kg体重、FDAの設定したADI)を6日間続けて与えたところ4人が耐糖能異常の兆しを示した、とNatuerにオンライン発表した。
ハーバード大学微生物学者Peter Turnbaughは「非常に素晴らしい研究だ」と電子メールで書いている。「文献からは甘味料が腸内細菌叢を変える可能性は示唆されているがこの研究はこれまで見たなかで最も詳しい」しかし「甘味料が腸内細菌の組成や機能を変えるメカニズムやそれが宿主の代謝にどう影響するのかについて認めるためにはさらにたくさんの基本的生物学的研究が必要である」と加えている。
ドイツのポツダムのドイツヒト栄養研究所の微生物学者Michael Blautは、マウスのデータは「信じられるし注目に値する」が「アスパルテームサッカリンスクラロースという化学的に異なる3つの化合物が同じ腸内細菌の変化をおこすたったひとつのメカニズムを想像するのは難しい」としている。
しかし他の研究者はさらに批判的である。ロンドンのSt. George病院の栄養士Catherine Collinsは、実験室のマウスはヒトより炭水化物由来カロリーは低いと指摘し「これを根拠に、私は実験室のマウスに大量の甘味料入りの水を飲ませるべきではないということには合意する。我々のもともと多い炭水化物摂取量はそれに適した腸内細菌叢を作っていて、その関係はこの実験とは違う」
O’Rahillyは、たった7人のヒトでそのうち4人に影響があったというデータはしっかりしたものというにはほど遠い、という。もしこの研究が臨床研究の雑誌に投稿されたらたくさんの疑問が突きつけられるだろう。これまでの研究は別の方向を示している。昨年発表された数万人が参加した大規模疫学研究では、砂糖入り飲料と糖尿病の関連は見つかったが人工甘味料入りソフトドリンクと糖尿病との関連は見つかっていない。
この研究の著者の1人である計算生物学者Eran Segalは「この研究のヒト研究部分はごく少数での予備的なものでしかないことを最初に認める」としながらも、人工甘味料と糖尿病の関連を示した研究はこれまでにもあり、このような重要な問題について決定的なデータやメカニズムがないことがこの研究の基本にある」という。
大規模疫学研究との矛盾を説明する一つの可能性は、今回の研究はサッカリンを中心にしていてソフトドリンクでは使われていない。研究者らは最初はソフトドリンクで多く使われているアスパルテームを使ったのだが影響が小さかったので見切った。英国アバディーンのRobert Gordon大学の栄養研究者Brian Ratcliffeは「著者らは全てのノンカロリー甘味料を一緒くたにすることで結論を混乱させている」と指摘する。「この論文のタイトル「人工甘味料が腸内細菌を変えることで耐糖能異常を誘発する」は誤解を招くものである。雑誌がこのようなタイトルを認めたことが信じられない。サッカリンについてはさらに研究が必要なことはあるだろう」
ニュージーランドオタゴ大学のJim Mannは、「この研究を根拠に砂糖入り飲料の代わりに人工甘味料を使った飲料を選ぶことで砂糖の摂取量を減らそうとすることを止めるべきではない」、という。「人工甘味料が全ての人の減量に役立つわけではないことはとっくにわかっている。しかし人によっては役にたつのも確かである。ただ喉の渇きには水がとても良い方法だ」

  • 論文についておまけ

Nature のletterではなくArticle
Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota
Jotham Suez, et al.,
Nature (2014) doi:10.1038/nature13793
ネズミはC57Bl/6。飲料水が10%グルコースまたはショ糖(対照群)で、それに甘味料を10%溶液で与えている。他に飲むものはない。(これはネズミが可哀想だ)
ADIを計算しているのはサッカリンのみでアスパルテームスクラロースは毒性量より少ないと言ってるだけ。
そしてアスパルテームの影響はちいさかった(というかほとんどない)のでサッカリンを使いました、と。それでタイトルが人工甘味料が!、だもの
餌は通常飼料(脂肪4.7%)と高脂肪食(脂肪由来カロリー60%!!)なのだが
HFD D12492という餌は脂肪(しかもラード)と砂糖(ショ糖)のかたまり(炭水化物としてはデンプンはほとんど入っていない)に最低限のタンパク質とビタミンを添加した代物で動物を病気にするための餌。この餌の群が論旨をさらに混乱させている
レビューワーを煙に巻くため?なのかとにかくエクセレントとは言い難い。
ヒトの部分も含めて図表の数だけは膨大。これを全てチェックしろと言われたらうんざりする。しかも動物実験臨床試験と疫学とマイクロバイオーム解析のデータを読む能力が必要で、そんなレビューワーそうそういないだろう。そしてそのどの分野についても単独での水準は高くない。
Natureがセンセーショナリズムに走った、感がある