食品安全情報blog過去記事

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トリクロサンとマウス腫瘍についての新しい研究への専門家の反応

SMC UK
expert reaction to new study on triclosan and tumours in mice
November 17, 2014
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-new-study-on-triclosan-and-tumours-in-mice/
PNASに発表された研究でトリクロサンのマウスへの影響を調べている。著者らはトリクロサンと腫瘍の有病率に関連があると報告している。これらのコメントに論文内容の解析がある(別記事)
Surrey大学分子毒性学リーダーNick Plant博士
この研究はしっかりしたもので知見は妥当である。研究はマウスでのみ行われたもので結論はマウスについてのものである。ヒトの健康についての意見は非常に慎重である。
著者らが述べているようにマウスで使用した濃度がヒトにあてはまるかどうかを評価するのは困難であるが単純な推計の一つではヒトで見られるより高いようである。ヒトでの状況を外挿するのはさらに複雑である。このデータはトリクロサンが核受容体である構成的アンドロスタン受容体(CAR)を介して作用することを支持し、これは腫瘍促進因子である。この作用が肝疾患をもつヒトでみられる再生性過形成で悪化する可能性はありそうだが、これを支持する実際のデータはない。さらに重要なのは種を超えてその現象がみられるかどうかについてはこの論文では対応していない。以前報告されたトリクロサンのPPARアルファ受容体への影響についてはヒト健康に関係がない。ヒトと齧歯類ではPPARアルファ受容体の信号伝達が異なるためである。この論文では著者らは別の核受容体であるCARを介する発がんメカニズムを示唆している。この受容体についても反応の種差はあるだろう。
マウスでおこったことがヒトでもおこると主張することは妥当ではない、むしろ歴史的根拠からは種差がある可能性の方が高い。しかし全ての新しい情報がそうであるように、吟味することが重要である。私はこの論文は面白いと思うがこれを根拠にトリクロサンの使用を変えようとは思わない。
名誉毒性学者Tony Dayan教授
この報告は強力な発がん物質を投与したマウスに長期間トリクロサンを暴露した場合の肝臓がんの発生について分子生物学的病理学的一連の研究を行ったものである。著者自身がトリクロサンの量はヒトが暴露される量より多いだろうと指摘している。低濃度でおなじことが起こるかどうかは調べていない。多くの化合物は高濃度では実験動物の肝臓がんのプロモーターとして作用する。そしてフェノバルビトンのようにヒトではおこらないことがよくわかっているものもある。実験的条件から人々のリスクを直接結論することはできない。
RMIT 大学メルボルンの分析化学講師Oliver A.H. Jones博士
この研究の結果は興味深いがヒト健康への懸念となるとは思わない。最初にこのマウスはトリクロサン暴露の前に発がん促進物質を投与されていて、与えられたトリクロサンは環境中に存在する量より多い。マウスは小さいヒトではない。ラットやハムスターではトリクロサンは腫瘍を作っていない。
Imperial College London生化学薬理Alan Boobis教授
この論文はトリクロサンの発がん性についての初めての論文ではなく、これまでガイドラインに従って行われた試験ではトリクロサンはマウスの肝臓に腫瘍をつくるがラットとハムスターでは作らないことが確立されている。腫瘍発生メカニズムは不明だが遺伝毒性ではない。この研究はマウスの肝腫瘍発生メカニズムについての情報を増やすものである。最初に肝障害があると繊維化がおこりそれが発がん性物質の影響を悪化させるようだ。この実験で用いられたトリクロサン濃度は先にマウスで腫瘍が観察された濃度と同程度である。霊長類での研究ではこれより高濃度でも肝障害は観察されていない。マウスではヒトにあてはまらない多くの化合物で肝腫瘍が誘発されることに注意すべきである。不確実性はあるが肝障害の二次的影響でマウスに腫瘍が発生しそれには閾値がある。従ってヒト発がんリスクを避けるにはトリクロサン暴露量は肝障害が起こらない濃度以下に確保することで十分であろう。
Queen Mary University of London病理学名誉教授Colin Berry卿
トリクロサンは肝臓で硫酸化とグルクロン酸化されて水に溶けやすくなり排出される。これは肝細胞の働きで、だから肝臓が傷害されると何らかの持続刺激は実験的条件で肝臓の腫瘍数を増やす。タイレノールでも同様である。発がん性におけるイニシエーションとプロモーションは長年にわたる概念であり、細胞の分裂回数を増やすものは何でも発がん促進作用がある。

  • トリクロサンとマウスの腫瘍

triclosan and tumours in mice
November 17, 2014
http://www.sciencemediacentre.org/triclosan-and-tumours-in-mice/
タイトルと雑誌
よく使われる抗菌剤トリクロサンは肝腫瘍プロモーターである
The commonly used antimicrobial additive triclosan is a liver tumor promoter
November 2014, PNAS
主な主張−そしてそれはデータの裏付けがあるか?
この論文はトリクロサン(TCS)を使用することがヒトのがんを促進するという主張を証明していない
この論文には3つの実験が報告されている
・対照群6匹とTCS投与群6匹でTCSが肝繊維化を誘発するかどうか
・3対6匹でTCSが核受容体を活性化するかどうか
・30-35匹3群で6ヶ月のTCS処理で発がんイニシエーターであるジエチルニトロソアミン処理したマウスの肝発がんを促進するかどうか
限界
・トリクロサンの用量が~68.8 mg/kgと毎日6ヶ月間~28.6 mg/kgで現実的ではない
・ヒトでは歯磨き使用で毎日~0.05 mg/kg
・単一用量のみで用量反応は不明
・多重比較による統計学的問題
(C57BL/6の雄、TCSは飲水)

メディアはこんな感じ
Daily Mail
せっけんや歯磨きやシャンプーの添加物ががんと肝疾患に関連することがわかった
Additive found in soap, toothpaste and shampoo is linked to cancer and liver disease
17 November 2014
http://www.dailymail.co.uk/health/article-2838070/Additive-soap-toothpaste-shampoo-linked-cancer-liver-disease.html