食品安全情報blog過去記事

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論文

  • 早期閉経が日々の化学物質暴露に関連

Earlier menopause linked to everyday chemical exposures
28-Jan-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-01/wuso-eml012715.php
PLOS ONEに発表されたワシントン大学医学部の研究。人体のホルモンに干渉することが疑われている111の化合物の血中及び尿中濃度を調べた。1999-2008年にNHANESに参加した31575人の女性、そのうち1442人が閉経女性のデータを解析。15物質(PCBやフタル酸など)が閉経の早さと関連する
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0116057
(平均年齢60才のヒトに初潮と閉経が何時だったか聞いているのだが。初潮年齢はともかく閉経年齢ってそんなに正確で大事?遅い方がいいということもないような)

NZ SMC
内分泌撹乱化学物質と閉経−専門家の反応
Endocrine disrupting chemicals and menopause – experts respond
January 29th, 2015.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2015/01/29/endocrine-disrupting-chemicals-and-menopause-experts-respond/
米国の研究によるとホルモン類似化合物濃度の高い女性は低い女性より早く閉経することがわかった。英国と豪州のSMCが専門家のコメントを集めた
Lancaster大学環境化学Crispin Halsall博士
この研究ではホルモン類似作用の強さが大きく違うたくさんの化合物を扱っており血中濃度の違いも膨大で、何らかの関連があるように見えてもその理由は全く曖昧である。日常生活で暴露される難分解性化合物について無関心ではいられないが作用についてはさらなる研究が必要である。さらにこの論文で言及されているいくつかの化合物は、PCBやマイレックスやb-HCHなど、英国では既に禁止されている。
McMaster大学CIHR/Ontario女性健康評議会教授Warren Foster
私はこの論文を興味深く読んだ。全体としていくつかの化合物と閉経年齢に関連を示したが、著者が指摘しているようにそれは因果関係を示したものではない。むしろ、この研究は仮説を提示した研究であり、因果関係を調べるためのさらなる研究を正当化するものである。このデータは政策決定や行動変化には使えない。この種の関連は疑陽性でよく見られるからである。古い例はコウノトリが多いと赤ちゃんが多く生まれるのでコウノトリが赤ちゃんを運んでくる、というものである。似たような疑似相関はたくさんあって例えばオーガニック食品の消費が増えると体重が増えるのでオーガニック食品が肥満の原因である、というものがある。この研究では111の化合物と閉経を調べている。単純にこれだけたくさんの化合物を調べたというだけでもいくつかは偶然で統計学的に有意になる。
さらに著者が指摘していない重要な点は、この論文で調べているダイオキシンやPCBや有機塩素農薬などの環境中濃度は下がっている。そして同時に人体中の濃度も以前より下がっている。この研究で報告されているデータはNHANESの初期のものであり最近のものはまだ発表されていない。最近のデータでも関連が残るかどうかを見るのはおもしろいだろう。
そしてこの研究で報告されているPCBや農薬は既に禁止されている。ダイオキシンは天然に山火事でも生じる。いくつかのフタル酸は使用が制限されている。
近年の分析化学は非常に改良されていて極微量でも人体から検出できる。もし時間とともに化合物濃度を追跡できたなら今の時代は数十年前より暴露量が少ないことを発見するだろう。動物実験で有害影響が報告されていてもその濃度は大量でヒト組織から検出された量とは違う。
Edinburgh大学男性生殖健康研究チームリーダーRichard Sharpe教授
環境化学物質への暴露が早期閉経リスクに影響するかどうかは答える必要のある質問だが、極めて難問である。閉経は卵巣から卵子が無くなる年齢だが卵子の数は胎児期に決まる。この研究は米国人を代表する閉経女性コホートを用い、難分解性化合物の濃度が最も高い女性の閉経が1.9-3.8年早いことを見いだした。この研究は概ねよくできているが言及されていない重大な限界がある。(1)関連は因果関係を証明しない、(2)難分解性化合物の暴露量には食事要因(特に脂肪)が大きいがこの交絡は考慮されていない、(3)現在の暴露量は卵子が作られる早期の暴露量を反映していない可能性がある(4)喫煙などのポジコンがあればもっと信頼性が増したはず(5)社会経済状態の解析がほとんどない
Exeter大学環境生物学教授Charles Tyler
この種の研究はたくさんあるが問題は全て同じで関連がある、ということである。つまりなんらかの化合物と関連する健康状態は無数にある。何が重要で何が重要でないかを分離するのは疫学データのみではほぼ不可能である。これまで多くの研究がホルモンち「有害」健康影響の関連を示してきた。今回は閉経である。多くのデータはほんの僅かの違いである。もし関連があるとしてもその意味を確認するのは大きな課題である。この研究の主要メッセージは環境中に難分解性化合物が存在することは良いことではないと注意換気することだろう。
Oxford大学内分泌教授Ashley Grossman
我々の環境中には何らかのホルモン作用が疑われる化合物が無数にある。この研究では111物質を調べているので単純に偶然有意になることはある。多くの化合物は既に使用されていないが減らすのは賢明であろう。多分ボトル入り水を使わないのがより健康的であろう。
Adelaide大学医学部薬学研究科上級講師Ian Musgrave博士
関連があるという研究は他の要因が関与しているという問題から逃れられない。PCBの暴露量は減らす方が良く、既に減っている。最新のデータではNHANESの初期に比べてフタル酸の暴露量は少なくとも45%減っている。
Edith Cowan大学医学部講師Anna Callan博士
この研究は横断研究であり因果関係は示せないが将来の研究の出発点になる
Monash大学公衆衛生予防医学部女性健康教授で国立健康医学研究評議会主任研究フェローSusan Davis教授
これは重要な論文でこれまでの根拠に付け加えるものである
Melbourne大学名誉教授で王立オーストラリア化学研究所前所長Ian Rae教授
良い知らせはこの研究の多くの化合物は既に10年ほど前に禁止されていて体内濃度は減っているということである。
結果を見るに、閉経年齢は研究者らが調整したもの以外の多くの要因に影響される。工業化学物質も関与しているかもしれないがこの種の疫学研究では「関連」しか観察できない。著者らはこのことを言っているが、彼らの熱意は間違ったところにむかっている−なぜなら45-55才というのは生殖能力の絶頂期とは言い難い。