SMC UK
expert reaction to carcinogenicity classification of five pesticides by the International Agency for Research on Cancer (IARC)
March 20, 2015
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-carcinogenicity-classification-of-five-pesticides-by-the-international-agency-for-research-on-cancer-iarc/
IARCが5つの農薬をヒト発がん性がおそらくあるあるいはある可能性があると分類した
Brunel University Londonのヒト毒性学教授Andreas Kortenkamp教授
IARCは農薬のがんハザードについての新しいエビデンスを注意深く検討し、ヒトへの発がん性を‘probably’または ‘possibly’と分類した。EU当局は既存の対策が消費者や労働者をがんリスクから十分守っているかどうかを検討する必要がある。これは広く使用されているグリホサートについて特に重要であろう。自宅でガーデニングをしている人はグリホサートを含む除草剤を使う場合には最大限の注意をすべきであろう。
メルボルンRMIT大学分析化学者上級講師Oliver Jones博士
この新しい評価の主要ポイントは、これまでIARCが評価していなかったグリホサートとダイアジノンがレビューされて「おそらく発がん性」に分類されたことだろう。マラチオンも格上げされたがパラチオンとテトラクロルビンホスは「発がん性の可能性がある」に分類された。このことはおそろしげに聞こえるだろう、そしてIARCの評価は通常とてもしっかりしたものであるがここで引用されている根拠は私には少々薄弱に見える。
評価自身、全ての化合物についてヒトでの発がん性に着いての根拠は限定的で不適切だと述べている。それに加えてテトラクロロビンホスはEUでは禁止されているしダイアジノンとパラチオンの使用は厳しく制限されている。グリホサートとマラチオンは非常に広く使用されているがEPAも含めて広範に研究されていてEPAは使用を認めている。
人々はIARCがほかに夜勤を含む70以上のことを「おそらく発がん性がある」と分類していることを知りたいだろう。発がん物質として最高ランクになっているものにはプルトニウムや「アルコール飲料」「日光」がある。
そう、農薬は危険な可能性がある、しかし十分な量長期間与えられれば危険なものは他にもたくさんある−量が毒かどうかを決める。根拠がないことは低用量で影響がないことの根拠にはならないが、私にとってはこれは保守的というより予防的であるように見える。
個人的には私は菜食主義者で野菜をたくさん食べるが、この報告で心配してはいない。
Imperial College London生化学薬理学Alan Boobis教授
IARCはヒトと動物実験データをもとにしてハザード同定を結論する。彼らが問うのは:その物質は発がん性があるか?そしてそうならヒトで良い根拠があるか?である。
IARCのプロセスは現実世界で農薬がどのように使われているかを考慮するようにはできていない。一般的に特定の作用機序を確立する必要はないし作用機序が発がん性分類や結論に影響することもない。IARCのプロセスはリスク評価ではない。それが決めているのはその化合物にがんを誘発する能力があるかどうかであり、どのくらいの確率でがんを誘発するかではない。農薬の影響についての疫学研究における暴露評価は難しいことで有名である。主な研究対象である農場労働者は単一の農薬にのみ暴露されるということは決して無く因果関係を確立するのは非常に難しい。
英国発がん性委員会(COT)は何度か農薬暴露とがんいついての関連を評価してきた。そのような関連についての根拠はほとんど無かった。最良でも根拠は一貫せず規制の根拠にするには不十分であると考えられた。
IARCの結論は重要で考慮すべきではあるが同時に現実世界での農薬の使用状況も考慮すべきである。私の見解ではこの報告は不当な警鐘の引き金にはならない。
Queen Mary University of London病理学名誉教授Colin Berry卿
私は英国やEU、WHOの多数の規制機関で働いてきて農薬の解析において籾殻と小麦をふるい分けるのに慣れている。この新しい評価に欠けているのは研究を検討するときのバランスである。グリホサートについては60以上の遺伝毒性試験がありヒトの暴露に関して警戒すべき結果を示したものは一つもない。ヒトの疫学研究については7つのコホート研究と14の症例対照研究がありいずれも発がん性を支持しない。著者らは非ホジキンリンパ腫(NHL)を含めているがこの診断名はあまりにも不明確なので今は使われていない。NHLを含めるとしても7つの研究のうち1つだけが陽性でその一つは私に言わせれば質の高い研究ではない。根拠の重み付けをすれば発がん性はない。
「陽性」と引用されたある研究の著者は以下のように言っている:「NHLとそのサブタイプとの関連で評価された農薬は26なので偶然の知見は起こりうる。我々の結果は多様な化学構造や機能クラスの農薬がNHLとそのサブタイプの過剰リスクと関連していたが、何らかの単一クラスの農薬の全てのメンバーがNHLやそのサブタイプのリスクの増加とは関連しなかった」
この評価では43の病気を一つのカテゴリーにまとめ、化学構造の違う複数農薬を検討し、決定的なデータを含めていない。これらの病気の多様な遺伝的変化がこれらの農薬で誘発されることを示唆するものは何もない。これはどちらかというと選択的レビューである。
Southampton大学職業環境医学David Coggon教授
IARCモノグラフは新しい一次研究ではない。そうではなく既存のヒトや動物でのピアレビューのある雑誌に発表された根拠を厳密に系統的にレビューしてがんハザードを分類するものである。
農薬とがんについては多数の疫学研究が行われていて多くはたくさんのがんを対象にしているため単に偶然で正の関連が見られる。従って疫学的根拠を評価する時には、バイアスでは説明できない、一つまたはそれ以上のがんについてリスクの増加が一貫して見られているかどうかを探る。Lancetの要約の表からはこの種の一貫した根拠は今回検討されたどの農薬についても見つかっていないことが明確である。
一方で動物実験の結果は5物質中4物質で明確な発がん性がある。この状況ではリスク管理上問題となるのは動物でがんを誘発する可能性が、農薬使用によるヒト暴露レベルでのヒトの実際的なリスクとして翻訳できるかどうかである。この場合の判断は動物での発がん作用メカニズムがヒトでもおきるかどうかによる(遺伝毒性があるか、あるいは他のメカニズムが関与する良い根拠があるか)。非遺伝毒性メカニズムならヒトで発がん性があるのは一定の量を超えた暴露量の場合で、そうならヒトの暴露量はその閾値を超えているかどうか?
EUでも米国でも農薬の規制のためのリスク評価では、動物や、あれば疫学研究から、発がん性についてルーチンで検討している。一部はピアレビューのある雑誌に発表されないが特定の厳格な基準で行われた試験もある。採択されているアプローチは予防的である。ある化合物に発がん性の疑いがあれば、それが遺伝毒性ではないこと、最悪シナリオでの暴露でがんリスクにならないことについての質の高い根拠が無ければ使用が認められることはない。リスク評価は定期的に見直される、特に過去に認識されていない問題を示唆する新しい根拠が出てきた場合には。
IARCの報告は直ちに警告とはならない。しかしながら世界中の規制機関はこの新しい評価に注目し現在認可している農薬のリスク評価を見直す必要があるかどうかを検討するだろう。
名誉毒性学者Tony Dayan 教授
IARCの新しい評価は各化合物についての出版された情報の包括的レビューを続けたものである。この評価は厳密にコントロールされた実験室での毒性試験データよりヒトでの経験の報告に影響されやすく再現性の低さや日常生活の様々な影響と問題の化合物の影響を区別することの困難な、異なる臨床試験を組み合わせて解析することのよく知られた問題点をもつ。この報告でのグリホサートとマラチオンをグループ2Aへの分類はヒトでの様々な質のいろいろな結論の少数の研究と多数の実験質での結果を反映したものである。根拠全体の性質や質を詳細に解析すればそのような分類は支持できずせいぜい2Bであろう。