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IARCモノグラフ112巻:5つの有機リン殺虫剤と除草剤の評価

IARC Monographs Volume 112: evaluation of five organophosphate insecticides and herbicides
http://www.iarc.fr/en/media-centre/iarcnews/pdf/MonographVolume112.pdf
最終評価の要約と短い根拠をThe Lancet Oncologyにオンライン発表した。
評価の結果は?
除草剤グリホサート、殺虫剤マラチオン、ダイアジノンはヒトに対しておそらく発がん性がある(Group 2A)
殺虫剤テトラクロルビンホス、パラチオンはヒトに対して発がん性のある可能性がある (Group 2B)
IARC評価の科学的根拠は?
テトラクロルビンホスとパラチオンのGroup 2B分類は、実験動物でがんを誘発するという説得力のある根拠に基づく。
マラチオンについてはヒトでの前立腺がんと非ホジキンリンパ腫に関する限定的根拠がある。ヒトでの根拠は米国、カナダ、スウェーデンでの2001年以降に発表された主に農業における暴露での根拠である。マラチオンは齧歯類での試験で腫瘍を誘発する。マラチオンはDNAと染色体に傷害を与えホルモン経路をかく乱する。
ダイアジノンについてはヒトでの肺がんと非ホジキンリンパ腫に関する限定的根拠がある。ヒトでの根拠は米国、カナダでの2001年以降に発表された主に農業における暴露での根拠である。またダイアジノンがDNAや染色体傷害を誘発する強い根拠があることにも基づく。
グリホサートについてはヒトでの非ホジキンリンパ腫に関する限定的根拠がある。ヒトでの根拠は米国、カナダ、スウェーデンでの2001年以降に発表された主に農業における暴露での根拠である。さらにグリホサートは実験動物でがんを誘発する可能性があるという信頼できる根拠がある。マウスでの腫瘍に基づいてUS EPAは当1985年にグリホサートをヒト発がん性の可能性がある(グループC)と分類していたが、後にそのマウス試験を再評価して1991年にヒト発がん性の根拠はない(グループE)に分類を変更した。EPAの科学助言委員会は再評価されたグリホサートの結果はIARCの前文で推奨されている2つの統計学的検定を用いると有意ではあると注記している。IARCのワーキンググループは米国EPAの報告書での有意と、いくつかの細菌の陽性の結果から、実験動物での発がん性の根拠は十分であると結論した。グリホサートは細菌を使った試験では陰性であるがヒト細胞ではDNAと染色体に傷害を与える。地域住民についての一つの研究では、近所でグリホサート製剤が散布された後で染色体傷害の血液マーカー(小核)の増加が報告されている。
どうやって人々が暴露される?
テトラクロロビンホスはEUでは禁止されている。米国では家畜やのみ取り首輪を含むペットに使用されている。他国での使用に関する情報はない。
パラチオンは1980年代以降厳しく制限されている。2003年までにEUと米国では全ての認可は廃止されている。
マラチオンは現在も農業や公衆衛生、住宅の昆虫コントロールに使用されている。世界中で相当量が生産され続けている。労働者はマラチオンの製造や使用の才に暴露される可能性がある。一般人の暴露は主に散布される近所に居留すること、家庭内使用、食事由来で低い。
ダイアジノンは農業や自宅あるいは庭の昆虫管理に使用される。生産量は比較的少なく2006年以降米国とEUで使用制限されたためさらに減っている。他国での使用に関する情報は少ない。
グリホサートは現在除草剤として世界で最も多く生産されている。世界中で最も多く使用されているのは農業である。農業での使用は、グリホサート耐性遺伝子組換え作物の開発以降急激に増加している。グリホサートは森林、都市部、家庭でも使用されている。グリホサートは散布中の空気や水、食品から検出されている。一般人の主な暴露源は散布される近所に居留すること、家庭内使用、食事由来で観察されている漁は一般的に低い。
グループ2Aとグループ2Bは何を意味する?
グループ2Aはその物質がおそらくprobablyヒト発がん性があることを意味する。この分類はヒトでの発がん性についての限定的根拠Limited evidenceと実験動物での発がん性についての十分な根拠があるときに使われる。Limited evidenceというのはその物質の暴露とがんの間に正の関連が観察されているが、その知見は他の説明(偶然、バイアス、交絡)が排除できないことを意味する。このカテゴリーはヒトでの発がん性についての根拠は限られているが発がんメカニズムについての強力なデータがある場合にも使われる。
グループ2Bはその物質がヒト発がん性の可能性があるpossiblyことを意味する。グループ2Bはしばしばその物質が実験動物ではがんを誘発する信頼できる根拠があるがヒトの発がん性についてはほとんどあるいは全く情報がないことを意味する。
何故IARCはこれらの農薬を評価したのか?
IARCモノグラフ計画では多数の農薬を評価してきた(アントラキノン、ヒ素及びヒ素化合物)。しかしながら広く使用されている多くの農薬にについて相当な新しいデータが入手できるようになってきた。2014年に科学者と政府の国際助言委員会が数十の農薬の評価を行うよう薦めた。その助言に従ってIARCは5つの有機リン農薬について新たに評価あるいは評価を更新した。

  • The Lancet Oncology

テトラクロルビンホス、パラチオン、マラチオン、ダイアジノン、グリホサートのがん原性
Carcinogenicity of tetrachlorvinphos, parathion, malathion, diazinon, and glyphosate
Kathryn Z Guyton et al.,
Published Online: 20 March 2015
http://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(15)70134-8/abstract