Does glyphosate cause cancer?
23 March 2015(この日付はドイツ語版のもの、英語では27日)
http://www.bfr.bund.de/cm/349/does-glyphosate-cause-cancer.pdf
2015年3月の最近の評価で、WHOのがん専門機関であるIARCがグリホサートを、ヒト試験については「限定的根拠」、動物実験では「十分な根拠」に基づき発がん性グループ2A(おそらくヒト発がん性がある)と分類すべきと結論した。この分類は2015年3月20日に"Lancet"の雑誌に短報として発表された。
EU再評価枠組みの中での有効成分グリホサートの「報告国」として、BfRはヒト健康リスク評価を担当し、グリホサートに発がん性はないと評価している。これは担当する国や欧州やWHOのJMPRを含む他の国際機関により支持されている。従ってBfRは発表された短報に基づきIARCの分類にコメントを発表する
IARCはWHOのがんの専門機関である。IARCの主な目的はがん研究における国際協力の促進である。発がんリスクの評価は独立した科学者からなる国際ワーキンググループによるもので定性的なものである。規制や基準を薦めるものではない。2015年3月に11ヶ国の17人が4つの有機リンとグリホサートについて評価するためにIARC(リヨン、フランス)で会合を開いた。ワーキンググループはグリホサートを「おそらくヒト発がん性がある」と分類した。この評価はIARCモノグラフ112巻として発表される。
BfRの意見では、"Lancet"の雑誌に2015年3月20日に発表されたグリホサートの「グループ2Aの発がん性」(おそらくヒト発がん性がある)への分類は驚きであった、なぜならばWHOの残留農薬委員会のような国際団体による評価(JMPR, 2004)や米国EPAのような国家規制機関は別の評価、つまりグリホサートは発がん性はないと結論しているからである。残念ながらIARCの評価の根拠となった文献のデータはわからない。通常IARCは評価会合の後で背景となったモノグラフを作るがそれがまだ公表されていないからである。従ってIARCが結論を下したデータや主張の包括的科学的検討は現時点では単純に不可能である。
さらにドイツは現在行われているEUでのグリホサートの再評価の「報告国」(評価書を作る担当)である。このため「更新評価報告書」(RAR)を2013年に作成し2014年に改訂し2015年には再び改訂した。2013年の報告書はEFSAにより加盟国に配布され2014年にパブリックコメント募集を行っている。数百のコメントを考慮して改訂がなされている。この報告書の毒性学と残留についての章はBfRが担当した。そのためにBfRは世界中のグリホサートに関する最も包括的な毒性学的データをまとめた。このデータは多くのグリホサート製造企業が行った数百の試験と公開されている文献数千からなる。このような大量のデータがあるということがグリホサートを農薬成分としては独特のものにしている。BfRはある物質のリスク評価と毒性評価には、多かれ少なかれ恣意的に選択された研究のみによらず、全てのデータを考慮すべきと考える。
IARCからのより信頼できる情報がないため、BfRは短いLancetの報告で言及されている知見を我々のデータの特定の研究に当てはめることを試み、そうすることによって全体を把握しようとした。
IARCのグリホサートの発がん性という新しい分類はまず最初にヒトでの「限定的根拠」に基づく。米国、カナダ、スウェーデンの3つの疫学研究でグリホサート暴露と非ホジキンリンパ腫のリスク増加に統計学的関連が見られたことによる。しかしながらこの評価は同時に引用されている非常に大規模なコホート研究である「農業健康研究」や他の研究では確認されていない。グリホサート暴露がヒトでのがんの原因として関連するかどうかについての疫学研究の論文及び関連するグリホサートについての方法論的及びバイオモニタリング研究についての2012年以降の論文をレビューしたところ、総がんあるいは特定の部位のがんとグリホサート暴露との間に因果関係を示す正の関連が一貫して認められることはなかった。現在BfRがEUに提出している報告書では30以上の疫学研究を評価し、全体としてグリホサート暴露と非ホジキンリンパ腫やその他のがんのリスク増加の間に妥当なあるいは有意な関連はないと評価された。
二つ目にIARCはグリホサート生産者から提出された動物実験のの知見をグリホサートの発がん性の根拠だと指摘している。これらのデータは全てBfRのグリホサート評価で検討されていて、JMPRの結論「動物での発がん性はなく標準試験での遺伝毒性もないことからJMPRはグリホサートはヒト発がんリスクとはなりそうにない」を支持している。BfRはBfRが妥当とみなした11の長期ラット・マウス試験のうちどのくらいがIARCに提出されどう評価されたのかわからない。
さらにIARCはグリホサート製剤が皮膚腫瘍を促進すると結論した。一般的に製剤を使用しての試験は、製剤に含まれる成分で結果が大きく変わるので有効成分の毒性学的評価には使うべきではない。従ってマウス二段階発がんモデルに高濃度の有効成分を含む皮膚刺激性のある製剤を使用しての皮膚腫瘍の促進作用は、グリホサートの発がん性の根拠としてはみなされない。
IARCの発表した短い報告では、特に詳細のわからない製剤を用いた試験を評価に含めたという事実から、グリホサートの遺伝毒性の根拠を完全に吟味することはできない。
異なる情報と異なる実験データの解釈により機関の評価が違うことはリスク評価プロセスの一部である。従ってBfRはモノグラフが入手できるようになったらIARCが行った分類を詳細に検討する
(若干説明を加えると、IARCモノグラフは常に同じ人たちが作っているわけではなくテーマ毎に呼ばれる専門家は違う。たまたま呼ばれた、本職は別にある人たちが、限られた時間(数日)で与えられた情報のみから結論を出すので、許認可書類を見たことがない人が、許認可のための書類を排除されて評価しろと言われたらこういうことが起こる可能性はある。専門家を選定する際に、グリホサートのような既に十分評価されているものについてはIARCの評価はあまり重要ではないと思われていたかもしれない。信頼性は圧倒的にBfRのほうが上だけれど知名度はIARCのほうがあるかもしれない)