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特集:ダイエタリーサプリメントに隠された危険を明らかにする

Science
Feature: Revealing the hidden dangers of dietary supplements
By Jennifer Couzin-Frankel 20 August 2015
http://news.sciencemag.org/health/2015/08/feature-revealing-hidden-dangers-dietary-supplements
Pieter Cohenが死にそうになったのは最も都合の悪い時で、ちょうどもう一つの恐ろしいダイエタリーサプリメント成分に手を出そうとしていた時だった。マサチューセッツケンブリッジ保険組合の内科医であるCohenは、妻と3人の子どもと一緒に昨年の8月にニューハンプシャーでハイキングをしていて、躓いて転倒した。石で左のふくらはぎを傷つけた。「小さいけれど深い傷だった」妻のLauren Buddingが思い出す。次の日までに細菌がCohenの血流を巡り足は赤く腫れた。彼の血圧が急速に低下し地域の病院に駆け込み間もなくボストンの外傷ユニットに救急車で運ばれた。医師は必死に彼を安定させようとし感染の拡大を防いだ。その後数日間で死の脅威は衰えたが正常に歩けなくなるリスクはまだ残った。一方Cohenはいつものように心配していた:薬物の入ったダイエタリーサプリメントを飲み込んでしまうかもしれない彼の患者を含む消費者のことを。ベッドに縛り付けられて痛みの中で彼はコンピューターを要求したが妻は拒否した。彼女は病院のスタッフに「この人には睡眠が必要です」と言ったので、Cohenは母親に、The Boston Globeの中に隠したデータと一緒にラップトップをこっそり持ってこさせた。「妻の見ていない時に論文を書くことができた」と説明する。
事故から11日後、そして5回の手術の4回目の後、Cohenと二人の共著者はDrug Testing and Analysisに論文を投稿した。この論文は狼狽させるもので、少なくともアメリカで減量・脳機能増強・運動パフォーマンス強化を宣伝して販売されている合成興奮剤を含む数十のダイエタリーサプリメントにとっては。その化合物、CohenらがDMBAと名付けたものは、化学構造がメタンフェタミンに似ていた。それはヒトで調べられたことはなく、1940年代に二つの動物実験があるだけである。「その有効性や安全性は全くわからない」、と彼らは書いている。
リビングルームに置かれた病院のベッドの上で移植した皮膚が治るのを待ちながらCohenは雑誌に訴えた:「私は歩けず、完全ではない。このレビューを進めてくれないか?」その論文は一ヶ月後の昨年の10月にオンライン発表された。今年4月FDAはDMBAを含む製品を販売している企業に警告文書を発送した。その文書には「FDAはこれらのダイエタリーサプリメントは異物混入されているとみなす」と書いてあった。そしてCohenは次のプロジェクトに取りかかろうとしている。
Cohenは彼の患者が抗うつ剤甲状腺ホルモンの入ったブラジル製の減量サプリメントで病気になった2005年以降、サプリメント業界のインディー・ジョーンズとシャーロック・ホームズの混ざったようなものになった。米国、ブラジル、欧州の化学者の同僚と一緒に、サプリメントに隠されている違法薬物を探している。そして彼は発表する。彼の非正統的広報戦略は、あまり有名でない専門雑誌に研究を速やかに発表し、厳選されたジャーナリストのネットワークに届け、そして最終的には新しい規制につなげることを望んでいる。彼には実質的に資金は全くなく保証もない。「私は安全に自由な立場である」と彼は言う。これまで彼と同僚はサプリメントに隠された3つの興奮剤を同定してきた。
Cohenの発見はより広範な問題:ダイエタリーサプリメントを巡る政策の機能不全、を明るみに出す。代替医療についての「魔法を信じるかい?」という本を出しているフィラデルフィア子ども病院のワクチン教育センター長Paul Offitは「つまり基本的に民間人がボトルの中身と表示が合っているかどうかを調べているということで、馬鹿げている」という。しかしその民間人は影響を与えた。FDAはCohenの仕事を引用してあるいはそれに従ってDMBAに警告した。さらに彼はサプリメント企業の注目を集め、4月に2億ドルの訴訟をおこされた。私が書いた全てのことが精査され、途方もないプレッシャーとなった、と彼は言う。科学が防弾となることを期待する、と。
現代のサプリメント時代は1994年に議会がダイエタリーサプリメント健康教育法(DSHEA)を成立させた時に始まった。数十年前にはサプリメント業界はビタミンやミネラル一辺倒だった。多くの規制はビタミンCや鉄やカルシウムのような製品の推奨一日摂取量についてのものだった。DSHEAはサプリメントの規制について最初の広い枠組みを確立しサプリメントに法的定義を与えた:ハーブや植物やビタミンなどの「食品成分」を含む「食事を補う」目的の物質、と。同時にこの法律はFDAの力を大幅に削いだ。企業は食品成分が法律が成立する前に使用歴があることをFDAに通知する必要がない。DSHEAは初めてサプリメントが人体の構造や機能に影響することを表示することを許した−例えば免疫機能強化や前立腺の健康を守るなど。そしてDSHEAは緩い基準を成文化した:この法では、「販売前に安全性と有効性を証明しなければならない医薬品とは違って、ダイエタリーサプリメントは消費者の手に届く前にFDAが「認める」決まりはない」FDAサプリメントが販売されて安全ではないという証拠が示された後でのみ対応できる。
企業と多くの消費者がDSHEAを歓迎し、医師やジャーナリストや消費者保護団体が批判した。DSHEA成立直後The New York Timesはこの法律を「インチキ保護法」と呼んだ。それは悪徳企業や個人が詐欺的宣伝で金儲けをする権利を最大化するものだとして。そして業界は爆発的に大きくなった。1994年以降米国で販売されているダイエタリーサプリメントの数は約4000から75000以上に膨らんだ。昨年の売り上げは約360億ドルである。
DSHEについてのトラブルは絶えることがない。2年のうちに中国ハーブ麻黄あるいはエフェドラが監視対象になった。天然物ではあるがこのハーブには神経系を興奮させ血管を収縮させる化合物が含まれる。1996年までに少なくとも15人の死亡と関連する。そしてFDAは肝臓や腎臓やその他のサプリメント関連健康リスクについて常に警告を出し続けている。
テキサス、ヒューストンのBaylor医科大学リューマチ学者で免疫学者のDonald Marcusは「食事を補助し役にたつ可能性のある、カルシウムや鉄などの本物のダイエタリーサプリメントもあるが、エキナセアセントジョーンズワートなどは医薬品として使われていたものである。植物は複雑な化学物質の混合物で、この類のサプリメントは重大でますます大きくなる公衆衛生上の問題である」という。Marcusらは2002年にThe New England Journal of Medicineに書いている。どのくらい大きな問題なのかははっきりしないが、FDAが報告されている有害事象はほんの一部である。
エフェドラへの懸念は増大し続け、兵士の死亡に関連するとして軍隊が販売を禁止した。イリノイで16才が死亡し州が禁止した。そしてFDAは23才の大リーグの投手が死亡して2004年に禁止した。
Cohenのサプリメントとの関わりは仕事からくる。Yale大学医学部卒業後、彼はレジデントを経てケンブリッジ保険組合で働くようになった。患者の多くはブラジルからの移民で、長いこと謎の症状を呈していた。Cohenの上司のDaniel McCormickは、ある女性は動悸、発汗、不安、酷い疲れを訴え別の人は腎不全で救急搬送された、と思い出す。ある男性は尿からアンフェタミンが検出されて失業した。Cohenはこれらがブラジルから輸入された虹色のダイエット錠剤に関連することを発見した。検査に出したところアンフェタミン甲状腺ホルモン、ベンゾジアゼピンフルオキセチンが検出された。McCormickとCohenらは彼らの病院と近くの教会の307人のブラジル人患者を調査し、病院の患者の18%、教会の人の9%がその錠剤を使用していると報告した。2/3が副作用を経験していた。この論文は2007年に無名の雑誌Journal of Immigrant and Minority Healthに発表された。Cohen自身認めるが、「この論文を読んだ人は10人以下だろう。もっと広める必要があることはわかっていた」彼は地元の記者に接触し記者はインタビューをした。ブラジルの主要新聞がCohenに取材し一面で報道した。数年後虹色のダイエット錠剤はブラジルで禁止されたがそれにCohenの仕事が関係したかどうかはわからない。Cohenは異物混入サプリメントはブラジル近傍の問題だと考えた。しかしその後彼はFDAから電話を受け「米国で販売されている減量用サプリメントからも見つかっていてそれは大きな問題である」と知らされた。
米国アンチドーピング機構のAmy Eichnerは「異物混入ダイエタリーサプリメントについては我々は長い間懸念してきた」という。2003年と2008年にはエリートアスリートが薬物陽性でオリンピック参加資格を失った。彼らはサプリメントにそんなものが入っていたことは知らなかったという。また軍隊では15-20%がボディビル用などのサプリメントを使用していると推定されている。もう一つの問題のあるカテゴリーは性機能増強用製品である。そこで2013年にEichnerは169のハイリスク製品を調べ、107から少なくとも1種類の禁止薬物を検出した。それらは表示されていない。多くの場合成分は違法な化合物である。
そのころCohenは衝撃的電話での会話をしていた。企業のためにサプリメントの検査をしているラボの科学者がCohenにエフェドラ代用品の興奮剤DMAAがたくさん検出されることを深く憂慮していると打ち明けたのだ。Cohenはこの会話が「私にとっての新世界への扉を開くきっかけとなった」という。
虹色のダイエット錠剤については、彼は処方薬にのみ焦点を合わせていた。DMAAは数十年前に市場から取り下げられる前には点鼻スプレーとして使われていたことはあったが、今は「研究用化学物質」である。一部の企業はそれを植物由来だと主張しているがCohenらは疑っている。彼はサプリメントに添加されている危険なものを探し始めた。FDAは間もなく2013年にDMAAを含むサプリメントは違法だと発表した。しかしCohenは他の標的には事欠かないことをすぐに学んだ。
「まるでシャーロック・ホームズのようだ。犯罪があって手がかりがある。人々はサプリメントを使用して死亡している。何が起こっているのか?」
彼は5000km離れたオランダ、ユトレヒトに完璧なパートナーを見つけた。医薬品化学者でサプリメントを分析しているBastiaan Venhuisである。共著論文の一つは2013年の秋にDrug Testing and Analysisにオンライン発表された。それは人気のあるワークアウトサプリメントCrazeを調べたもので、メタンフェタミン類似体DEPEAが入っていた。
これを広めるためにCohenはブラジルのサプリメントの時と同じ戦略をとった。論文の最終稿を発表前に個人的に特定のジャーナリストに送付した。Cohenの同僚のMcCormickは、このようなメディアへの伝え方は自己宣伝のようであまり好まれないかもしれないが、研究に費やした時間と労力を無駄にしないためには必要だったという。
Cohenはジャーナリストだけではなくサプリメント企業からも注目された。4月後半、アンフェタミン様化合物BMPEAを含むサプリメントを販売していたHi-Tech Pharmaceuticals社がCohenら著者に2億ドルの損害賠償請求をおこした。これらの企業はBMPEAはAcacia rigidulaという植物の成分だと主張する。しかしCohenは1人ではない。彼の研究から18か月後、FDAの科学者がサプリメントからBMPEAを検出し、BMPEAが植物の成分だという根拠はないと報告した。Cohenの論文発表後間もなくFDAはHi-Tech社を含むBMPEA入りサプリメントを販売していた5つの企業に警告文書を送付した。
他の人同様、CohenはFDAサプリメント監視能力はあまりにも制限されている、と感じている。しかしこのことはFDAに力がないという意味ではない。あまりにもやることが多いのと政治的圧力が対応を妨げていると考えている。サプリメント成分に関しては、FDAの態度は「死体を見せてくれ」である。FDAの職員はそうは言わないが完全に否定はしない。現在の法律ではダイエタリーサプリメントに対応をするためには大量の仕事をする必要がある。FDA自身フラストレーションを感じている
、とFDAの広報Lyndsay Meyerは電子メールで言う。
ハイキングでの試練から約1年、Cohenの足は加圧ストッキングを履いてはいるもののほぼ回復した。3人の子ども達の写真とサプリメントのボトルに囲まれた彼のオフィスで、Cohenはサプリメントと何年も戦っている他の人たちとの運命のようなものを感じるという。いつかサプリメントの規制が変わる時を期待して、Cohenはさらに二つのサプリメントに入っている薬物に取り組んでいる。ヨヒンビンについても調べている。
彼の夢は企業には製品の内容物とリスクについての情報が求められて人々が十分知識をもつことである。可能な限り、人々には購入の自由があるべきである。エキナセアを買うことができるべきであるが買うときにはそれが何かを知っているべきである。
(一部略。)