食品安全情報blog過去記事

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イオン化放射線への職業暴露とがんリスクについての専門家の反応

SMC UK
expert reaction to risk of cancer and occupational exposure to ionising radiation
October 20, 2015
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-risk-of-cancer-and-occupational-exposure-to-ionising-radiation/
セントラルマンチェスター大学病院核医学上級医学物理学者Heather Williams博士
この大規模研究は仕事で相当量の被曝をした30万人以上についてのものである。この研究はがんで死亡するリスクは放射線の量に比例して増加し、つまり僅かな暴露は僅かなリスクで大量の暴露は大きなリスクとなり、その増加は直線的であると結論している。この論文で示されている直線は10の点を結んだものでそれぞれの点には相当な不確実性がある。放射線モニタリングバッジの記録から人体の受けた線量を推定し、それをがんによる死亡と関連させるのは相当難しいためである。しかしながら不確実性がさらに大きいのはほかのがんによる死亡リスクを上げる要因を考慮していないことであろう。例えば発がん性化合物への暴露、仕事以外での飛行機や医療由来の被曝、受けられる治療の違いなどである。
高線量に比べて低線量のリスクがどれだけなのかについては多くの議論があり、少量なら問題ないという人もいれば少量でもリスクはあると言う人もいる。確実な根拠がないので放射線の安全な使用を確保するために働いている人たちは(私も含む)安全側にたって少量の放射線には少量のリスクがあるとみなし、可能な限り暴露量を減らすよう対応している。この研究の結論がどれだけ信頼できるかについては重大な問題があるものの、注意深い対応が正しいことを示唆するように思える。
MRC Harwell客員科学者Dudley Goodhead教授
Richardsonらによるこの大規模研究は約30万人のフランス、英国、米国の核労働者のがん死亡率を詳細に解析したものである。これらの労働者を数十年フォローし約18000人が固形がんで死亡し、そのうち約200が放射線外部被曝によると推定される。
この研究で注目すべき知見は放射線量が増えるにつれてがんリスクが直線的に増えるように見えること、100mGy以下の低線量でも、そしてリスク係数は日本の原爆生存者で得られたものと同程度であることなどである。多数のバイアスや交絡要因が残るもののこの研究の結論はしっかりしているように見える。全体としてはこの研究はイオン化放射線のがんリスクが線量に依存して、低用量でも直線的に増える、そしてリスクの大きさは暴露された時間によらないという根拠を付け加える。
(略)
この知見は現在の放射線防護の方針と実際に概して一致している。ただし急性暴露に比べて長期暴露のリスクが少ないとみなすことについてはこの研究が課題を提示している。
マンチェスター大学職業環境健康センター疫学教授Richard Wakeford教授
INWORKSは定期的に僅かに増加した放射線量に長期間暴露されている労働者の研究に次の合理的ステップを踏んだもので今日までで最も強力な放射線労働者研究である。
この研究は、放射線防護のために想定されているのと同様のレベルで、放射線量が増えるとがんリスクが増えることを発見し、低線量暴露の健康影響についての重要な直接的根拠を提供した。しかしエディトリアルでMark Littleが指摘しているように、放射線の正確な影響推定にはタバコなどの他の要因の影響も適切に考慮する必要がある。
独立した放射線生物学者Barrie Lambert博士
これはフランス、英国、米国の疫学研究を含むメタ研究で、そう言う意味ではデータは新しいものではない。3つの研究の著者がこの論文の共著者となっており、従って結論を保証している。この研究は核労働者の固形がんの死亡率と彼らの総外部被曝とを集めて比較し日本の原爆生存者のデータから得たリスクと比較している。結論は統計学的に「同等」であった。このことは高線量のリスクが低線量のリスクより大きいことはないことを示唆する。これもまたUK NRRW研究と同様でそれほど新しい知見ではない。しかしICRPは伝統的に線量率減少係数2を使っている。このことは放射線防護に影響する可能性がある。