食品安全情報blog過去記事

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論文

The harmful use of topical steroids in India is out of control, says expert
25-Nov-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-11/b-thu112415.php
BMJ。インドでステロイド入りのスキンクリームやローションが広く誤用されているという報告。
強力なステロイドは医師の処方でのみ販売できるが局所用は例外となっていて薬局で買えること、皮膚科専門医が少ない中アーユルベーダやホメオパシーラクティショナーやその他ニセ医者が、違法であるにもかかわらずステロイド入りクリームを使うこと、そして患者が友人や家族と薬を共有することなどが原因。

The Lancet: No benefit found for use of probiotic Bifidobacterium breve
25-Nov-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-11/tl-tln112415.php
超早産児の死亡、遅発性敗血症、壊死性腸炎予防に
2010年7月1日から2013年7月31日までの間に1315人の乳児、そのうち645人がプロバイオティクス、661人がプラセボに割り付けられた。一次アウトカムではプラセボとプロバイオティクス群に有意差はなかった。壊死性腸炎はプロバイオティクス61人 (9%)プラセボ 66人 (10%)、敗血症はプロバイオティクス73人 (11%)プラセボ 77人 (12%)、退院までの死亡はプロバイオティクス54人 (8%)プラセボ 56人 (9%)だった。プロバイオティクスに関連する有害事象は報告されていない。
2014年の米国での製品の汚染による致死性真菌感染症の報告と多くのプロバイオティクス製品が医薬品の製造基準に則って製造されているわけではないことを考えると未熟児への使用は支持されない。
(このプレスリリースにビフィズス菌は何のメリットもないのに日本で何年かルーチンで使われているって書いてあるんだがそうなの?)

Bifidobacterium breve BBG-001 in very preterm infants: a randomised controlled phase 3 trial
K Costeloe et al.,
Lancet (2015) published online Nov 25. http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(15)01027-2
コメント
全てのプロバイオティク系統が未熟児の壊死性腸炎を予防するわけではない
Not all probiotic strains prevent necrotising enterocolitis in premature infants
Thomas R Abrahamsson
待望のPiPS試験の結果が本日Lancetに発表された
壊死性腸炎は未熟児にとって最も恐ろしい病気の一つで15-30%が死亡する。生存者にも長期神経発達不全が残る。従って安全で有効な予防法が待たれる。極小未熟児 (<1500 g)の壊死性腸炎予防対策としてのプロバイオティクスの影響を評価した前向き対照試験の系統的レビューでは期待できる結果だった。そのためコクラン共同計画は臨床に応用すべきだと主張し、一方他の研究者らは多くの試験が方法論的に欠陥がありそれらを組み合わせたメタ解析が適切かどうかに疑義を提示していた。
この文脈でのCosteloeらの研究は重要である。これまで発表された中で最大規模の試験であり、研究デザインは文句なく極めて質が高い。イングランド南西部の新生児ICUで23-30週で生まれた1315人の未熟児を含む。効果を検出するには十分である。研究に用いたB breve BBG-001は医薬品として製造されMHRAが臨床試験に使うことを認めた。さらにこれまでの多くの試験と違って二重盲検で行われている。しかし残念ながらネガティブな結果だった。これらの知見は臨床試験で有効性が確認されたプロバイオティクス系統のみを使うべきであるという事実を強調する。さらに治療として薦める前に質の高いRCTを行うべきであることを強調する。多様な質の試験を含めたメタ解析は不十分である。
もう一つのPiPS試験の教訓はプロバイオティクスの系統の選択が重要であることである。この研究最大の弱点がビフィズス菌を選んだことで、この菌系統はこれまで新生児に効果があると報告されたことはない。PiPS試験が計画された2005年には意味のある結果が報告されたプロバイオティクス系統は存在しなかったが、実験が開始された2010年にはいくつかの系統で壊死性腸炎予防に効果があったと報告されていた。
オーストラリアとニュージーランドで行われているProPrem試験ではBifidobacterium infantis DSM 96579, Bifidobacterium animalis subspecies lactis DSM 15954, および Streptococcus thermophilus DSM 15957の3種混合でポジティブな結果が再現されている。しかしながら超未熟児の治療にとって臨床試験より大きな問題は安全性であろう。PiPS試験で用いられた製品とは違って、ほとんどの市販のプロバイオティクス製品は食品サプリメントであり医薬品のような厳しい基準で作られていない。2014年の、ProPrem試験で使用されていたABC Dophilusによる新生児死亡とリコールという悲劇は医薬品としてのプロバイオティクスの開発の必要性を強調する。

  • 求められる医薬品

Natureエディトリアル
Drugs on demand
24 November 2015
http://www.nature.com/news/drugs-on-demand-1.18873
ブラジルでのがん治療薬と噂される薬へのアクセスを巡る論争は有害な前例となりうる
ブラジルでおこっている激しい論争は、ブラジル最大の大学と、魔法のがん治療薬とされる薬を求める数百人のがん患者を戦わせることになった。しかしこの化合物にメリットがあるのかどうかはわからない。ヒトでの試験が行われていないからだ。この争いは米国やその他の国でも見られる、現代医学では治療が困難な末期患者が効果が証明されていない治療法を求める議論の過激なバージョンである。
Natureが420ページで報告したように、ブラジルの裁判所は患者に同情してSão Paulo大学に、患者にホスホエタノールアミンを提供するよう命令した。大学はこの薬物は調べられていないし患者に偽りの希望−と未知の副作用−を与えるべきではないと主張した。一方希望のほとんどない患者にとっては効果のわからない薬物の不確実性のほうが好ましいことは理解できる。
しかし心配なことが報告されている。がん患者の一部が、科学的に効果があることをが証明されている抗がん剤を、魔法のホスホエタノールアミンの効果に干渉するかもしれないという恐れから、使わないという。そしてホスホエタノールアミン支持者が政府や製薬業界がこの薬の開発を積極的に妨害しているのだと批判することで議論の害は増す。この薬が魔法ではなさそうだというのが悲しい事実である。例えば米国では第一相臨床試験に入った10の薬のうちFDAに認可されるのはたった1つである。ホスホエタノールアミンはほんの僅かの実験室と動物での根拠があるに過ぎない。
それでも末期患者は僅かな期待に賭ける。米国ではいくつかの州がFDAの管轄外で実験的医薬品を試す権利を、いろいろな程度、認めている。この法自体が議論をよんでいる。患者に偽りの希望を与え、他のもっと期待できるものから遠ざける結果になる可能性がある。
ブラジルの自体はさらに極端で、大学のラボは薬局でも医薬品工場でもなくGMPもない。内容物の監視もない。副作用や有効性も系統的に記録されていない。大学に薬を提供するよう命令するということはこれらの安全上必要な対策を無視していることを示す。
ホスホエタノールアミンへの希望はさらなる研究にかかっている。連邦出資機関はさらなる前臨床試験を支援するとしている。それらの動物実験が成功すれば臨床試験にすすむことができ患者は臨床試験に参加できる。裁判所はそれまで患者を法的対立から解放してホスホエタノールアミンのことがもっとわかるまで配布を中止するという決定を支持すべきである。
(日本には丸山ワクチンという事例がありまして・・・。マスコミが無責任に夢の治療法と持ち上げるもののいつまで経っても有効性を証明できずに標準治療にならないものは珍しくはない。例えば重粒子線の行方に注目。Lancet Oncol. 2015 Feb;16(2):e93-e100によると放医研だけでもう20年8000人の患者を治療してきたそうだ。他の施設を合わせたら相当数だろう。でもまだ医療保険は適用されない。それが何を意味するのか。)

  • やっと一緒に

Natureニュース特集
All together now
25 November 2015
http://www.nature.com/news/all-together-now-1.18860
25年の交渉を経て、全ての国がついに地球温暖化抑制のための対応をとることになった。特集号でパリ気候サミットまでの道のりとこれからを探る

NYT
No, the Tryptophan in Turkey Won’t Make You Sleepy
By DANIEL VICTORNOV. 25, 2015
http://www.nytimes.com/2015/11/26/science/no-the-tryptophan-in-turkey-wont-make-you-sleepy.html?_r=0
感謝祭のディナーのあと眠くなるのはターキーにトリプトファンが多いから、というのは良く言われる神話である。トリプトファンセロトニンの前駆体であるアミノ酸だからというが、シチメンチョウが鶏や牛肉よりトリプトファンが多いということはない。ナッツやチーズなどにもシチメンチョウより多く含まれる。トリプトファンは単独では眠くなることがあるが他のアミノ酸が共存すると効果は限定される。食後疲れたような気分になってもシチメンチョウのせいではない。多分ただの食べ過ぎ。
Texas A&M大学の栄養専門家Nicolaas Deutzがトリプトファンの実際の効果を研究していてシチメンチョウは食後の眠気とほとんど関係ないことを確認している。

  • AFLがEssendonサプリメント物語の文書をHal Hunterに渡すよう命令される

AFL ordered to hand over Essendon supplements saga documents to Hal Hunter
November 26, 2015 -
Mark Russell
http://www.theage.com.au/afl/afl-news/afl-ordered-to-hand-over-essendon-supplements-saga-documents-to-hal-hunter-20151126-gl8h7p
もと新人選手のHal Hunterが裁判に訴えるかどうかを決めるために、2012年のサプリメント計画に関する文書を渡すよう命令された。しかし協会は既に全ての文書はHunterの弁護士に渡してあるという。Hunterの弁護士は、2011年12月から2013年9月までBombers の選手だったHunter の健康に、EssendonとAFLの両方が責任を持つべきだという。
22才のHunterは、Stephen Dankの行っていたサプリメント計画のもとで何を注射されたかわからず、現在健康と安全と福祉を心配している。

  • トップ栄養士が健康的な食生活を定義するために集まったらフードファイトが勃発

Food fight erupts as top nutritionist gather to define healthy eating
By Megan Scudellari  November 24, 2015
http://www.statnews.com/2015/11/24/nutrition-diet-healthy-foods/?source=acsh.org
彼らの仕事は単純なものだった:健康的な食生活を定義する
賢い食生活の基本原理について合意するため21人の世界の栄養学者が先週ボストンに集められたがそれは鳥かごの中での闘争のようだった。
原始人ダイエットの提唱者はもっと肉を食べろと言い、地中海ダイエットの支持者はオリーブオイルを薦め、高脂肪派と低脂肪派がいがみあった。「90分も話し合って、我々はまだ野菜についてすら合意できていなかった。暗黒の時間だった。」とYale大学の予防研究センター長David Katz博士は言う。
この2日間の会議を招集したのはボストンの食の教育NPO のOldwaysで、健康的な食生活についての明確な単一のメッセージを作ろうとしたのに4時間にわたる議論になった。
メディアでは健康的な食事がいつも変わる−バターは悪い!良くない!悪くない!−それが人々に悪影響を与えている
Katzは「我々は細部については合意できないが基本は共有している」という。少なくとも理論的には。しかしこの会議のように、共通の基盤はとらえどころがない。
最初の講演でカリフォルニア大学のDean Ornish博士は心疾患予防のために低脂肪、植物ベースの食生活を提唱し、広く称賛されている地中海食を脂肪が多いとして批判した。これに地中海食の7年にわたる臨床試験を行ったスペインのNavarra大学のMiguel Martínez-González博士は黙っていなかった。情熱的にOrnish博士に反論した。Emory大学の放射線科医で原始人ダイエットの父であるS. Boyd Eatonが参戦した。ただし赤肉は炭素排出量が多いので他のタンパクでもいいと譲歩した。他の人は菜食主義や完全菜食主義を主張したり、グリセミック指数の重要性を強調したりした。
一連の発表のあと、座長のKatzは人々がもっと食べた方が良い食品のリストを作ることを求めた。「私はそれは簡単だと思った」しかし簡単ではなかった。みんな感情的になっていた。結局詳細は合意できず、広範な食事ガイドライン11項目を承認した。
http://oldwayspt.org/sites/default/files/files/OW_CommonGround_Nov19.pdf
結局食事についてはアメリカの食事ガイドライン助言委員会の助言に概ね従うこと。それに持続可能性を加えることや新しい研究がメディアで報道されるたびに基本が変わるわけではなく不必要な混乱がおこっていることなど。
(ちなみに「世界中の食事と健康に関する研究者」の中に日本人は入っていない。)