食品安全情報blog過去記事

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論文

  • がん研究が悪性化のメカニズムについて対立

Natureニュース
Cancer studies clash over mechanisms of malignancy
Heidi Ledford  16 December 2015
http://www.nature.com/news/cancer-studies-clash-over-mechanisms-of-malignancy-1.19026
環境要因と内因性要因の重要性を巡って議論
12月16日のNatureに発表された研究は、がんの主な原因は有害化学物質や放射線のような避けることのできる要因だと主張する。これは2015年にScienceに発表された論文以降、特定の組織ががんになりやすいのは細胞の内因性の要因によるとするここ最近の主張への反論を試みたものである。Scienceの研究からはある種のがんは「運が悪い」ためで予防のための努力があまり役にたたないと考えられる。しかしNatureに発表された研究は環境要因の影響を指摘する。一部のがん予防専門家はScienceの研究が人々のがんの予防対策が価値がないと考えるのを恐れてnatureの研究を歓迎する。
Substantial contribution of extrinsic risk factors to cancer development
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature16166.html
(一部のがんは予防可能で一部は運が悪いだけ、ということは多分合意されている。問題はその割合がどれだけか、で、最適なリソース配分はそれによって決まる。でも日光や宇宙線を外部リスク要因と言われてもあまり対策できないし、議論はともかく現実的な対応への影響はあまりなさそう。)

  • 寿命−遺伝的背景と活動性

Lifespan -- genetic background and physical activity
16-Dec-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-12/aof-l-g121615.php
有酸素能力と寿命が関連する
Scientific Reportsに発表されたフィンランドの研究。動物においては若いときの有酸素能力は寿命の強力な予想因子である。しかし大人になってから運動を増やしても寿命には影響しない。むしろおとなしくしていた動物より寿命が短い。
ヒトでも活動的なヒトは寿命が長いものの一卵性双生児での観察では運動するしないによる寿命の差はない。これらのことから運動と寿命の関連の背景には遺伝要因があると提案する。
Physical activity in adulthood: genes and mortality
http://www.nature.com/articles/srep18259
(遺伝的によく動く人が長生きなだけで、大人になって健康のためにと激しい運動をしても長生きにはならないという説。ただし肥満や心血管系疾患要因の改善は別だし実験用のラットってランニングさせるとやつれるような。彼らは基本的に道具で走るのは好きではないと思う。)

  • 新しい統計は米国の死亡の1/3が心血管系疾患によることを示す

New statistics show 1 of every 3 US deaths caused by cardiovascular disease
16-Dec-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-12/aha-nss121615.php
2013年の米国での死亡の1/3が心疾患、脳卒中、その他心血管系疾患であり、世界では心疾患と脳卒中が死因の1位2位であった。米国心臓協会の2016心疾患と脳卒中統計更新。
1958年以降データを更新し続けている。死亡数そのものは減少し続けているがまだ減らせる。
今回は心血管系疾患対策のための要因を人生のための7つのことLife's Simple 7として取り上げている。喫煙、運動、健康的食生活、体重、コレステロール・血圧・血糖の管理。
Heart Disease and Stroke Statistics—2016 Update
A Report From the American Heart Association
http://circ.ahajournals.org/content/early/2015/12/16/CIR.0000000000000350
7つの要因の影響は均等ではなく、喫煙しない人の場合圧倒的に高血圧の寄与が大きく食事が不適切とされている。そして食事要因の中でも達成率が低いのがナトリウム。理想的摂取量が1500mg/day以下。他の食事要因は野菜や果物を1日4.5カップ以上、魚を週に2回以上、砂糖入り飲料を週に36オンス以下、全粒穀物を1日3オンス以上

  • レビュー二つ。

メタボロミクス−食品安全と品質研究の新しいフロンティア
Metabolomics—The new frontier in food safety and quality research
Farhana R. Pinu
Food Research International Volume 72, June 2015, Pages 80–81
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0963996915001337
バイオインフォマティクスアプローチ、食品中生物活性ペプチド研究の可能性と課題
Bioinformatics approaches, prospects and challenges of food bioactive peptide research
Chibuike C. Udenigwe,
Trends in Food Science & Technology, Volume 36, Issue 2, April 2014, Pages 137–143
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0924224414000284
どちらもゲノム情報と「可能性のある」代謝物や生理活性物質に関するデータを用いて大量の情報(○○ができる、あるいは含まれるから健康に良いあるいは悪いといった)を生み出す可能性がある。マーケティング以上の価値があるかどうかはわからない。食品の機能性研究者のレベルが今のままなら悪夢のような未来しか予想できない。今でも十分酷いけれど。