食品安全情報blog過去記事

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論文

  • 生の、未殺菌牛乳を飲むことのリスクとベネフィットについての文献レビュー

A Literature Review of the Risks and Benefits of Consuming Raw and Pasteurized Cow's Milk
Benjamin J.K. Davis, et al.,
Report, December 8, 2014
http://www.jhsph.edu/research/centers-and-institutes/johns-hopkins-center-for-a-livable-future/research/clf_publications/pub_rep_desc/Literature-Review-Risks-Benefits-Consuming-Raw-Pasteurized-Cow-Milk.html
メリーランド州下院に2014年の総会で未殺菌ミルクに関する法案が提出された。消費者に未殺菌ミルクを売ることの公衆衛生と安全上の懸念があるため、健康運営委員会が生と殺菌した牛乳のリスクとベネフィットについてのレビューを要請した。このレビューは未殺菌ミルクの健康上のメリットがリスクを上回るという主張を客観的に評価することを目的とする。
(中略)
結論として未殺菌牛乳の販売を止めさせることのほうが遥かに安全な選択である。

  • 不安は認知症リスクを相当上げる

Anxiety Significantly Raises Risk for Dementia
17-Dec-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-12/uosc-asr121715.php
1082人の双子の参加したスウェーデン養子双子加齢研究の28年のデータを用いた解析によると、人生において高度不安を経験した人の認知症発症リスクが48%高い。Alzheimer's & Dementiaにオンライン発表。「高度不安」は通常の不安の症状以上のものを経験することでfrantic, frazzled(取り乱していて、疲れ果てた)人たち。

  • 調べられていない、未承認調合ホルモン処方が年に2600-3300万に達する

Untested, unapproved compounded hormone prescriptions reach 26 to 33 million a year
18-Dec-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-12/tnam-uuc121815.php
閉経期女性向けの規制されていない調合ホルモン療法の処方数が2600-3300万と推定される。この数はFDAが認可した、規制されているホルモン療法の処方数3600万と同程度になっている。Menopauseに発表。さらに今後も増加が予想されている。
2002年にWomen's Health Initiative試験がエストロゲン-プロゲステロン療法の一種にリスクを同定したところFDAが認可した閉経期ホルモン療法の処方が減った。同じく2002年に最高裁が薬局にFDAの認可無しに薬局が調剤製品を販売できるとしたため、この市場が拡大できた。これらの製品は個別に処方した「生物学的同等」製品として販売されている。実際にはFDAの認可している製品と同じホルモンを使っていながらリスクが低いとみなされている。リスクが低いとみなされる理由の一つが認可されている製品には義務である警告などがされていないためである。女性はFDAの認可していない製品のリスクを知るべきである。
アメリカ特有の制度だけど。監視されていないから報告されていないだけなのに安全だと勝手に思いこむ、というのはよく見られる現象。ちゃんとデータがあって、だから副作用も記録されているもののほうが中身がわからなくて報告もできないナチュラルなんとかより安心なのだと納得するには相当学習が必要なので。)

  • ピアレビュー偽装−学術出版プロセスのハッキング

Peer-Review Fraud — Hacking the Scientific Publication Process
Charlotte J. Haug, M.D., Ph.D.
n engl j med 373;25
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMp1512330
2015年8月に出版社Springerが、偽のメールアドレスでピアレビューが偽造されていたことを発見して10雑誌64論文を取り下げた。Springerのオープンアクセス出版社であるBioMed Centralが同じ理由で43論文を取り下げた1か月後のことである。このような理由による取り下げは増加している。3年前に韓国の研究者Hyung-in Moonがメールアドレスを作って自分の論文のピアレビューを自分で偽造したことを認めて以来、レビュー偽装での取り下げは250以上で、取り下げ総数の約15%になる。Moonのやり方は単純でピアレビュー者として自分が偽造した名前とアドレスを推薦した。台湾のPeter Chenはもっと洗練されていて、130の偽のメールアドレスと人物からなる「ピアレビューと引用の仲間」を作った。BioMed Centralと他の出版社は2014年末に国際出版倫理委員会(COPE)に警告し、COPEは2015年1月に声明を発表した。声明によるとこれらの学術的ピアレビューをハイジャックしようとする試みは、著者に論文を書くことの援助をしたり論文を良いものにしたりしてそれから好ましいピアレビューを売る機関により組織的に行われているようだという。MoonやChenや第三者機関によるこの手の詐欺は雑誌が著者によるレビューワーの推薦を認めている場合におこる。多くの編集者はそのようなことは嫌っているにもかかわらずしばしば使われている。理由の一つは編集者にとって簡単だからである。これらの詐欺が問題になって多くの雑誌が著者によるレビューワーの推薦をやめた。しかしそれで十分ではないだろう。出版社Hindawiは著者にレビューワーを推薦させていないが、特別号の編集委員にゲストエディターを依頼するシステムになっている。ゲストエディターの選んだレビューワーは第三者による検証はなく、ピアレビューを偽装できる。Hindawiの調査で3人の編集者がそのような詐欺を行っていたことがわかった。結果として32論文が偽装レビューにより掲載されたことが同定された。
電子出版システムが宣伝やハッキングに弱いこともあるが最も重要なのは論文出版圧力が動機となっていることである。特に中国で強いことが中国に偽装システムがあることの理由でもある。偽ピアレビューに関与する人たちが中国と東南アジアに多い。しかし中国やアジアの問題とみなすのは間違いである。論文をたくさん出す研究者が最も報われ、早く出版する編集者が最も報われるというゲームのルールに代わるものを発明する必要がある。