食品安全情報blog過去記事

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SMC UK

  • 早期のピーナッツ摂取とピーナッツアレルギーを調べた二つの研究への専門家の反応

expert reaction to two studies investigating peanut allergy and peanut consumption in early years
March 4, 2016
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-two-studies-investigating-peanut-allergy-and-peanut-consumption-in-early-years/
Imperial College Londonアレルギーと臨床免疫学名誉教授Barry Kay教授
2007年に発表された保健省の「生まれてから5才まで」ではピーナッツやピーナッツ製品は「アトピーやアレルギーの家族歴のある赤ちゃんには3才になるまで与えるべきではない」と薦めていた。この助言にも関わらず、アナフィラキシーによる死亡を含むピーナッツアレルギーは増加し続けた。
2015年に発表されたLEAP試験の最初の結果で、Lack教授らは全く逆のことを発見した、つまりハイリスク乳児への管理下での最初の11ヶ月以内のピーナッツの早期導入は、食物アレルギーから守ることと関連があった。このチームは現在この影響力の大きい仕事のフォローアップを行っていて、5年の治療のあと、1年ピーナッツ投与を中止しても耐性が維持されていることを示した。
一緒に発表された研究では、彼らは母乳を与えられている乳児のアレルギーをおこす食品を早期に導入することも食物アレルギーの頻度の少なさに関連することを示した。この論文では実験計画に従った人たちと従わなかった人たちの間に統計学的有意差がある(計画に従った人たちの食物アレルギーの頻度が少ない)がグループ全体では有意差はない(つまり計画に従わなかった人たちも含めた治療群)。
これらは10年以上に渡り従事してきた研究者チームの画期的研究である。この結果はリスクの高い乳児のアレルゲンとなる食品へのトレランスメカニズムについて完全に新しい視点を提供し、厳密な実験に基づいた予防のための助言を提供する。これらは食物アレルギーの分野でこれまで発表された最も重大な研究に入り、英国の臨床研究の創意と献身の証明である。
注意が必要なことがある−これらの研究は訓練されたアレルギー専門医が管理下で行ったものである。一般に新しい助言をするにはまだ確認すべきことがある。例えば耐性を誘導するにはどのくらいの量の食品が必要なのか、耐性誘導に遅すぎる年齢はいつなのか?また両親が与えやすい食品の作り方を巡る問題もある。だからまだ自宅ではやってみないように。
Michael Walker Consulting 社の政府の化学者のコンサルタントレフェリー分析家Michael Walker
本日NEJMに発表されたLEAP-Onと EAT研究は我々の食物アレルギー予防についての知識をさらに加える重要なものである。どちらも素晴らしいチームにより高い水準で行われた。特に参加率と順守率は素晴らしい。
LEAP-On研究はピーナッツアレルギーになるリスクが高い乳児で行われた。定義は皮膚プリック検査で卵アレルギーがあること及び/または重症のアトピー性皮膚炎があること。2015年の先のLEAP研究ではこのようなハイリスクの乳児は、11か月齢以前からピーナッツを頻繁に食べると5才の時のピーナッツアレルギーから保護されるという、直感とはやや違う結果を発見した。LEAP-Onではこの早期ピーナッツ導入による保護作用が、12ヶ月間ピーナッツを食べなくても継続していることを発見した。
一方EATでは一般人の母乳を与えられている乳児に6つのアレルギー食品を導入した。ピーナッツと調理した卵で期待できる知見があり、早期導入では一般的に食物アレルギーが少なかった。保護者はこの研究の結果を自分で再現しようとしてはならず、一般的ガイドラインに従うべきである。つまり母親には母乳を与えるよう薦め、離乳は適切な時期に多様な食品を与えるという常識的な態度である。ハイリスク乳児の保護者は医師に相談すべきである。

  • 「福島から5年」への専門家の反応

expert reaction to ‘Fukushima – Five Years On’
March 4, 2016
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-fukushima-five-years-on/
2016年3月11日は福島原子力災害から5周年を迎え、Clinical Oncologyが特集を組んだ
Royal Berkshire NHS Foundation Trust医療物理学と臨床工学部長Malcolm Sperrin教授
福島原子力発電所から放出された放射能に関しては大量の研究が行われ、これまでのところ放射線暴露が主な原因である死亡はない。しかしながら放出された放射線により一部のがんが生じる可能性が高いという根拠はある。津波による死亡は放射線のせいではないことに留意する必要がある。集団へのリスクを検討する際に、破壊的イベントによる心理学的影響と、放射線によらない化学物質の影響も同定する必要がある。
さらに何年にも渡る健康診断や医療サポートの追加も考慮する必要がある。その結果検査をしなければわからなかったであろうがんを早期に発見することになり、それは治療に反応しやすかったり放射線とは関係がなかったりするであろう。これは放射線の影響やリスクを無視できると言っているのではない、そうではなく集団へのリスクは複雑でさらなる研究が必要である。
Portsmouth大学環境科学教授Jim Smith教授
この特集号は福島やその他の核問題一般についての我々の理解にとって非常に重要でタイムリーなものである。重要なメッセージは、人々の(理解できる)放射線への恐怖、福島原子力事故の社会的心理的影響、のほうが直接の健康影響より大きいだろうということである。
この結論がチェルノブイリ事故から20年後に発表されたWHO/IAEA報告書の結論と全く同じであることに気が滅入る。教訓を学ぶのは難しいようだ。もちろんそれは放射線が危険ではないということではなく、事故後の被曝量は少なく、診断用のX線や世界中の自然放射能と同程度である、ということである。福島の人々への放射線暴露量は非常に低いリスクであったが、そのリスクを人々とコミュニケーションすることが非常に困難であった。特に誰もが恐ろしい事故であると認めた後では。
この特集号の著者らが、科学者はより良いコミュニケーションを学ぶべきだと言っていることは正しい。しかし放射線リスクについての科学的コンセンサスに異を唱える人たちにも責任のいくつかはある。科学は完全とは言い難く、科学的コンセンサスは常に問われるべきではあるが、それに異を唱える場合にはしっかりした根拠に基づくべきで、政治的あるいはイデオロギー的目的でリスクを誇張することはそれが重大な帰結をもたらすことを認識する必要がある。批判者が間違っていた場合、私は彼らが放射線の恐怖を誇大に宣伝して人々の人生に明確に影響した責任があると考える。
もとSt Bartholomews病院医科大学引退した放射線生物学者Barrie Lambert博士
これらの論文は放射線への恐怖の健康影響についてのものである。これはスリーマイル島事故の後、過去に何度か問題となり、鎮めるのは難しい。
そのような状況での人々への助言は、そのメッセージが申し分のないところからきたものでなければパニックを止められない。大丈夫というメッセージも、あるいは逆に破滅のメッセージでも−通常原子力管理者か反核活動団体かのどちらかから来る。どちら側にも「障害物」が伴っている。日本にはたくさんの原子力発電所があり、放射線暴露によるリスクを、工業化社会で日常生活をおくることの他のリスクと比べた正直な情報を独立したところが提供する計画が実施されることが期待される。「正直なhonest」というのはリスクを文脈にのせた情報のことである。
放射性廃棄物管理コンサルタントMike Thorne教授
この特集号で強調されていることは、核施設の大規模事故対応は可能性は低いがおこりうるものとして扱う必要があるということである。
リスクの過剰推定は避けるべきである。地元コミュニティに不適切なレベルの懸念を生じさせる。しかしリスクはリアルであることも強調すべきでで、核施設近くに住む人たちには適切な対応をする準備が必要である。福島事故は個人が避難することのリスクを明らかにし、これまでよく知られていたように遮蔽のほうがしばしば好ましい。しかし実際に事故が起こったときの遮蔽確保には相当綿密な計画が必要である。英国ではREPPIR (2001)規制により核施設の詳細緊急計画地域に住む人たちに事故の際にどうすべきかを適切に情報提供することを確保している。しかしこのゾーンは通常中心部からたった2マイルに限られる。
福島をうけて、この地域の拡大について検討するのが賢明であろう。
Manchester大学疫学教授Richard Wakeford教授
福島第一原子力発電所事故から5年、事故の社会心理学的影響(そして地震津波の)にもっと注目する必要があることが明らである。多くの時間と努力が放射線暴露の影響を調べるのに使われ、そのような影響はバックグラウンドの疾患率の中から検出できないだろう。だから(より大きな影響であろう)放射線由来ではない事故の健康影響に注目するのが適切である。
旧ソ連チェルノブイリでの放射性ヨウ素の降下により高レベルの被曝をした子ども達に甲状腺がんが劇的に増えたことから、甲状腺の線量が低いものの福島で心配されていることは理解できる。福島県での甲状腺がんについていくつかの残念ながら一部の科学雑誌ですら、馬鹿げた主張(wild claims)があるがそれらは極めて疑わしい。追加の甲状腺がんは検出できないだろうというこれまでの詳細な科学的評価の結論は妥当であると信じられるたくさんの理由がある。

‘Fukushima – Five Years On’
Clinical Oncology
Volume 28, Issue 4, p231-276
http://www.clinicaloncologyonline.net/issue/S0936-6555(16)X0003-9
論文はオープンアクセス、その他は無料なので全部誰でも読めるはず
(3月11日は発電所の事故じゃなくて地震津波の日)