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福島とニュージーランド:5年後−専門家の反応

SMC NZ
Fukushima and NZ: Five years later – Expert reaction
March 10th, 2016.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2016/03/10/fukushima-and-nz-five-years-later-expert-reaction/
福島のメルトダウンから5年、SMCはニュージーランドへの影響があるかどうかを尋ねた。そして我々の原子力への見方は変わったか?
それはチェルノブイリ以降では最悪の原子力事故だった。2011年の東北地震津波で動作不能になった日本の原子力発電所メルトダウンし、世界は緊急作業員達が原子炉を止め封じ込める努力をするのを見守った。災害の後、大気中や水に拡散した放射性物質に対して、広範な心配と、しばしばパニックが起こった。それらについてはこれまでSMCが報告してきた。
5年経って、SMCはニュージーランドの科学者や研究者に、この惨劇がニュージーランドの食品や環境やエネルギーへの見方を変えたかどうかについて尋ねた。
一次産業省(MPI)上級毒性学アドバイザーAndrew Pearson博士
福島第一原子力発電所事故の後、ニュージーランド人のための食品の安全性を確保するのがMPIの最優先課題だったので多くの研究が行われた。
事故後の2年は日本から輸入される食品の監視を行った。輸入したお茶とサバから福島由来の放射能の痕跡が検出されたがその量は国際的な事故後の食品中許容放射性核種基準値より遥かに低かった。この量のお茶や魚を食事のなかで1年間摂取しても、歯医者で一度X線撮影をするより少ない被曝量である。
2013年にはMPIはカンタベリー大学の環境科学研究所と合同で普通のニュージーランド人の食事中の放射能レベルを知るための食事調査を行った。この研究では福島由来の放射能は見つからなかった。しかし常にある天然の放射能と前世紀の核兵器実験由来の放射能がいくつかの食品からみつかった。それらは許容限度より少なく食品安全上のリスクとはならない。さらにニュージーランドの沿岸で捕まえた各種シーフードの放射性核種を調べる研究も行った。福島の放射能の痕跡は見つからなかった。
これらは、太平洋への放射性核種の拡散モデルで、汚染がニュージーランドに到達するのに15-20年かかることが示されていたので驚くべきことではない。これらの研究ではニュージーランドに到達した時には希釈されていてニュージーランドのシーフードでは検出できないだろうことも示している。
WHOの福島第一事故評価では日本以外の国に健康リスクの増加は無いと報告している。ニュージーランドを含むほとんどの国にとって、食品からの人工放射能暴露は極めて低いままでそれによる食品安全上のリスクはない。
食品は個々の放射性同位元素により放出される特徴的放射線を検出することで調べられている。例えばセシウム134、セシウム137、ヨウ素131はガンマ線を検出して測定している。
オークランド大学物理学部上級講師David Krofcheck博士
私は自宅で妻と一緒にCNNで福島の惨劇をライブで見て、テレビに映っているのは日本の何世代にも渡る悲劇の始まりに過ぎないと思っていた。
5年前日本はマグニチュード9の地震、その後の津波、そして長期影響が最も大きい原子力発電所メルトダウンという三重の災害に見舞われた。メルトダウンは実際には「スローモーション」の惨事で、毀損した原子炉はまだコンスタントに冷やすための水を必要としている。現在約80万トンの水が発電所の近くの容器に貯蔵されていて最新の洗浄が行われている。私はフランスや米国の技術と協力した日本の技術的努力に敬服する。日本はできる限りのことをしている。
ニュージーランドに住んで、この日本の事故がどう我々に影響するか考えてみる。物理的にはほとんど影響はない。MPIの行った2013年6月の試験で日本から輸入されたお茶や北大西洋の魚はメルトダウンによるセシウム134やストロンチウム90に由来する余剰の健康リスクはないことが示されている。
Rakiura TiTi Committeeと共同で行ったLandcare研究所 と Te Papaによる追加のMuttonbird(海鳥)の雛の研究でも痕跡程度の放射性同位体すら見つかっていない。Muttonbirdの冬の移動水域が福島沖であることを考えるとこれは重要である。私自身のニュージーランドの土壌調査でもセシウム134の兆候はみつかっていない。
土壌中のウランの崩壊による通常のバックグラウンド放射線や医療用放射線治療のほうがはるかに我々の年間放射線量に大きな寄与をしている。
科学史家で最近発表された本「福島効果The Fukushima Effect」の共著者のビクトリア大学ウェリントン校社会の中の科学グループのRebecca Priestley博士
私は2011年3月12日の朝はテレビに釘付けで過ごした。
福島原子力災害は世界中の原子力への態度に影響を与えた−しかし国によってその与え方は違った。この事故は日本の原子力産業を凍結させ予定されていた将来の原子力開発を大きく後退させた。ドイツ、スイス、ベルギーは原子力からの段階的撤退を決定した。台湾は、地理的に日本と同じハザードの高い地域にあり、4つめの原子力発電所の建設をやめた。一方すぐそばの韓国、中国、インドは原子力の拡大を続けている。フランスは原子力への依存を25%減らし古い炉を廃炉にするとしているが、米国、英国、フィンランド旧ソ連諸国など他の国には福島の影響は最小限である。
ニュージーランドは核をもたない国で、違っている。緑の党の政治家Keith Lockeは福島事故後「我が国に核がないことを嬉しく思う」と述べただろう。しかし福島事故はニュージーランド原子力へのそれまでにあった物語をほとんど変えなかった。The Fukushima Effectの私の分担執筆の章で書いたとおり、ニュージーランドにとって原子力が良い考えで風力などより良いと考える人は約30%のままである。
世界原子力協会は「原子力ニュージーランドにとって選択肢としてあり続けている。比較的小さい250–300 MWeの主要荷重中心の沿岸部にある発電所を使っている。ニュージーランド原子力を避けることを検討するのはますます困難になるだろう。原子力はこの国の望むイメージを拡大できる持続可能な選択肢である。最小限の景観への影響で、オークランドの継続する成長に力を与えるだろう」と言っている。
福島事故が5年前におこったとき、ニュージーランドのメディアは−私も含めて−情報を持っていてインタビューに答えてくれる科学者を見つけるのが難しかった。将来いつか、増加する人口や原子力を巡る経済の変化で、ニュージーランド政府が原子力の導入を提案したとき、私達はこの問題について話すことができる科学者を必要とするだろう。