食品安全情報blog過去記事

はてなダイアリーにあった食品安全情報blogを移行したものです

論文

The trouble with drinking guidelines: What, in the world, is a standard drink?
12-Apr-2016
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2016-04/w-ttw041116.php
Addictionに4月13日発表された新しい報告によると、国により大きく異なり、多くの国では答えがない。
アイスランドと英国では標準的1杯はアルコール8gでオーストラリアでは20g。
低リスク飲酒は1日女性10g男性20gが最も保守的な値で、チリだと1日56g。
(日本は調査対象に入っていないようだが)

  • 100才の人が窓から外に出られなくなるとき

When the 100-year-old man can no longer climb out of the window
12-Apr-2016
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2016-04/dai-wt1041216.php
ドイツの100才以上の人には相当数の病気があり、痛みが治療されていない。第二回ハイデルベルク100才以上研究の知見がDeutsches Ärzteblatt International (Dtsch Arztbl Int; 2016; 113: 203-10)に報告された。112人のうち多くが複数の病気をもち、最も多いのは視覚や聴覚の低下、骨格筋疾患、運動能力低下である。また1/3以上がしばしば痛みがありその40%以上が耐え難い痛みを報告している。
(100才の人が20才と同じわけはない。だから以前のDALYでは年齢ごとに違う数字を使ってた。今は全年齢同じなのでがんのような高齢者の病気の影響については過剰推定だと考えられる。それでも発がん物質の影響なんて世間に思われているより小さくなる。)

  • 化学でより良いコーヒー(動画)

Better coffee through chemistry (video)
12-Apr-2016
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2016-04/acs-bct041216.php
ACSの動画シリーズ。今回はコーヒー。
(普通にコーヒーの話をしていた。メイラードさんの写真も出てくる)

  • バターはぬれぎぬを着せられた?

Did butter get a bad rap?
12-Apr-2016
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2016-04/uonc-dbg041216.php
バターは健康食品ではないかもしれないが、UNC と NIHの研究者が、植物油に代えても心疾患リスクを減らさないというさらなる根拠を掘り出した。BMJに発表。
約50年前にミネソタで行われた大規模対照試験のこれまで発表されていなかったデータを解析し、さらに報告されている同様の試験により広範な解析を行った。その結果バターをリノール酸の多い油に替えることはコレステロール濃度を下げても心疾患や死亡率を下げなかった。ミネソタ研究では、血清コレステロール濃度の低下が大きかった参加者の死亡リスクが高かった。リノール酸の多い油にはコーン油、サフラワー油、大豆油、綿実油などがある。
飽和脂肪を植物油に代えることが心臓の健康に良いという信念は1960年代に遡る。その頃そうすることで血中コレステロール濃度が下がることが報告され始めていた。それ以降、疫学研究や動物実験でこれが心臓発作や関連する死亡率を減らすという研究が発表された。2009年には米国心臓協会はこの見解を再確認している。
しかしながら医学研究のゴールドスタンダードであるRCTではリノール酸の多い油による食事介入が心発作や死亡を減らすことは示されていなかった。この種の試験で最大のものであるミネソタ冠動脈実験Minnesota Coronary Experiment (MCE)は1968年から1973年に9423人を参加させて行われた。その結果は1989年まで医学雑誌に発表されることはなかった。研究者らはバターやその他の飽和脂肪をコーン油に代えたらコレステロールが下がったが心臓発作や死亡については差がなかったと報告した。NIHのChris Ramsdenはこの論文を読んだところ計画されていた重要な解析が行われていないことに気がついた。亡くなったMCEの主任研究者の息子であるRobert Frantzの協力を得て、彼らは何十年も保管されていたファイルや磁気テープから生データを回復した。さらにミネソタ大学の学生の修士論文からもいくつかのデータと解析を入手した。これらのデータを用いて解析をしたところ、食事介入がコレステロール濃度を下げたことは確認できた。しかし同時にコーン油群では対照群の約2倍の心臓発作だったことも明らかにした。そして修士論文のグラフでは介入群の65才以上と女性は試験中の死亡が約15%高いことが示されていた。
MCEの全てのデータが回復されたわけではなくこれから結論するのは時期尚早である。しかしより小規模の同様の研究であるSydney Diet Heart Studyの未発表データでも同様の知見が得られた。
リノール酸の多い油がコレステロールを下げるのに心臓発作を下げないあるいは悪化させる理由についてはこれからの研究課題である

Re-evaluation of the traditional diet-heart hypothesis: analysis of recovered data from Minnesota Coronary Experiment (1968-73)
Christopher E Ramsden et al.,
BMJ 2016;353:i1246
http://www.bmj.com/content/353/bmj.i1246

エディトリアル
食事脂肪:古いデータの見直しが、定着している常識に疑問を提示する
Dietary fats: a new look at old data challenges established wisdom
J Lennert Veerman
BMJ 2016;353:i1512
http://www.bmj.com/content/353/bmj.i1512
飽和脂肪を多価不飽和脂肪に置き換えることは寿命を延ばさないかもしれない
多価不飽和脂肪の多い食事は心疾患予防になるということは広く受け容れられている。最近世界疾病負担チームは、オメガ6多価不飽和脂肪酸の不十分な摂取が毎年70万以上の冠動脈疾患による死亡をもたらすと報告した。しかしほんとうか?Ramsdenらの研究はこれに疑問を提示する。
(研究の紹介略)
過去10年、食事脂肪に関する古い確信は疑問を呈され続けていて、一部は捨てられた。昨年米国食事ガイドラインは食事からのコレステロールと総脂肪をリスク要因とはしなくなった。このため飽和脂肪を総摂取カロリーの10%以下にという助言もさらに吟味されるだろう。
何故研究者はコレステロールや飽和脂肪の多い食品を食べることが心疾患につながるという「食事−心臓仮説」をこれほど固く信じるようになったのだろうか?20世紀の最初の半分はウサギでの実験と国際比較研究脂肪の少ない食事は心臓の健康に良いという信念につながった。1950年代から60年代は全ての脂肪が同じではないということが明確になった。実験では血漿コレステロール濃度を飽和脂肪が増やし多価不飽和脂肪が減らした。コレステロール濃度が高いことは心疾患リスクの高さと関連した。そして多価不飽和脂肪が良くて飽和脂肪が悪いということになった。血中LDLやHDL濃度に与える食事の影響が食事ガイドラインの決定のなかで大きくなった。しかし血中コレステロール濃度が心疾患の信頼できる指標ではないのなら、エビデンスの慎重な吟味が必要になる。理想的には食事助言はコレステロール濃度のような代理指標ではなく臨床アウトカムに基づくべきである。
残念ながら臨床アウトカムの結果は一様ではない。RCTは観察研究より強力だがそのような試験はこの分野では希である。コホート研究の最大のリスクは交絡である。また異なるオメガ6脂肪酸の影響は違う可能性もある。
飽和脂肪の代わりに多価不飽和脂肪を選ぶことのメリットは思っていたほど確実ではないようだ。さらなる明確化が待たれるが、それまで我々は野菜や果物や全粒穀物を多く食べ、塩、砂糖、人工トランス脂肪、食べ過ぎ、を避けることを続けるべきである。