食品安全情報blog過去記事

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研究が、バターを捨てて植物油にすることは心疾患を予防しないと主張する

Behind the headlines
Study argues ditching butter for veg oil won't prevent heart disease
Wednesday April 13 2016
http://www.nhs.uk/news/2016/04April/Pages/Study-argues-ditching-butter-for-veg-oil-wont-prevent-heart-disease.aspx
Daily Mailが「バターを捨てて植物油にすることは心臓にとって良いことではないかもしれない」と報道した。これまで発表されていなかった1960年代から70年代のデータを解析したところ、飽和脂肪の摂取源を植物油で置き換えても利益がなかった。もともとの研究は1968年から1973年まで米国の6つの州精神科病院で行われたものである。飽和脂肪をリノール酸の多い植物油で置き換えた食事と、飽和脂肪とリノール酸を含む対照の食事に約1年間無作為に割り付けて食べてもらった。研究者らは最大4年間のフォローアップ期間での2000人以上の参加者のデータを調べた。どちらの食事でもコレステロール濃度は下がり、植物油食のほうが効果は大きかった。どちらの群でも、コレステロール濃度の低下は65才以上の人の死亡リスクの増加と関連した。両方の群でおこっているため、これが食事のせいかどうかは不明で、数が少ないのでこの知見の信頼性は小さい。
研究対象は養護施設や精神病院の入院者で、全体の人々を代表するものではなく知見の信頼性が制限される。
1960年代から70年代にスタチンでコレステロールを下げることが死亡リスクを下げることは大規模RCTで示されてきた。この研究はバターが良いと結論することはできないが、食事の組成についての議論に加えるものではある。

  • SMC UK

植物油、コレステロール濃度、心疾患リスクの研究についての専門家の反応
expert reaction to study on vegetable oil, cholesterol levels, and risk of heart disease
April 12, 2016
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-on-vegetable-oil-cholesterol-levels-and-risk-of-heart-disease/
BMJに発表された再解析について
King’s College London栄養と食事名誉教授Tom Sanders教授
このミネソタ冠動脈実験の報告は1973年に完了した精神病院患者での大規模食事試験の再解析である。この研究は食事中の飽和脂肪をリノール酸で置き換えると冠動脈心疾患が減ることを示そうとした。参加者は平均年齢52才で正常体重・血圧・コレステロール濃度だった。食事介入の内容は食事中の脂肪をコーン油やコーン油マーガリンで置き換えることだった。コーン油はリノール酸50%でアルファリノレン酸は0.9%と他の油より少ない(大豆油7.3%、菜種油9.4%)。実験食では総エネルギーの13%がリノール酸由来で対照群は4%だった。これは現在英国で推奨されている5%より多い。コレステロール濃度が平均約13%減っていることから食事介入のコンプライアンスは良いようである。このコレステロール低下は心血管系疾患による死亡を7.5%、致死的および致死的でないイベントを15%減らすと予想される。しかし年齢から心血管系イベントの絶対リスクが低いため、この研究には効果を検出するだけのパワーがない。従ってもともとの研究で心血管系疾患の頻度や死亡率に差がなかったのは驚くべきことではない。
今回の報告はもともとの9570人の参加者のうち2355人のサブグループに基づく。この論文では全原因による死亡に注目し、群間に全体として差はなかった。論文ではコレステロール濃度の低下が大きいほど死亡リスクが大きいと報告している。しかしこれはどちらの群でもみられているので、食事のせいではないだろう。病気のせいでコレステロール濃度が下がることはよく知られており著者らはこれを調整しようとしているが残った。このような精神病患者での暫定的知見を一般人や他の集団に当てはめることには注意が必要である。
私はこの研究が飽和脂肪をリノール酸で置き換えることが心血管系疾患の予防になるという根拠にはならないという結論には同意するものの、メディアに与える影響については幾分懸念がある。最初の懸念はこの論文がコレステロールを減らすことが死亡リスクを増やすことを示唆するので患者が有効なコレステロール低下薬をとらなくなる可能性があるということである。しかしスタチンが血中コレステロール濃度を下げて死亡リスクを下げるという質の高い試験がある。
もう一つの懸念は現在の食事助言が間違っていると誤った解釈をされる可能性があるということである。この論文が脂肪の多い肉とバターをたくさん食べるのがいいことだというような見出しになって伝わるのは残念なことだ。1970年代から科学は進歩し食事ガイドラインも進歩している。
(以下略)
英国心臓財団医務副部長Jeremy Pearson教授
我々は血中コレステロール濃度が高すぎるのは心血管系疾患リスクを上げることを知っている。だから濃度を管理することが重要だ。この研究は飽和脂肪を減らすことがコレステロール濃度を減らすことを示した興味深いものである。しかし飽和脂肪を減らすことが心血管系疾患による死亡を減らすか減らさないかについてはさらなるより長期の研究が必要である。
それまでは、魚や野菜や果物や全粒穀物の多いバランスのとれた食事をして健康体重を維持することを薦める。