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チェルノブイリから30年: チェルノブイリ惨劇の健康影響研究についてA. Kesminiene博士とのインタビュー

Chernobyl, 30 years on: Interview of Dr A. Kesminiene on the research and health impact of the Chernobyl disaster
26/04/2016
http://www.iarc.fr/en/media-centre/iarcnews/2016/chernobyl_30years.php
2016年4月26日は、前世紀最悪の核事故であるチェルノブイリ事故から30周年である。この事故は環境中に大量の放射性物質を放出した。広島と長崎の原爆暴露とは違って、チェルノブイリの暴露はI-131を含む各種放射性同位体を摂取したことによるだらだら続く内部暴露が主だった。事故の後の期間は、史上初めて子どもを含む多くの人が汚染された食品(主にミルクと野菜)を食べることで放射性同位体に暴露された。
1991年からIARCの環境放射線副部長であるAusrele Kesminiene博士とのQ & A
過去30年のチェルノブイリ研究の主な目的は?
主に甲状腺がん、特に子どもや青少年の時に放射性ヨウ素に暴露された人の、に的を絞ってきた。放射線による甲状腺がん誘発メカニズムをより良く理解すること、放射線のリスクを修飾する要因を同定すること、放射線に特徴的な分子を同定することについて努力してきた。さらに放射性ヨウ素によるがん以外の甲状腺疾患との関連など、多くの研究が行われてきた。
また子どもとチェルノブイリのクリーンアップ作業を行った労働者の造血系のがんのリスクを評価する研究も行われた。がんの発症率や死亡率、全ての原因での死亡率や心血管系疾患についての研究も行われた。これらの研究の質はばらばらだがリストは長い。
最も影響された地域の子どもや青少年のなかにどれだけの甲状腺がんが生じたか?
ベラルーシ、ロシア、ウクライナの国の研究ではチェルノブイリ事故の時に子どもや青少年だった人で過去30年間で11000人以上が甲状腺がんと診断されている。このうちいくつかは1986年の放射線のとりこみのせいである可能性があるが、定量は難しい。年齢が高くなると自然発生甲状腺がんが増えるためである。
がんについて、チェルノブイリの惨事から学んだことは?
こどもや青少年の時に放射線暴露されると甲状腺がんの頻度が増えるということに関しては科学者コミュニティの間で合意されている。さらにチェルノブイリの清掃活動にあたった人たちの間で甲状腺がんと血液のがんが増えていることがいくつかの研究で示されている。2013年にZablotskaらがクリーンアップ労働者らに放射線と関連した慢性リンパ球性白血病(CLL)リスクの知見が報告されている。それまでCLLは放射線とは関係のないタイプの白血病だと考えられていた。この知見を確認するにはさらなる研究が必要である。
がん以外の健康影響を調べた研究もある。クリーンアップ労働者の白内障の頻度が増えたというしっかりした根拠からは目の水晶体への線量限度を年150mSvから20mSvに下げることにつながった(Worgul ら, 2007)。
若い患者の甲状腺がんの診断と治療については多くのことがわかった。特に子どもの時にI-131に内部被曝した場合の甲状腺がんの潜伏期間がとても短いという重要な発見がなされた。また最適な治療や生存者のフォローアップについても多くの知識が得られた。
これらの教訓は福島事故のような放射線関連事故の準備や有害影響を最小化するための基礎となる。
重要な知見は得られたがまだ多くはわからない。さらなる研究が必要な重要分野は?
例えばチェルノブイリに関連する小児白血病についてはしっかりした根拠はまだない。さらに子どもの頃の暴露が時間を経てどうなるかについてはより長期のフォローアップが必要であるためわからない。世代を超えた影響についてもさらに長期の研究が必要である。
チェルノブイリ健康影響研究におけるIARCの役割は?
IARCはチェルノブイリの長期健康影響研究には常に強力に関与してきた。なぜならイオン化放射線の長期健康影響のひとつががんであることはわかっていたからである。
チェルノブイリ健康影響研究を前進させるために最も必要とされることは?
お金。広島と長崎のような。