食品安全情報blog過去記事

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抗生物質コリスチンと細菌に伝達可能なコリスチン耐性についてのFAQ

Questions and answers about the antibiotic colistin and transferrable colistin resistance in bacteria
BfR FAQ, 24 March 2016
http://www.bfr.bund.de/en/questions_and_answers_about_the_antibiotic_colistin_and_transferrable_colistin_resistance_in_bacteria-197283.html
コリスチンは感染症を治療するための動物用医薬品として主に使用される抗菌剤である。昨年、耐性研究により細菌がほかの細菌へとコリスチン耐性を伝える新たなメカニズムが発見された。この科学的知見により動物生産施設でのこの抗生物質の使用とコリスチン耐性の拡大について議論がおこった。これを機にBfRはコリスチンに関するFAQをまとめた。
コリスチンとは?
コリスチンはポリミキシングループのポリペプチド抗生物質である。この抗菌剤は主に腸の病気やほかの感染症の治療のため動物用医薬品として使用されている。
コリスチン耐性とは?
抗菌剤がある種の細菌に働かなくなると、これらの細菌は活性成分への耐性を持つようになる。ある種の細菌の増殖を妨げる有効成分としての最小濃度のコリスチンが一定の濃度を超えると、コリスチン耐性がある。抗菌薬感受性試験に関する欧州委員会(EUCAST)によると、栄養培地中2 mg コリスチン/l(疫学のカットオフ値)以上でまだ増殖しているなら、大腸菌サルモネラは耐性があると考えらる。
臨床のブレイクポイントは「臨床検査標準協会」により≥8 mg/lと定義されている。この濃度に耐性のある病原体の感染はコリスチンで効果的に治療できない。
動物用医薬品でのコリスチンの重要性とは?
コリスチンは、特に家畜の消化管感染症の治療において、重要な動物用医薬品だと考えられている。ドイツでは、2014年に107トンのポリペプチド抗生物質が獣医と獣医薬局により調剤された。コリスチンはそのうちのほとんどを占めている。データが記録された初年度の2011年と比較すると、これは15.7%の減少になる(127トンから107トン)。
コリスチンはヒトの医薬品にもよく使用される?
他の抗生物質と比較してあまり使用に耐えられないので、コリスチンはヒトの医薬品としてはめったに使用されない。副作用は腎臓や神経系障害である。ヒトの医薬品としての重要性は、一般に使用されるカルバペネム系薬を含む抗菌剤のほとんどに耐性のあるグラム陰性病原体の重症感染症の治療にある。そのような病原体による感染症数がドイツではまだ少ないので、これらの治療はめったに必要とならない。
コリスチンへの耐性は新しい現象?
いいえ。動物由来分離株のコリスチンの耐性は今や数年にわたり報告されている。これまで科学者たちは、個々の細菌の染色体にしっかりと固定された転移できない耐性に取り組んでいるという仮定に基づき行動している。現在議論されているコリスチン耐性についての新しい知見は、プラスミドにより1つの病原体から別の病原体に移る遺伝子により伝達されるということである。プラスミドは様々な特性の遺伝子が病原体間を比較的簡単に移動できるような輪状のDNA分子である。最近発見された遺伝子はmcr-1と呼ばれ、中国で最初に報告された。
コリスチン耐性への新しい知見によりどのような取り組みが必要か?
BfRが行った研究では遺伝子mcr-1はドイツの家畜や食品中の病原菌に数年間存在していたことを示した。この遺伝子が実際にどのくらいの頻度で移行し、どの病原体に移行し、どのように耐性が広まるのか、詳細追加研究が今必要とされている。これらは潜在的なリスクをよりよく評価する上で欠かすことのできない重要な知見である。
このコリスチン耐性の検出は治療に必要な家畜の抗菌剤の使用を絶対最小値へ制限する必要を強調する。このアプローチは何年もの間BfRが主張している。
欧州医薬品庁が最後に動物用医薬品のコリスチンの使用者条件を強化したのは2013年だった。現在新しい知見が入手可能となったため、欧州医薬品庁はその評価をレビューし、2016年の秋までに報告書を提示する計画である。
コリスチンへの耐性は動物からヒトに伝染する病原体によくみられる?
人畜共通病原体と動物の腸に天然に存在する細菌(共生細菌)の耐性モニタリングの一環として、コリスチン耐性は2011年から系統的に研究されている。コリスチン耐性病原体の最高割合は七面鳥大腸菌(約10-11 %)、鶏肉フードチェーン(5-6 %)で検出されている。耐性病原菌の割合はわずかに減少している。豚(約2 %)やネコ(0.2-2 %)の分離株にコリスチン耐性はそれほど多くは観察されない。BfRが分析した分離株の検査では耐性を獲得した大腸菌分離株の大部分は伝達可能な遺伝子mcr-1を持っていた。
消費者は食品中の耐性病原菌からどうしたら身を守れるか?
輸送中、食品の保管、準備中の衛生対策が抗菌剤に耐性のある病原体に対して保護機能がある。例えば、生の肉は消費される前に少なくとも2分間セ氏70度で加熱しなければならない。生の肉を取り扱う際には、手や台所用品(例えばナイフ、まな板)を通して病原菌が他の食品に移らないように細心の注意を払うべきである。
BfRは「消費者へのヒント:一般家庭の食中毒対策」
http://www.bfr.bund.de/cm/350/verbrauchertipps_schutz_vor_lebensmittelinfektionen_im_privathaushalt.pdf PDF-File (2.4 MB)(ドイツ語)
という小冊子を出版している。食品を取り扱う際の最も重要な衛生規則を要約している。この小冊子の衛生のヒントは耐性があり感染しやすい病原体にも同じように当てはまる。
コリスチンとそのほかの抗生物質の予防的な使用は生産動物に許されている?
抗生物質は生産動物に予防薬として使用してはならない。動物用医薬品の抗菌剤の慎重な使用に関するガイドラインの中で、欧州委員会は日常的な予防を避けるよう助言している。
集団治療の一環として、まだ病気になっていない動物がその動物集団での病気の蔓延を避ける目的で同様に何度も治療を受けることがある。そのような場合には、担当獣医はこの動物たちがすでにその病原体に接触していると仮定して行動しなければならない。抗菌剤のこの使用目的は、病気の広まりを予防し、すでに病気にかかった動物がよりコストのかかる治療を避けることである。このような状況ではコリスチンは他の全ての薬のように使用される。
ヒトと動物用医薬品のコリスチンの使用に特別な規則が適用される?
コリスチンはヒトと動物の医薬品両方に同じように特に重要だと分類される「優先的な極めて重要な抗菌剤“prioritized critically important antimicrobials”」に含まれていない。このリストは国際連合食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、国際獣疫事務局(OIE)により2007年に同意された。
WHOはヒトの医薬品として特に重要な抗生物質の追加リストを発表している(「極めて重要な抗菌剤」“critically important antimicrobials”);このリストは2012年に改訂された。それ以来コリスチンは「極めて重要critically important」にランク付けされてきたが、「最優先で極めて重要highest priority critically important」な地位とはされていない(このグループで最優先の有効成分)。
ヒトの医薬品としてのコリスチン需要は伝達可能な耐性遺伝子の検出を受けても当分の間変わらない。だが、コリスチンはすべての他の抗菌剤同様、生産動物には慎重に使用されなければならない。抗生物質の的を絞った使用はヒトと動物用医薬品が抗菌剤耐性の広まりを防ぐために緊密に協力するべきだとする「ワンヘルスアプローチ」に従っている。