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グリホサートのBfRリスク評価に関連したよくある誤解とQ&A

Popular misconceptions, opinions and questions in connection with the BfR risk assessment of glyphosate
19 May 2016
http://www.bfr.bund.de/cm/349/popular-misconceptions-opinions-and-questions-in-connection-with-the-bfr-risk-assessment-of-glyphosate.pdf
BfRはグリホサートのリスク評価に関連した各種報道と国民からの問い合わせで頻繁に宣伝されている誤解についてコメントを出すことにした。

・「WHOは最初にグリホサートを発がん性と分類し、現在考えを変えた。」
・「科学者の間では合意していない。そのため、政治家は判断を下せない。」
・「BfRとIARC評価との違いの理由は、BfRは企業が出資した研究を使っているためである。」
・「グリホサートによる腫瘍の有意な増加は動物実験で報告されている。」
・「グリホサートは母乳でも検出されている。」
・「尿のグリホサート量は毒性基準値をはるかに超えている。」
・「グリホサートはビールにも見つかっている。」
・「なぜグリホサートを禁止しないのか?」あるいは「申請を取り消せ!」
・「BfRの専門家は公平ではない。」
・「BfRのリスク評価を行ったのは実際には農業界(農薬製造業者)だった。」
・「BfRはグリホサートの新たな承認を主張したのか?」

「WHOは最初にグリホサートを発がん性と分類し、現在考えを変えた。」
グリホサートをおそらく発がん性があると分類したのは世界保健機関(WHO)ではなく、WHOのがん専門機関である国際がん研究機関(IARC)である。BfRや世界中の他の機関、農薬評価に責任があるWHOの別の委員会であるFAO/WHO合同残留農薬専門家会議(JMPR)は、グリホサートが意図した目的のために適正に使用されるなら、食品を経由した発がん性リスクや変異原性は予期されないという、最新の科学的知見に沿った結論に至っている。BfRはその有効成分が適切に使用される時、使用者、作業者、近傍者、地域住民にリスクとなるかどうかも評価した。自身の序文によるとIARCはハザードの同定を行っただけで、その後のリスク評価の過程で国や国際機関はそれを検討することができる。(http://monographs.iarc.fr/ENG/Preamble/CurrentPreamble.pdf).
この「ハザードの同定」―特に、発がん性の観点からの物質のIARC分類―は「リスク評価」の過程の最初の段階である。(http://www.who.int/features/qa/87/en/).
ハザードと暴露が互いに関連して設定されるときにだけ、ヒトへの健康リスクがあるかどうか、またそれがどのくらい大きいかを評価することができる。これは、農業での使用から予想されるグリホサート汚染の健康ハザードの可能性を考慮して、BfR、欧州評価機関、JMPRが完了した健康リスク評価の最初の段階だけをIARCが完了したということを意味している。

「科学者間では合意していない。グリホサートに発がん性があるかないかが明らかでなければ政治家は判断を下せない。」
健康リスク評価は現在議論の余地がない。BfR、欧州食品安全機関(EFSA)、世界中の全ての他の機関、農薬評価に責任を持つWHOの委員会(JMPR)は、最新の科学的知見に従って、グリホサートが適切に特定の目的のために使用されるなら発がん性リスクがないことが予想されるという結論を出した。様々な側面で様々な分類がある。IARC とBfRは根本的に異なる権限、科学的基準、アプローチをしている。IARCはリスク評価を行わず、どの政府や機関のために助言を提供する目的ではなく、様々なハザードを分析する。ハザードに関連した分類とは、たとえば、アルコール、ニコチン、加工肉(ソーセージ)、アスベストなどの「発がん性のある」(カテゴリー1)、あるいは、グリホサート、赤身肉などの「おそらく発がん性のある」(カテゴリー2a)といった、ある物質が損傷を与える可能性についてのものである。この種の分類はその物質の実際の摂取量とその結果生じるダメージの可能性を考慮していない。他方リスク評価はヒトが現実的な条件下で実際に摂取する物質の量を考慮する。このことは、IARCは、ある物質がどのような状況であっても基本的にがんの原因となる可能性があるかどうかを検討し、一方BfRは、加えてその物質が適切に使用されるときに実際にリスクを引き起こすかどうかを検討することを意味する。
異なる判断の別の理由は、IARCがその規則に従って、発表された研究のみを検討することである。これは、EUの認可手続きに沿って提出されているが発表されていない多くの研究が無視されていることを意味する。その結果、BfRはIARCが序文により考慮しなかった多くのより最近の研究を含むことができた。逆に、BfRの報告書はIARCが参照している研究の全てを評価している。
EFSA、米国環境保護庁(EPA)、JMPRを含む世界中の同等の機関は同じ評価になった事実は、BfRが行ったリスク評価が最新の科学的知見に沿っているということを示す。

BfRとIARC評価との違いの理由は、BfRは企業が出資した研究を使用しているためである。」
BfRは法的に申請者の提出書類を検証する義務がある。それはこの情報に頼るのではなく、むしろ自身の科学的研究を行う。この報告書では、申請者による法的に規定された研究の全てを細心の注意を払ってチェックてし評価し、ほかの関連する入手可能な研究全ても同様に検査し評価した。IARCは、その規定により発表されていない研究は評価には1つも含まないので、はるかに少ない情報源に基づいている。それが、申請者が提出した包括的な研究のいくつかが考慮されていない理由である。
IARCの分類は企業が出資した研究にも基づいている。グリホサートに発がん性があるということを示す「動物での十分な証拠」があるとするIARCの判断は業界が出資した齧歯類の長期研究の発表に基づいている。その試験はBfREPA、JMPRがグリホサートにはヒトへの発がん性リスクがないと予想されると評価されている。これはIARCの評価も企業が出資した研究に基づいていることを意味している。だがBfRとは違い、これらの研究の原本はIARCには入手できず、別の発表により間接的に入手しただけである。
IARCとは違い、これらの研究の原本を利用できるすべての責任のある機関は、グリホサートのハザードを「おそらく発がん性がある」と分類することは科学的にはできず、適切に意図した目的で使用するならグリホサートには発がん性のリスクがないという結論に達した。

「グリホサートによる腫瘍の有意な増加が動物実験で報告されている。」
毒性試験での動物実験の知見の評価には特別な専門知識が必要である。BfR齧歯類で行った実験研究を統計学的有意差だけで評価するのではなく、他の知見とともにすべての評価方法での結果を含む、証拠の重みづけアプローチも用いる。これらは、化学物質の試験法についてのOECD、ECHA、EFSAのガイドラインで提示されている、バックグラウンド汚染、歴史的対照、最大用量に関するOECDの助言、用量反応関係に関連する各種統計比較、影響の一貫性と再現性、作用メカニズムの妥当性、不確実性の影響についての検討を含んでいる。この方法で、BfRはラットとマウスのどちらの研究もグリホサートの発がん性や変異原性リスクの兆候はないという結論に達した。
欧州加盟国とJMPR、US EPAの専門家は、検討対象となったラットとマウスの11の長期試験でどの投与群でもヒトに関連する生物学的に妥当な腫瘍発生率の増加がないと結論した。他方、IARCの解釈では、2つの試験で膵臓の非悪性腫瘍に統計的有意差があると主張されている。IARCはオスのマウスの2つの研究で腎臓の腫瘍と血管肉腫の数でポジティブ傾向もあるとしたが、悪性リンパ腫ではなかった。評価機関BfR、EFSA、JMPRは全体的な評価でより多数の研究を含むという事実を別にしても、個々の腫瘍の増加は極めて高用量の場合にのみ観察されていて、予想される摂取量の点でヒトにはあてはまらず、動物に対する一般毒性の影響であろうと考えた。OECDも動物福祉の理由から1000 mg/kg bwを上限に推奨している。
BfR、EFSA、欧州加盟国は農薬の有効成分が適切に使用されたなら、使用者、作業者、近傍者、地域住人に健康リスクとなる恐れがあるかどうかも評価する。これらのリスクが科学的に予期できなかった時にだけ、欧州委員会は有効成分を認可することができる。これは、有効成分の欧州評価がWHO/FAO委員会 JMPRの評価よりさらに先に行くことを意味する。

「グリホサートは母乳でも検出されている。」
16の母乳サンプルからグリホサートが測定されたことを一部報道機関が2015年に報道した。この検査は母乳のグリホサートを測定するのにふさわしくない方法(ELISA)で実施された。どのようにしてこの検査が行われたかという詳細は発表されていない。検体のグリホサート濃度は1ミリリットル(ml)あたり0.21 〜 0.43ナノグラム(ng)あるいは0.00000000021 〜0.00000000043 グラム (g)だったと主張されていて、それはELISA検査の製造者が信頼できるとする75 ng /mlの定量下限のおよそ200分の1であることを意味している。これに加え、母乳で発見されたという主張は独立した分析方法で確認されなかった。そのため、BfRはこれらの結果の信頼性について科学的な疑いを表明し、妥当性を立証された十分確認された結果を得るために独自の研究を行った。
BfRは2つの独立した高感度分析法の開発を欧州の高名な研究所に依頼し、それがその後Lower Saxony とBavariaの114の母乳検体を調べるのに使用された。この研究により、母乳に検出される可能性のある、農薬に使用される有効成分グリホサートは残留していないことが確証された。
http://www.bfr.bund.de/en/press_information/2016/08/bfr_study_confirms__no_glyphosate_detectable_in_breast_milk-196578.html
BfRが研究を行った一つの重要な理由は、心配した母親が母乳の残留グリホサートリスクについてBfRに情報を求めて質問をしたことである。
母乳は最も自然で赤ちゃんには最も良い食品であり続ける。

「尿のグリホサート量は毒性基準値をはるかに超えている。」
残留農薬はある程度の基準値までは食品に許容されている。それらは基準値までなら健康を危険にさらすことなく摂取し分解できる。残留量は有効成分の毒性について結論できるものではない。尿に望ましくない物質の残留物が含まれるなら、これはその物質が排出されたことのしるしである。体内にその物質がどれだけ残留するかがわかっているときにだけそれが健康を害するどうかを決めることができる。
これまでに発表された尿の値からグリホサートの一日摂取量を逆算するなら、ある人の尿1 mlあたりおよそ4ngあるいは0.0000000004 gのグリホサートだった場合、、体重キログラム(kg)あたり0.5ミリグラム (mg)の許容一日摂取量の100分の1以下を摂取たと計算できる。これらのデータは、BfREU有効成分吟味の際の残留評価で計算した推定摂取量推定摂取量を確認するもので、入手可能な最新の科学的知見によれば懸念の原因とはならない。
http://www.bfr.bund.de/en/press_information/2016/11/glyphosate_in_the_urine__even_for_children__the_detected_values_are_within_the_expected_range__without_any_adverse_health _effects-197173.html
飲料水のガイド値との比較は、それらがたいてい科学的ではないにもかかわらず、物質による健康リスクについての議論によく引用されて混乱を招く。これは飲料水の残留農薬のガイド値は健康面から導出されたものではなく、むしろ政治的にすべての農薬に適用される予防的値に設定されていることを意味する。そのため、飲料水のガイド値を超過していたら自動的に健康ハザードがあるということではない。決定要因はある物質の摂取量(排出量ではない) が科学的に計算されたガイド値を超過すたかどうかである。ここで適用されている原則のは、望ましいものと望ましくないもの両方の、非常に多くの物質が尿に排出されているということである。これは今度は、尿にグリホサートがあることは、科学的に予期されていて珍しいことではないことを意味する。

「グリホサートはビールでも見つかっている。」
マスコミの報告によると、2016年の初めに14種類のビールの残留グリホサートが調べられた。マスコミで発表された(最高)値を計算に用いると、毒性基準値に達するには一人の人間が毎日1000リットルのビールを飲まなければならないだろう。農薬に使用される活性物質の残留物は法的に許容できる濃度で許可されており、予想されている。絶えず改善されるますます高感度になる分析方法によって、事実上どこにでも、1フェムトグラム(0.000000000000001 g)という低い濃度でさえ、物質を検出できるようになった。そのため、ある物質や残留物が存在するからといって健康リスクがあるということを意味しない。
ビールのグリホサートについての報道では実際の健康リスク、すなわちアルコール摂取のリスクは見落とされていた。アルコールはより少ない量で発がん性と生殖毒性がある。

「なぜグリホサートを禁止しないのか?」あるいは「申請を取り消せ!」
BfRには農薬の活性物質の認可を決定する法的限度はない。これはグリホサートにもあてはまる。この理由の一つが、ドイツと欧州連合(EU)に適用されているリスク評価とリスク管理の法的区別である。BfRは物質の科学的リスク評価の任務を負っている。他方、認可あるいは禁止の決定はリスク管理に分類されるため、国家政府や欧州委員会やドイツ消費者保護・食品安全庁(BVL) 、ドイツ連邦食糧農業省(BMEL)などの担当機関が行っている。

BfRの専門家は公平ではない。」
BfRの公平性と独立性は法に支えられている。BfRは独立した、科学的な、党派に属さないリスク評価を行うために、そして消費者健康保護を強化するために、2002年11月1日に設立された。BfRで働く人は全ての公務員、給与を与えられている雇用者は、ドイツの行政機関の法規定に従わなくてはならない。これには、例えば、ドイツの法と内務省の施行規則には(連邦公務員法、行政法令及び他の規則法令10参照)、公平性、有効性、専門的知識、腐敗防止の公的規制が含まれる。BfRの主な仕事は食品、製品、化学物質の健康リスクの可能性についての見解を担い、政策決定を行う連邦大臣に助言を提供している。独立性のため、企業からの資金提供やこの種の研究プロジェクトへの財政的関与はない。

BfRのリスク評価を行ったのは実際には農業界(農薬製造業者)だった。」
欧州農薬規則によると、申請再承認をレビューさせるために、製造業者は最初に申請者自身のリスク評価を添えて責任機関にすべての法的に求められた文書と研究を提出しなければならない。これはドイツ連邦議会欧州議会が決定していた。ドイツの承認機関はドイツ消費者保護・食品安全庁(BVL)である。委任された機関はその後この提出書類と自身の研究と知見に基づいた独立したリスク評価を準備する。ヒトの健康に関するリスクの科学的評価は、BfR独自の職員、すなわち公務員と給与を受け取っている雇用者が、企業や協会あるいは会社の代表のような人からの外部のアドバイスや支援を受けず、BfRだけで行う独立した仕事である。BfRは特定の民間機関からどんな種類や形式の資金も受けず、彼らと共同計画も行わない。
BfRは独立しており、専門的な取り組みに関連した民間企業、協会、特定の個人などのあらゆる金銭上のあるいはそのほかの利益も受けない。BfRはリスク評価とコミュニケーションに関してはBMELが発表したどんな方針にも縛られない。その結果、BfRは政治的及び経済的両方で独立し、あらゆる政治的または事業者の利益を代弁しない。リスクは単に科学的基準に基づいて評価される。

BfRはグリホサートの更新承認を支持したのか?」
BfRはグリホサートの更新承認やあらゆるほかの農薬有効成分についての懸念や議論には厳密に中立である。BfRは法的権限に従って政治的なあるいは管理決定を行わない。
BfRの行ったグリホサートの健康リスク評価は、現在の最新科学科学的知見では、適切に意図した目的のために使用されるなら発がんリスクは予期されないということを示した。この評価は他のEU加盟国、欧州食品安全機関(EFSA)、FAO/WHO合同残留農薬専門家会議(JMPR)の専門家によって確認されている。科学に基づく健康評価に関わりなく、EU委員会は倫理や政治などのようなほかの理由で物質を認可しないと決定できるが、これはBfRリスク評価の公平性と職業的客観性に影響を与えることはない。