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注目のがんレビューが議論の引き金を引く
High-profile cancer reviews trigger controversy
Kai Kupferschmidt
Science 24 Jun 2016:Vol. 352, Issue 6293, pp. 1504-1505
6月15日に公式発表されたあと世界中を駆けめぐり数百のウェブサイトで拡散されたこのニュースに、読者コメントから判断すると多くの人は安心したが一部の人は驚いた。問題のメッセージは、IARCによると、コーヒーは結局がんの原因ではないが、非常に熱い飲み物はがんの原因かもしれない。
しかし科学者は熱い飲料への判決は一般の人をより賢くすることはないと不満を言う、なぜならそのリスクがどのくらい大きいのかは言えないからだ。そして次の日BfRはコーヒーについてのような、一律的評価は消費者にとってあまり役にたたない、という。他の多くの食品同様、コーヒーは多くの化合物の複雑な混合物で、中には発がん性のあるものもあり有用な化合物も含まれる。
このパターンは何度も繰り返される:IARCが何かを発表する、混乱と批判と議論が続く。2015年10月にはIARCは加工肉がプルトニウムや喫煙と同じ分類の発がん性だと発表してニュースの見出しとなった。しかし統計学者やリスクコミュニケーションの専門家はリスクは非常に小さいとフォローした。数ヶ月前にはIARCは世界で最も広く使われている除草剤グリホサートが「おそらく発がん性」と判決してEUでのこの物質の禁止を後押ししたが、BfREPAを含む多くの機関は対立している。
ニューヨーク市アルバートアインシュタイン医科大学のがん疫学者Geoffrey Kabatは「こうした判決に一般の人々はどうしたらいい?」と問いかける。「IARCについてどんなに観察しても、当惑するばかりである」
IARCは1965年にフランスのリヨンに作られ、世界中のがん登録を作るのを援助しデータ収集の調和を目指した。「これらのデータベースの一部は非常に有用である」と英国ケンブリッジ大学のがん疫学者Paul Pharoahは言う。IARCは疫学の訓練をし素晴らしい研究を行っている。しかしIARCの最も目立つ製造物は1971年に始まった「ヒト発がん性リスク評価モノグラフ」である。それは物質や環境暴露を(これまで約1000)5つのカテゴリーに分類している。
コーヒーの場合IARCは最近の研究のレビューで1991年からの「発がん性の可能性がある」という分類から「発がん性について分類できない」に変更することになったという。また65℃以上の飲料を飲むことはおそらく食道がんの原因になると言った−ただしリスクの大きさは示さない。「これは科学にとって興味があるかもしれないが、意志決定のための情報を提供しない」とケンブリッジ統計学者David Spiegelhalterは言う。
観察筋はIARCが議論のもとになる要因はいくつかある、という。一つはIARCがしばしば携帯電話やコーヒーのような広く使われている製品を評価するので関心を集めること。もう一つはIARCが極めて積極的にメディアに報道してもらおうとすることである。ニューヨーク市の独立したリスクコミュニケーション専門家Peter Sandmanは、IARCが「それが広く誤解されるだろうことを知っていて、多分誤解により人々が行動を帰ることになるだろうという信念をもって」比較的曖昧な声明を発表することを批判する。
IARCの広報官Veronique TerrasseはIARCの強固な評判は「そんなふうにメディアに報道してもらう方法を探る必要はない」、広報活動は透明性のためだ、という。IARCモノグラフ計画の部長Kurt Straifは「私は一般の人たちには利益相反のない科学者がどう結論したのか知る権利があると考える」という。彼は批判の多くがIARCの評価が嬉しくない関係者と直接間接関係のある人からのものだ、という。しかしStraifはIARCの発表が最初は短い要約で何ヶ月も後に完全なモノグラフを発表するのは理想的とはいえないことは認める。
さらにコミュニケーションを面倒にしているのはしばしば人々が認識していないハザードとリスクの区別である。ハザードはそれが何らかの条件で病気をおこすかどうか、リスクは暴露されたときのがんいなる可能性はどのくらいなのか、である。IARCはモノグラフのタイトルに「リスク」という単語を使っているが、全文ではハザードを同定していると注意している。
しかしハザードだけをみることにはマイナス面がある。例えば、何かが絶対がんをおこさないと証明するのは極めて困難である。実際IARCが「おそらく発がん性ではない」と分類しているのはたった一つ、ナイロンの前駆体であるカプロラクタムのみである。そして「発がん性はない」という分類は存在しない。StraifはIARCのレビューは発がん性が疑われたものを優先するためだと言う。
この分類は消費者にとっては混乱するものである。カテゴリーが違うことがその物質の危険性とは何の関係もない。IARCは喫煙と加工肉を同じカテゴリーにしているが喫煙のほうがはるかにリスクは大きい。「人々は間違ったものを心配し、全てのものに発がん性があると結論して禁煙する気が失せるだろう」Kabatは言う。
科学的にはハザードのみに注目するのは時代遅れである、とBfR長官は言う。一部は世界は低濃度では害のない発がん物質に満ちているからである。IARCのStraifはリスクを定量化するのに十分な根拠がないからだという。しかし根拠があればその方向に動く試みをしている、と。
それまで、科学者は影響力の大きいIARCの発表に備えている。IARCは調理の際に生じるアクリルアミドやビスフェノールAのような議論の多い物質のモノグラフを計画している。BfR長官はIARCの白黒二分法の判決が規制の議論をさらに政治的なものにするだろうことを恐れている。
少なくとも非常に熱い飲料については−特に役立つというわけではないが−政治的問題にはならない。「熱いお茶はさましてから飲むように言うことに大きな有害影響があるとは考えにくい」Pharoahは言う。