食品安全情報blog過去記事

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食品中のマイクロプラスチックとナノプラスチック−新興問題

Microplastics and nanoplastics in food – an emerging issue
23 June 2016
https://www.efsa.europa.eu/en/press/news/160623
海や水域のプラスチック廃棄物の生息環境や野生生物への影響について世界的関心が高まっている。EFSAは食品中、特にシーフード中のマイクロプラスチックとナノプラスチックの消費者へのリスク評価に向けた最初の一歩を踏み出した。
Peter Hollman博士は、食品中のマイクロプラスチックとナノプラスチック粒子に関する声明の立案を行う、フードチェーン中の汚染物質に関するEFSAのパネル(CONTAM)の作業グループの一員である。Peter Hollman博士は、RIKILT研究所の主任研究者でオランダWageningen大学の栄養と健康准教授である。彼の研究はマイクロ-及びナノプラスチックの発生、分析、毒性に関する研究を含んでいる。
EFSAがその声明で述べていることとは?
Peter Hollman氏:EFSAはこの話題に関する既存の文献を徹底的にレビューし、完全リスク評価の資料となる、発生と毒性と運命―消化後に何が起きるか―といったことについての十分なデータがないことが分かった。また、ナノプラスチックは特別な注意が必要なことも明らかになった。そのレビューによりEFSAはこの分野の科学的発展を検討し、データと知見のギャップを確認し、この問題についての将来の優先的研究課題を助言することにした。
どのくらいの大きさ?
EFSAはマイクロプラスチックを参考のため0.1 〜5000マイクロメートル (µm)、あるいは5ミリメートルのサイズ範囲で定義している。ナノプラスチックは0.001〜0.1 µm(言い換えると1〜100ナノメートル)である。
マイクロ/ ナノプラスチックとは?
PH:これまで世界中でプラスチックの使用が増加してきたことで、プラスチックスープと呼ばれる、広範囲で海に漂うプラスチックごみを作り出してきた。面積はフランスほどの大きさだと観察されている。この漂うプラスチックの破片はだんだんと小さな粒子に砕けていき、ついにはマイクロプラスチックとなりやがてナノプラスチックとなる。これらのサイズに作られた「ペレット、フレーク、スフェロイド、ビーズもある。
これらの物質はどの食品に含まれている?
PH:食品中のナノプラスチックについては何のデータもないが、マイクロプラスチックについては特に海洋環境で情報がある。魚には高濃度が観察されるが、マイクロプラスチックはほとんど胃と腸に存在し、それらはほとんど排泄されるため消費者がそれに暴露することはない。だが、甲殻類やカキやイガイのような二枚貝は消化管も食べるので、ある程度暴露する。ハチミツ、ビール、食卓塩にも存在が報告されている。
消費者に有害?
PH:言うのは早すぎるが、少なくともマイクロプラスチックについては有害ではなさそうだ。
潜在的な懸念は、マイクロプラスチックに蓄積するポリ塩化ビフェニル(PCBs)や多環芳香族炭化水素(PAHs)のような汚染物質が高濃度になることについて、である。ビスフェノールAのような包装に使用される残留成分もあるかもしれない。ある研究では食品中のマイクロプラスチックの摂取後、これらの物質が組織に移行する恐れがあることを示唆している。そのため平均摂取量を推定することが重要である。
人工的なナノ粒子(異なるタイプのナノ物質から作られた)がヒトの細胞に入り込み、ヒトの健康に影響があるかもしれないことを私達は知っている。だが、さらなる研究とデータが必要である。
EFSAは平均摂取量を推定した?
PH:ナノプラスチックについてではないが、限られた入手可能なデータで、EFSAはイガイの一部(225g)には7マイクログラムのマイクロプラスチックが含まれ得ると推定した。この物質量に、今までに測定されたPCBs や BPAが最高濃度で含まれていたとしても、これらの物質への総暴露量への寄与は小さい:0.01%未満のPCB暴露あるいは2%未満のBPA暴露の上昇である。だがこれは最悪の事例シナリオである。
今後どのような科学的作業が必要?
PH:パネルの勧告は科学界が明確な全体像を描くのに役立つだろう。研究により食品中のマイクロプラスチックや特にナノプラスチックの存在、消化管での運命、その毒性に関するデータを作り出すべきである。ナノプラスチックの毒性に関する知見は特に必要である、なぜならこれらの粒子はあらゆる種類の組織に入り込み、最終的には細胞に行き着く可能性があるからである。この声明は監視に役立つ標準分析方法も提案している。
EFSAは野生生物/ 環境へのリスクを見ている?
PH:EFSAは食品安全の視点だけで検討した。他の組織が生物の生息地や野生生物を見ている。私達は海洋環境保護の科学的側面に関する国連専門家合同グループによる主な報告をレビューし、欧州委員会のDG環境に依頼された漂流ごみ対策についての新しい研究もレビューに含んだ。これらは食品安全の観点からこの問題に取り組む枠組みの設定には重要な情報源である。欧州環境庁は欧州の海の状態について報告書の中でより広い観点で報告している。EFSAの声明と今後の作業はこれらの努力を補完することができる。
あなたの参加は自身の科学的仕事に役立っている?
PH:私にとって、他の科学分野の専門家とこれらの問題を話し合うことは価値がある。異なる見解を出し合うことで様々な視点から問題を見ることができる。このことはよりバランスのとれた問題の見方をもたらし、パネルの声明のために正しい焦点を見いだすことに大変役に立つ。
背景
食品中のマイクロプラスチックとナノプラスチック粒子は、各国の食品安全の専門家からなるEFSAの新興リスク情報交換ネットワークによって、将来の潜在的な食品安全問題として初めて取り上げられた。この作業に基づき、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)がEFSAにレビューを求めた。
2011年にEFSAの科学委員会は、EFSAのすべての科学的分野にわたって適用される、フードチェーンでのナノサイエンスとナノテクノロジーに関するガイダンスを発表した。そのガイダンスの更新は2018年に計画されている。

  • 食品中の、特にシーフードのマイクロプラスチックとナノプラスチックの存在

Presence of microplastics and nanoplastics in food, with particular focus on seafood
EFSA Journal 2016;14(6):4501 [30 pp.]. 23 June 2016
https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4501
ナノプラスチックは人工的に作り出されたり、マイクロプラスチックの破片が破砕することで作られる可能性がある。食品中の汚染物質としてマイクロプラスチックとナノプラスチックに規制はない。シーフードを含む食品中のマイクロプラスチックの同定と定量化の方法はあるが、データは限られている。ナノプラスチックには方法がなく、食品中の存在についてのデータを入手できない。マイクロプラスチック平均4%の添加物を含む可能性があり、プラスチックは汚染物質を吸着する可能性がある。シーフード中のマイクロプラスチックの存在は添加物や汚染物質への総暴露量への影響は小さい。マイクロプラスチックとナノプラスチック両方のヒトのリスク評価のための毒性と動態学的データがない。より小さなサイズの粒子(< 150 μm)用のデータを作るべきである。消化管局所での影響を含む毒性研究が必要である。