食品安全情報blog過去記事

はてなダイアリーにあった食品安全情報blogを移行したものです

2016年7月21日の議題とペーパー

21 July 2016: agenda and papers
https://www.gov.uk/government/groups/committee-on-carcinogenicity-of-chemicals-in-food-consumer-products-and-the-environment-coc
・COCガイダンス
化学物質の発がん性評価について一連のガイダンスを発表してきていて、現在準備中なのが生涯暴露より短期間での発がん物質への暴露評価、2年間バイオアッセイの代替法のうちの細胞形質転換アッセイと短期試験結果を取り入れた代替法戦略、最後に残ったのがヒト発がん性の根拠の解釈:疫学と症例報告。全てが揃ったところで相互の引用等にいくらかの修正が必要になるだろう。これらについて検討する。
・上述の2年間バイオアッセイの代替法のうちの短期試験結果を取り入れた代替法戦略
NTPのデータベースを検討し、2年間試験で発がん性のある物質は13週試験で発がんエンドポイントを示唆する何らかの細胞変化を示すものが多い、ただし全てではない、ICHのS1ガイドラインなど。
これまで何十年もの間、発がん性の評価は一連の遺伝毒性試験と高濃度での2年間の齧歯類バイオアッセイの結果をヒトでの低用量暴露に外挿するというものだった。この方法の最大の欠点は疑陽性が多すぎることとヒトがんリスクについての妥当性に疑問があることである。代わりに段階的アプローチや根拠の重み付け評価などに基づく短期試験結果を取り入れた代替戦略が開発されてきた。いくつかは実行可能でありいくつかは実験的なもので役にたつかどうかは不明である。
・作用機序とヒトでの妥当性枠組みについての最近の進展
ILSIワーキンググループによるクロロホルムケーススタディ
クロロホルムは肝CYP2E1酵素ホスゲン代謝され、ホスゲンが組織のマクロ分子に共有結合して活性酸素種を生じさせる。肝臓のようなCYP2E1レベルの高い臓器では局所での細胞傷害性産物の発生が持続する細胞死につながり臓器毒性となる。持続する壊死は再生性の過形成につながり最終的には腫瘍形成となる。この作用機序での鍵となるイベントはホスゲンの生成で、全体の反応の程度を決めるのはホスゲンがどれだけ作られるか、である。ホスゲンの生成はCYP2E1発現量に依存する、そしてCYP2E1発現量は遺伝要因と環境要因の両方に依存する。ホスゲン生成後の鍵となるイベントは継続する細胞毒性である。細胞には修復機能や適応能力があるので細胞毒性がおこるのは一定量以上のホスゲンが存在する場合のみである。クロロホルムについてはこれらのプロセスはよくわかっていない。次の重要イベントは細胞増殖であるが、ある程度の細胞死がある程度持続しないと増殖はおこらない。低用量あるいは短期間の暴露では適応や修復がおこるので細胞増殖なしに臓器は回復する。このようなクロロホルムの作用機序からは用量反応関係が直線ではないと結論できる。従って高用量でヒト発がん物質であっても例えばEPAが飲料水中のクロロホルムの最大許容量を決めることができる。
Q-KEDRF(定量的キーイベント/用量反応枠組み)を用いるジメチルアルシン酸(DMA)のケーススタディ
EPAが提案しているラットのDMAによる2年間バイオアッセイでの膀胱がんの作用機序は、1)活性代謝物三価DMA (DMAIII)の生成;2)膀胱上皮に細胞傷害;3)それに続く再生性の増殖;4)尿路上皮過形成;である。4つのキーイベントの用量反応の種による同一性、動物とヒトでのイベントの定量的な一致性やその可能性を含む、を表に書き出した。
ヒトでの用量反応データがないが、DMAV(5価のDMA)のラットとヒトでの代謝の違いをもとにしたトキシコキネティクスによる種の外挿を行った。ヒトはDMAVを上手にメチル化できないがラットの酵素はDMAVをトリメチル酸化ヒ素に直ちに代謝できる。さらにラット尿路上皮細胞を用いたin vitro細胞傷害性試験では影響が見られる濃度は約0.2 microM以上だがヒト尿路上皮細胞では0.5 microM以上とヒトのほうが感受性が低い。この定量的違いは化合物特異的な補正係数として使うことができる可能性がある。さらに低タンパク質食や菜食ではヒ素のメチル化の才にメチル基のドナーとして使われるS-アデノシルメチオニンの利用度が減ることが知られており、食事が検討の必要な修飾要因である可能性がある。
他根拠の重み付け、有害アウトカム経路、など
・生涯暴露より短期間での発がん物質への暴露評価
C(有害化合物の濃度)x T(暴露期間)= k(毒性).
・フレイルティー(身体の弱さ)とがん
ホライズンスキャニングの中程度優先項目として
・3月の会合の議事録
ACNFPから新規食品としてのシクロアストラゲノールCycloastragenolの評価への支援を求められた。COMは変異原性試験については問題ないがそれが肝臓がん増加の説明として妥当であるかどうかはわからないとした。ACNFPの懸念が払拭されず企業は申請を取り下げたためEUでは販売できないが他のところでは販売されるかもしれない
(シクロアストラゲノールは植物成分でテロメラーゼ活性化作用があるとしてアンチエイジングなどの効果を宣伝して販売されている。しかし実験動物で寿命は延ばさずがんの増加が報告された。テロメアを長くするからがんになる、というメカニズムは否定できない。というかアンチエイジングを謳うならがんが増えるのはむしろ当然なのだが。)
食品中IGF-1と直腸結腸がんと肺がんの関連を主張する論文について