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3-MCPD、2-MCPD、グリシドール脂肪酸エステルの食品汚染に関するよくある質問

Frequently asked questions regarding the contamination of foods with 3-MCPD, 2-MCPD and glycidyl fatty acid esters
BfR FAQ, 7 July 2016
http://www.bfr.bund.de/en/frequently_asked_questions_regarding_the_contamination_of_foods_with_3_mcpd__2_mcpd_and_glycidyl_fatty_acid_esters-60844.html
3-モノクロロプロパンジオール(3-MCPD)、2-モノクロロプロパンジオール(2-MCPD)、それらの脂肪酸エステルやグリシドール脂肪酸エステルは健康に害となる可能性があり、そのため食品中に望ましくない食品の加工汚染物質である。
3-MCPD脂肪酸エステルが2007年に初めて精製植物油脂に検出されて以来、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は何度も、直近は2012年に、食品中のこれらの加工汚染物質の健康リスクを評価してきた。欧州食品安全機関(EFSA)は現在、食品中の2-MCPD、3-MCPD、それらの脂肪酸エステル、グリシドール脂肪酸エステルのヒトの健康に起こりうるリスクを評価している。この過程で、EFSAはEU加盟国全23か国から食品中のこれらの加工汚染物質の濃度(2009年〜2015年に収集)に関する分析データを集め、様々な人口集団への暴露評価を行った。その専門家の報告書で、EFSAは特に若い世代に食品中の3-MCPD、2-MCPDグリシドール脂肪酸エステル由来の健康リスクを同定した。
3-MCPD、2-MCPDグリシドールとそれらの脂肪酸エステルとは何か?
3-モノクロロプロパンジオール(3-MCPD)と2-モノクロロプロパンジオール(2-MCPD)はクロロプロパノール類に属す。この物質グループの特徴は水酸基が塩素原子に置き換えられたグリセロール基本構造をもつことである。3-MCPDでは塩素原子は3番目に、2-MCPDは2番目にある。脂肪酸エステルは1つあるいは2つの脂肪酸エステル(モノエステルとジエステル)でエステル化されたクロロプロパノールからなる。
グリシドールはクロロプロパノールと同じ基本グリセロール構造であるが、エポキシド構造をもつ。従ってグリシドール脂肪酸エステル脂肪酸エステル化したグリシドールを含む化合物である。
これらの化合物はどのように形成される?
クロロプロパノールは焦げ茶色のトーストやパンの耳、しょうゆなど非常に多くの加熱された食品で検出されている。遊離3-モノクロロプロパンジオール(3-MCPD)や遊離2-モノクロロプロパンジオール(2-MCPD)は脂肪と塩の両方を含む食品が製造時に高温にさらされると生じることがある。最新の知見によると、エステル結合型、つまり2-MCPD・3-MCPDグリシドール脂肪酸エステルは、とりわけ植物性油脂の精製中に、すなわち精製加工のための加熱処理中に形成される。加工されていない油はたいてい様々な付属物を含んでおり、それらはいろいろな理由で、とくに味と香りを改善するために除去される。精製油は、言い換えると「天然」ではない食用油脂は、そのため時には高用量の2-MCPD・3-MCPDグリシドール脂肪酸エステルを含んでいる。
2-MCPD、3-MCPDとその脂肪酸エステルの有害影響は毒性試験で観察されている?
生物への2-MCPDとその脂肪酸エステルの影響はまだ研究されておらず、結果として、リスク評価において健康に基づく参照値の導出に適した現在入手可能な毒性研究はない。そのため特に必要なのは、長期研究及び2-MCPDとその脂肪酸エステルの毒性メカニズムについての研究である。
3-MCPDとその脂肪酸エステルの場合は状況が異なる。ラットの生物学的利用能に関する研究では、3-MCPD脂肪酸エステルは腸内での消化中にほとんど完全に加水分解されて3-MCPDを放出することが示された。長期毒性研究では、実験動物への3-MCPDの投与は最も感受性の高いエンドポイントとして細尿管の細胞数の増加(過形成)をもたらしている。さらなる高用量では処理動物に良性腫瘍を誘発した。遺伝毒性は見られなかった。そのため動物実験で観察された腫瘍はある閾値以上でのみ生じることが想定される。
3-MCPDとその脂肪酸エステルに耐容一日摂取量はある?
入手可能な毒性データに基づき、EFSAはBMDL10参照値を0.077 mg/kg 体重/日と計算した。これにより、EFSAは不確実係数100を用いて3-MCPDの耐容一日摂取量(TDI) を0.8 µg/kg体重と導出した。2012年には、2009年にEFSAが発表したベンチマークモデルと基準を用いて、BfRはBMDL10値を0.27 mg/kg体重と計算しTDIは 2 µg/kg 体重とした。消費者にさらに高水準の保護を保証するために、BfRはEFSAのより保守的なTDI値を理解できる。TDI概念に基づき、懸念される有害影響がその物質を長期摂取した後に動物実験で観察されただけなら、時折TDI値を超過するのは許容できる。そのためTDIの短期超過では消費者の有害健康影響は予期されない。だが、継続的にこの値を超えるのは健康の懸念となりうる。
グリシドールとその脂肪酸エステルの有害影響の可能性について知られていることは?
グリシドールは遺伝毒性発がん性があり、様々な科学団体 (IARC, MAK Commission) からおそらくヒトに発がん性があると分類されている。生物学的利用能に関する研究では、グリシドール脂肪酸エステルは消化中に加水分解(脱エステル化)され、ほぼ完全に遊離グリシドールが放出されることが示された。そのためグリシドール脂肪酸エステルは毒性学的観点からグリシドールと同様に取り扱われている。グリシドールの遺伝毒性により、グリシドール脂肪酸エステルの安全な摂取量は導出できない。
食品中に定められるべきグリシドール脂肪酸エステルの濃度は?
食品中のグリシドール脂肪酸エステルのような遺伝毒性発がん性物質の濃度は、常に達成可能な最低水準に最小化されるべきである。2009年のBfRの評価と同様に、EFSAもグリシドール脂肪酸エステルのリスク評価にはMoE(暴露マージン)アプローチを選んだ。食品中の遺伝毒性発がん性物質への暴露リスクを説明するために、様々な摂取パターンを考慮し、観察された測定可能な有害影響の最小用量と問題の物質への暴露量の比としてMoEを計算する。必要な参照値は通常慢性動物試験に基づいて導出されている。BfRの意見と合わせて、EFSAはグリシドール脂肪酸エステルのMoE値を設定する参照点として動物実験から10.2 mg glycidol/kg体重/日のT25値を導出した。T25値に基づくMoE値は25,000以上なら健康の懸念が低い。
どのような食べ物に3-MCPD、2-MCPDグリシドール脂肪酸エステルが検出されている?
この化合物は精製食用油と、食用脂質、マーガリン、パンと焼き菓子製品、揚げ物製品、各種スナック製品、乳児用粉ミルク、フォローアップミルクなど、これらの油脂から製造された食品に検出されている。
最新の食品中濃度データは2016年のEFSAの報告書で閲覧可能である。この報告書はEUの全23加盟国から(2009年〜2015年に集められた)食品中の加工汚染物質に関する全7175件の分析データセットを記録している。ドイツの暴露推定用データの根拠を改良するために、BfRは食品中の3-MCPDと2-MCPDグリシドール脂肪酸エステルの濃度測定プロジェクトを開始した。
検出された3-MCPD脂肪酸エステルの濃度は消費者の、特に乳児の健康リスクを高めている?
この分析データを基にEFSAが行った3-MCPDとその脂肪酸エステルの平均暴露推定は幼い人口集団(1歳以上10歳未満)では 0.8μg/kg体重/日のTDIを超えていた。特に高かったのは乳児用ミルクのみを与えられている乳児で、2.4μg/kg体重/日であった。これはTDIの3倍以上でEFSAの見解では健康リスクとなる。従ってこれら製品の濃度を下げる努力を続けるべきである。
グリシドール脂肪酸エステルの検出濃度にどのような健康リスクが関連する?
EFSAは全ての幼い集団、特に母乳を与えず市販の乳児用粉ミルクのみを与えられている乳児は健康に害のある量のグリシドールを摂取する可能性があるという結論に達した。そのため、ALARA原則(合理的に達成可能な限り低くする)に従って濃度の最小化に努める必要がある。
母乳を与えず市販の乳児用ミルクを赤ちゃんに与えている母親はどうするべき?
乳児用粉ミルクの組成は人生の最初の数か月の子供たちの特定のニーズに合わせてある。これらの粉ミルク製品は栄養素要求量に関する最新の科学的知見に従って個々の成分を用いて作られている。精製植物油脂はこれらの製品の脂肪分を提供するのに長い間使用されている。3-モノクロロプロパンジオール(3-MCPD)、2-モノクロロプロパンジオール(2-MCPD)、グリシドール脂肪酸エステルがこれらの脂質に検出されているという事実は、これらの物質が乳児用粉ミルクにも存在しているということを意味する。
粉ミルクを与えられている乳児の3-MCPD、2-MCPDグリシドール脂肪酸エステルへの高い暴露はまだ2〜3年前に知られるようになったばかりだが、おそらく数十年間存在していた。現在まで、市販の赤ちゃん用ミルクで育てられた子供たちが前述の脂肪酸エステルの摂取により健康を害したという兆候はない。そのためBfRの意見では、これらの脂肪酸エステルの濃度を減らすための努力において現在初期の兆候は成功していることから、粉ミルクで育てられた乳児の現在の暴露量が健康障害という結果になる見込みは低い。
乳児に母乳を与えない時、市販の乳児用粉ミルクの代替品は基本的にはない。母親が母乳を与えないなら、最適な栄養を確保するには市販のミルクがたった一つの方法である。これらの製品は赤ちゃんに不可欠な適切な栄養が含まれているため、必要であればこれら製品で自分たちの赤ちゃんを育て続けることを、BfRは力強く両親に助言する。
このテキストは唯一法的拘束力のあるオリジナルドイツ語テキストの翻訳である。