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甲状腺がん流行の主要駆動力は過剰診断:高所得国の女性の甲状腺がんの最大50-90%が過剰診断と推定される

Overdiagnosis is a major driver of the thyroid cancer epidemic:up to 50–90% of thyroid cancers in women in high-income countries estimated to be overdiagnoses
18 August 2016 –
http://www.iarc.fr/en/media-centre/pr/2016/pdfs/pr246_E.pdf
IARCがイタリアAviano国立がん研究所と協力して行った新しい報告は、近年いくつかの高所得国で報告されている甲状腺がんの流行増加は多くが過剰診断(つまりその人が生きている間に症状をおこしたり死亡につながったりする可能性がほとんどない腫瘍を診断すること)のせいであることを示した。
NEJMに本日発表されたこの論文はIARCの質の高いがん登録データを用いて12ヶ国(オーストラリア、デンマークイングランドフィンランド、フランス、イタリア、日本、ノルウェー、韓国、スコットランドスウェーデン、米国)の甲状腺がんの過剰診断事例数を推定した。
この研究を主導したIARCの職員科学者Salvatore Vaccarella博士は「米国、イタリア、フランスで、超音波検診が導入された後の1980年代以降最も激しく甲状腺がんの過剰診断がおこっているが、韓国が最近の最も劇的な事例である」という。「甲状腺超音波検診が広く提供されるようになってたった数年で甲状腺がんが韓国女性で一番多いがんになった。2003-2007年に甲状腺がんと診断された事例の約90%が過剰診断と推定される」
同じ期間に女性の過剰診断事例の割合はオーストラリア、フランス、イタリア、米国で70-80%、日本、北欧諸国、イングランドスコットランドでは約50%と推定された。男性でも銅余杖あるが女性ほど激しくはなく、症例ははるかに少ない。男性での甲状腺がんの過剰診断の割合はフランス、イタリア、韓国で約70%、オーストラリアと米国で45%、その他の国で25%以下である。
全体としてこれら12ヶ国で過去20年間に女性47万人と男性9万人が甲状腺がんと過剰診断されたと推定する。
健康診断の増加や頸部超音波検査(1980年代以降)やより最近ではCTやMRIなどの新しい診断技術の導入が多くの致死的でない、健康な人によくある病変の検出につながった。ほとんどのこれら腫瘍は症状や死亡の原因とはならない。
「過剰診断された甲状腺がんの多くが、生存率を上げる根拠がないまま甲状腺全摘手術となりしばしば頸部リンパ節切除や放射線療法などの他の有害な治療対象となっている」と論文の著者の一人Silvia Franceschi博士は言う。
これらのデータに基づき、IARCの報告の根拠は甲状腺の系統的スクリーニングと小さな結節の精密検査をしないよう注意を呼びかける。経過観察が低リスク腫瘍患者にとっては望ましい選択肢であろう。
IARC長官のChristopher Wild博士は「研究対象となった12ヶ国で50万人以上が甲状腺がんと過剰診断されていると推定される。甲状腺がんの過剰診断と過剰治療の劇的な増加は、多くの高所得国で既に深刻な公衆衛生問題であり、同じようなことが中から低所得国でも起こっている兆候がある。従って甲状腺がんの流行対策と患者を不必要に害することを避けるための最良のアプローチを評価する根拠を得ることが重要である」という。

  • 世界中で甲状腺がんが流行している?過剰診断の影響が増加している

Worldwide Thyroid-Cancer Epidemic? The Increasing Impact of Overdiagnosis
Salvatore Vaccarella, Ph.D., Silvia Franceschi, M.D., Freddie Bray, Ph.D., Christopher P. Wild, Ph.D., Martyn Plummer, Ph.D., and Luigino Dal Maso, Ph.D.
N Engl J Med 2016; 375:614-617August 18, 2016
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1604412
ここ数十年、甲状腺がんに関連した死亡率に変化がないにもかかわらず甲状腺がん、主に小さな乳頭腫、の発生率が劇的に増加していることを記述したいくつかの報告がある。最大の増加は韓国でかんさつされている:15から79才の年齢での発生率(世界人口で標準化)は1993-1997年の10万人当たり12.2例から2003-2007年の10万人当たり59.9例に増加し、甲状腺がんが韓国女性で最も多いがんになった。
新しい診断技術(超音波検査、コンピュータートモグラフィー、磁気共鳴画像解析)と検診の増加、医療へのアクセス向上との組み合わせで、甲状腺に存在することが知られている致死的ではない症状のない保有者の、小さな乳頭病変の検出が劇的に増えることにつながった可能性がある。ハイリスクと噂された(purported、どちらかというとネガティブな、つまり大した根拠もなく偽って宣伝された)集団での大規模甲状腺サーベイランスによる突然の甲状腺がん発生率の変化もおこっている。日本の福島県では、2011年の核事故対応として始められた集約的スクリーニング計画の開始後たった数ヶ月で検査対象になった子どもや青少年の甲状腺がん発生率が全国平均の約30倍にもなった。
異なる期間の各国での甲状腺がんの発生率を比較する研究が過剰診断−つまり放置していれば症状も出ず死亡することもない甲状腺腫瘍を診断すること、の推定に役立つ。ここに我々は、質の高いがん登録データと最近開発された方法に基づく、特定の高所得国での過去20年間の甲状腺がん過剰診断の指標を提供する。がん登録が長期間ある国の人々を対照集団として用いて、1970年代後半に超音波が導入される前の1960年代の甲状腺がん発生率の年齢ごとの傾向の形を推定した。この「歴史的」年齢曲線は集団が違っても驚くほど似ていて、年齢に応じた指数関数的増加を示し、Armitageと Dollにより記述された多段階発がんモデルの知見と一致し、ほとんどの上皮がんのふるまいとも一致する。この歴史的年齢カーブを用いて、もし甲状腺がんの検出が主に触診でありつづけた場合に予想されるであろう甲状腺がんの数を推定した。
1980年代以降、年齢別曲線は劇的に変化したがその程度は国により違う(グラフ参照)。中年女性での発生率は次第に増加しているが(男性でも、補遺参照)、高齢者ではもっと少なく多様で、年齢カーブは時代とともに指数増加型から逆U字型に変わってきている。
我々は診断技術の改善と検診の増加の後での、主に若年から中年の、症状のない、多段階モデルで予想される数を超えて診断される症例は過剰診断事例だとみなした。
女性の観察された年齢カーブの大きな変化は甲状腺がんの「流行」が最も大きい国、米国、イタリア、フランスを含む、で見られた。驚くべき増加は50-59才の韓国女性で観察され、1998-2002年は10万人あたり約35だったのが2003-2007年は10万人あたり120以上になった。これは1999年には韓国成人の約13%が他の5つのがん検診の枠組みでの任意の甲状腺超音波検査を受け、最も参加率が高かったのが50-59才の女性(26%)だったからである。一方米国、オーストラリア、イタリアの発生率の増加は1980年代に始まり、特に45才未満の女性で、産婦人科病院に超音波が導入され始めたころで、そのせいで生殖可能年齢の女性がたまたま甲状腺を調べることが多いことになる。
甲状腺検診の増加による甲状腺がんの推定数もまたびっくりするようなもので時代とともに増えている。もし年齢カーブの形に変化がないとすれば(超音波導入前のデータから推定される)、米国では1988年から2007年に甲状腺がんと診断された女性の約228000例が過剰診断だと推定される。イタリアでは65000、フランスでは46000、日本では36000である。韓国女性では1993年から2007年に約77000の甲状腺がんが過剰診断である。オーストラリアではもっと少ないがそれでも相当数の10000、イングランドスコットランドで7000、北欧諸国(デンマークフィンランドノルウェースウェーデン)で6000である。
過剰診断は1988年から2007年の間に多くの国で増加した(グラフや補遺参照)。2007年以降のデータはないため我々はこの傾向が続いているのかどうかわからない。しかし最新の2003-2007年のデータを見ると、韓国では甲状腺がんと診断された女性の90%が過剰診断、米国、イタリア、フランス、オーストラリアでは70-80%、日本、北欧、イングランドスコットランドでは50%が過剰診断である。
男性でも同様のパターンが観察されているが女性ほど顕著ではなく、ピークはより高年齢にある。推定される過剰診断の数も女性より少ない。2003-2007年の男性の甲状腺がんのうち過剰診断と推定されるのはフランス、イタリア、韓国で約70%、米国とオーストラリアで45%、他の国では25%以下である。
全体としてこれら12ヶ国で過去20年間に女性47万人と男性9万人が甲状腺がんと過剰診断されたと推定する。それは時代とともに増加し安定化の兆しはない。従って現時点では、甲状腺がんに関連する死亡率は変化していないあるいは少し減っているにもかかわらず、症状のない甲状腺がんの同定に限界はないように見える。
これらの似たような、地理的に近い高所得国の急激な増加傾向や国による違いを説明できる、甲状腺がんの原因となる新しいリスク要因ができたあるいは既知の要因への暴露が増えたという根拠はない。甲状腺がんの体細胞突然変異パターンの時代による変化が報告されているがこれは超音波導入による乳頭腫の比率の増加を反映している可能性がある。さらに診断用放射線、過体重あるいは糖尿病の増加のようなリスク要因の変化はそれ自体が検診増加と関連する。医療へのアクセスや医師の実務の変化、甲状腺の意図的検診あるいは偶然の発見などが最も可能性の高い説明であろう。
我々の研究した国で甲状腺がんと診断された人たちの相当多くが甲状腺の全摘手術を受けていること、相当な割合がさらに頸部リンパ節切除や放射線療法などの他の有害な治療を受けていることに留意することが重要である。これらは最近アメリ甲状腺学会のガイドラインで薦めないとされた。さらに日本の研究では甲状腺がんによる死亡を避けるには監視と直ちに手術することに差がないことが報告された:小乳頭腫のある1235人の患者を平均75ヶ月フォローしたところ臨床的な症状が出るまで進行したのはごく僅か(3.5%)で、誰も死亡していない。韓国、米国、イタリア、フランスの例は甲状腺がんの系統的検診はしないよう注意すべきであること、1cm以内の小さな結節は過剰治療すべきでないことを示唆し、低リスク乳頭甲状腺がん患者のより良い選択肢として経過観察を最優先研究課題とすべきであることを示唆する。
最後に、韓国での超音波検診導入後の膨大な甲状腺がんの増加は、福島での核事故のような例外的事象での放射線暴露後の大規模甲状腺スクリーニングの文脈におけるデータの解釈について強い警告strong warningを発する。(ここで引用されているのはEpidemiologyに発表された津田論文。要するに強いダメ出し)