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マウスで食事中乳化剤、腸の炎症、腫瘍と直腸結腸がんを調べた研究への専門家の反応

SMC UK
expert reaction to study looking at dietary emulsifiers, gut inflammation, tumours and colorectal cancer in mice
November 7, 2016
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-looking-at-dietary-emulsifiers-gut-inflammation-tumours-and-colorectal-cancer-in-mice/
加工食品に使われている乳化剤の影響を調べたCancer Researchに発表された論文で、マウスの腸内細菌量が変わって炎症と直腸結腸がんが促進されたと報告している
King’s College London栄養と食事名誉教授Tom Sanders教授
この報告はマウスの消化管のがんをつくることで有名なアゾキシメタンという強力な発がん物質を注射したマウスでの短期試験である。マウスは標準餌を与えられているがポリソルベート80またはカルボキシメチルセルロースナトリウム1%を含む水あるいはただの水(対照)を与えられている。これはヒトの食品中の食品添加物に比べて非常に多い摂取量である。私の見解ではこの研究はヒトにはあまりあてはまらない。既知の発がん物質でがんを作り、膨大な量の食品添加物を与えている。この知見がヒトでの直腸結腸がんに食品添加物が関与している可能性があると示唆するのはとてつもない飛躍である。こんな高濃度の添加物を含む飲料水を飲ませるのは石けん水を飲ませるようなもので腸の壁を傷害し炎症を促進する可能性が高い。どちらもアゾキシメタンの発がん影響を悪化させる。
発がん物質を投与していないマウスはがんになっていない。アゾキシメタンを投与されたマウスだけががんになり、飲料水で添加物を与えられたマウスのほうが腫瘍が多いが多分それは高濃度の添加物が腸の刺激と炎症を引き起こしたからだろう。
ポリソルベート80はアイスクリームのような一部の食品に乳化剤として最大0.1%使われている。ADIは25mg/kg体重/日である。マウスの研究では飲水量が記録されていないので著者らは添加物の摂取量を報告していない。しかし20gのマウスが1日3-5mLの水を飲むと想定すると、添加物の摂取量は1500-2500mg/kgでありADIの60-100倍となる。従って我々の食事中に存在する量より多い。そして食品ではなく水で提供されている。
EFSAが最近ポリソルベート80の安全性を再評価し、極めて毒性が低いと結論した。齧歯類での発がん性試験では2500 mg/kg体重で何の影響もなかった。ADIはこの数字を安全係数の100で割って導出した。ヒトでこの化合物ががんに寄与することを示唆する根拠はない。
CMCは乳化剤の他増粘剤としても使われる。これも毒性は低く人工涙液にも使われている。
全体としてこの研究はいくつかの限界がありヒトには当てはめられず、懸念材料にはならない。
Queen Mary University London (QMUL)病理学名誉教授Sir Colin Berry教授
この研究には重大な限界がありヒトの直腸結腸がんについてはほとんどあてはまらない。心配すべきではない。
ヒトの直腸結腸がんの背景にある遺伝的変異については既によくわかっている。上皮が最終的に結腸の悪性腫瘍になるには8個程度の遺伝子変異がおこる(腺腫/がんシークエンスとよばれる)。ヒトの直腸結腸がんについてはこれらの遺伝子変異は特定の順番で生じるという根拠がありどのくらい時間がかかるかを示すデータもある。これらの遺伝子をもって生まれた人はそうでない人より早くがんになる。また潰瘍性大腸炎などの様な病気では腸の代謝回転が早いために病気になる時期が早く高率になる。そんなふうにヒトでの直腸結腸がんについてはたくさんのことがわかっている。
このマウスの研究の大きな欠点のなかには、投与した乳化剤の量がヒトが摂取しているより何桁も多いことも含まれる。これらの結果は食品中の乳化剤がヒトの直腸結腸がん増加に寄与していることを示すものではない。