食品安全情報blog過去記事

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SMC UK

脂肪を高炭水化物に置き換える研究への専門家の反応
expert reaction to study of replacing fat with high carb intake
August 29, 2017
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-of-replacing-fat-with-high-carb-intake/
The Lancetに発表された研究で、18ヶ国で高脂肪食と高炭水化物食を調べ、高炭水化物食の人のほうが健康の結果は悪かったと報告した。
King’s College London栄養と食事名誉教授Tom Sanders教授
この研究は高所得国、中所得国、低所得国の35-70才の男女の食事からの脂肪摂取と心血管系疾患と死亡率を比較しようとした大規模観察研究である。この研究では脂肪の摂取がアウトカムに与える影響は何も示されなかった−脳卒中による死亡(高血圧に関連)は心筋梗塞による死亡(血中コレステロール濃度に関連)同様よく見られた。残念ながらこの研究では異なる集団における血清コレステロール濃度が報告されていない。それは若年集団での心筋梗塞の発生率を強く予想するので重要である。北米、オーストラレーシア、北欧では心筋梗塞の率は何年にも渡って大きく減少してきた。そして70才以下では心筋梗塞より脳卒中の相対頻度は低い。
全体としてこの研究の参加者の心血管系イベントの発生率は年4/1000と英国の非喫煙男性の7/1000より低い。英国では同年齢(56)で同じ血圧の女性では4/1000で喫煙者のリスクは2倍である。
著者らはいくつかのモデル計算をして、脂肪より炭水化物を多く食べている国は、特に炭水化物の摂取量が極めて多い場合は心血管系疾患で死ぬリスクが高いと示唆している。そしてエネルギーの35%の摂取量が最もリスクが低いことと関連するとしているが、一次解析で脂肪に影響がないことが示されているので統計的にはこの解析はすべきではない。
脂肪の摂取量を推定するのに使った道具である米国の食品頻度質問票から改変したものは脂肪の摂取量を過小に推定するだろうし異なる国で一食あたりのサイズが同じで組成は米国の食品と類似すると仮定している。高所得国としてスウェーデン、カナダ、UAEが参加しているがこれらは医療へのアクセスも良い。UAEは糖尿病の有病率が極めて高いため高所得国に含めたのは奇妙である。こうした高所得国でも脂肪と飽和脂肪の摂取量は少なく、多くの場合飽和脂肪はエネルギーの10%以下と助言されている。著者らは現在の助言の総脂肪は総エネルギー摂取量の30%以下を低脂肪と呼んでいるが、EUでも米国でも食事ガイドラインは脂肪の摂取量は25-35%としている。中国、南アジア、アフリカのコホートでは脂肪の摂取量は全て現在のFAO/WHOの助言である25-35%を下まわっている。
著者らは全体の死亡率は低所得国で高いがそれが脂肪とタンパク質の摂取量の低さと炭水化物の摂取量の多さに関連すると報告している。
この論文に伴うエディトリアルでは、これが西洋諸国の健康的な食生活の定義に疑問を提示する根拠となることを示唆しているが、栄養欠乏と栄養不良に苦しむ低―中所得国には実際あてはまらない。脂肪の摂取がエネルギーの25%以下である場合には栄養が不適切である可能性の方が高く、低所得国では脂肪由来エネルギーの割合を増やす必要がある。デンプン質の食品に油を加えるよりマメやナッツや動物由来製品のような栄養の多い食品によるべきである。英国と米国では脂肪由来エネルギーは35%である。高脂肪食とは40%以上が脂肪由来のものであろう。この文脈に置いて東南アジアのデータは興味深く、過去20年で公衆衛生と栄養の向上で寿命が著しく延びた。東南アジアでは総脂肪はエネルギーの29.2%で飽和脂肪は9.2%である。主にマレーシアのデータであるがこれはWHO/FAOの助言に従っている。中国、インド、バングラデシュはまだ白米に過剰に依存している。
オックスフォード大学食事と集団の健康教授Susan Jebb教授
この論文は食事と健康の関連を、英国とは食習慣が大きく異なる主に低から中所得国で(調べた18ヶ国のうち15)検討した。
炭水化物の割合が多いことと(エネルギーの60%以上)死亡率の高さに関連があることを発見した。ここでの食事と健康に関する議論の多くは心血管系疾患による死亡率に集中しているが、炭水化物摂取と主要心血管系疾患との関連はなかった。炭水化物を多く摂っている国の過剰な死亡は心血管系疾患以外で、それは説明されていない。
欧州と北米の参加者はわずか11%で、英国の食事助言にこのデータがあてはまる部分は限られる。この解析対象の多くの国の食事は英国とは大きく異なる。例えば食事からの脂肪の摂取量が最も多い20%がようやく英国の平均に達し、炭水化物の摂取量が最も少ない20%が英国の平均に近い。健康状態の悪さと死亡に関連する食事以外の要因がたくさんある。この研究で、エネルギーの多くを炭水化物から摂る人たちで観察された死亡率の高さは、社会経済的状態の違いを反映していて食事と健康に関する統計解析では取り除けなかった可能性が高い。
プレスリリースで著者らは「最良の食事は炭水化物と脂肪のバランスをとって、炭水化物は50-55%、総脂肪は約35%」としている。これは英国の助言である脂肪由来エネルギーは35%、炭水化物は平均50%で5%のみが砂糖、と同じである

Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study
The Lancet
Published: August 29, 2017

Fruit, vegetable, and legume intake, and cardiovascular disease and deaths in 18 countries (PURE): a prospective cohort study
The Lancet
Published: August 29, 2017

Association of dietary nutrients with blood lipids and blood pressure in 18 countries: a cross-sectional analysis from the PURE study
The Lancet Diabetes & Endocrinology
Published: August 29, 2017

(prospective Urban Rural Epidemiology (PURE)研究の対象国は
3高所得国:Canada, Sweden, and United Arab Emirates),
11 中所得国:Argentina, Brazil, Chile, China, Colombia, Iran, Malaysia, occupied Palestinian territory, Poland, South Africa, and Turkey
4低所得国:Bangladesh, India, Pakistan, and Zimbabwe
貧しいと脂肪摂取量が少なくて、日本だって脂肪やタンパク質を多くとれるようになるのと並行して寿命が延びている。だからこの研究の結果自体はまあそうだろうというものだが、それを根拠に欧米のような既に脂肪摂取量の多い国が脂肪をもっととろう、と主張するのはどうなんだろう。糖質制限の流行もあって、拡大解釈や変な解釈をする人がたくさん出そう。)

  • メディア報道

カナダ
推奨脂肪摂取量は増やすべき、カナダの研究者らが言う
Recommended fat intake should increase, Canadian researchers say
Aug 29, 2017
http://www.cbc.ca/news/health/canadian-researchers-fat-carbohydrates-the-lancet-1.4266130
低脂肪食は危険な高炭水化物摂取につながる、と研究が示唆

テレグラフ(英国)
低脂肪食はあなたを殺す、大規模研究が示す
Low-fat diet could kill you, major study shows
29 August 2017
http://www.telegraph.co.uk/news/2017/08/29/low-fat-diet-linked-higher-death-rates-major-lancet-study-finds/

Daily Mail
1日5単位は忘れろ!野菜と果物3回分で十分でそれ以上摂っても利益はない
Forget five-a-day! Three portions of fruit and veg is all a person needs and any more provides NO extra benefits
29 August 2017
http://www.dailymail.co.uk/health/article-4832866/Forget-5-day-3-portions-fruit-veg-good.html

シドニーモーニングヘラルド
高脂肪対高炭水化物:ついに判決?
High-fat versus high-carb: is the verdict finally in?
August 30 2017
http://www.smh.com.au/lifestyle/health-and-wellbeing/nutrition/highfat-versus-highcarb-is-the-verdict-finally-in-20170829-gy6w7b.html

STAT
大規模な新しい研究が脂肪と炭水化物に関する常識に疑問を提示
Huge new study casts doubt on conventional wisdom about fat and carbs
By Patrick Skerrett @PJSkerrett
/August 29, 2017
https://www.statnews.com/2017/08/29/fat-nutrition-study/
(Mozaffarianに聞いているのでデンプンと砂糖を減らして脂肪を増やす、としている)