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本の紹介

佐々木敏のデータ栄養学のすすめ

佐々木敏のデータ栄養学のすすめ

佐々木先生と「栄養と料理」のコラボによる待望の2冊目です。
先の

佐々木敏の栄養データはこう読む!

佐々木敏の栄養データはこう読む!

と同様、一つのテーマについてデータ(図表)を紹介しながら読み切りできるようになっています。話題としてはこのblogで紹介したこともあるものもありますが、リンク先までちゃんと読んでいる人はあまりいないと思うので、グラフを見ながら解説しているこの本は重宝すると思います。

少し感想を書いてみます。
・ビタミンCの話
壊血病史に登場する著名人の見解」という表が紹介されています。ビタミンCに限らないのですが、ビタミン発見の歴史は権威主義と思い込みによって新しい知見を認めることがどれだけ妨げられてきたかを示す例だらけです。既に解決法がわかっているのに、当時権威とされていた人たちや学会が認めなかったばかりにたくさんの犠牲が出た事例が複数あります。それぞれの「権威」者は確かに偉大な発見をし医学の発展に貢献した人なのです。でもある分野で偉大な業績をあげたことが、ほかの分野への見解の正しさを保証するものではない。人類は多大な犠牲を払ってきたのに、いまだにこの間違いを繰り返し続けているようです。データに語らせることの重要性はいくら強調しても強調しすぎることはありません。そして佐々木先生の書いていることに私から付け加えるとしたら、この失敗の背景にあるのは人間の思考の癖としてのメカニズム(あるいは物語)への過剰な依存だと思います。メカニズムはわからないけれどこうすれば命が助かるということが確実に示されれば医学的根拠として使える、ことが今でもあまり理解されていないと思います。逆に、ありそうな説明、例えば○○はなんとか酵素を阻害する活性があるから△に効果があるはずだ、みたいなものは実際に効果が観察されなければ意味がないのですが妙に説得力があるとみなされます。これが「ミアズマ」や「気」だった時代でも同じだったのです。私たちは「物語が好き」なのでしょう。それが躓きの石であることは常に警戒すべきだと思います。
・第五章で紹介されている7か国研究
この研究で脂肪酸摂取量が心筋梗塞死亡率と関連することが示されたと思うのは当然ですし、実際に主流派はそう解釈しています。http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20180216#p6で紹介した考察にあるように、この「常識」が砂糖業界の陰謀だと主張するのは無理があります。そして心筋梗塞死亡率に関しては日本は地中海食とあまり変わらない、と読めます。ただ日本は脳卒中の死亡率が高かったので(今でも)日本の食生活が良いとは言えないのですが、和食推進派はそこは都合よく無視する。データに語らせることは大事ですが、データの一部だけを切り取って都合の良い結果になるように見せる、ことがしばしば行われているのが残念ながら現状です。
そしてこうした研究で食生活があまりよくないようだと認識したフィンランドのような北欧諸国が、伝統を大事にしながらもより良い食事を目指して「ニューノルディック」を学術としても推進していった一方で、都合の悪いデータは無視して良いと宣伝だけすることにした「和食」が研究論文が少なく佐々木先生に「まったく残念な結果」と言われているのはどれだけ真摯にデータに向き合ったか、を反映するのだろうと思います。
・緑茶カテキン
「世界が信頼するコクラン共同計画が「日本で行われた研究をすべて」集計から除いてしまったことにぼくは少しショックを受けました」と佐々木先生は書いておられます。日本の「トクホ」で認められているものがEFSAの評価で否定されていることはここでも何度も紹介していますし、現在の国際的に合意されている科学的根拠の考え方とは相当乖離しているのは事実です。たった一回の小規模試験でのP<0.1でも認めるという条件付きトクホの認定条件の説明文が政府の公式サイトに堂々と載っていること自体、科学技術立国などというのが恥ずかしくないのかというレベルです。でもこの30年近く前に作られたトクホという制度の最大の被害者は、こんなものを目指すことが学問なのだと今になっても教えられている学生さんだと思います。医学のEBM、そして栄養のEBNが提唱されるようになったのはトクホができた後です。学問は日々進歩するのに、「制度」としてあるのだからと正当化して進歩を拒んで30年。これでいいのだと考える人たちが教授として学生たちを教えています。栄養疫学を教えるところはほとんどないにも関わらず、トクホを目指しますという研究室や企業はたくさんあるのです。高い授業料を払って高等教育を受けようとする若い人たちに、国際的に通用する最先端の学問を教えないというのがどれだけの損失だろうと思います。
・野菜「1日に350g」の根拠はどこにあるのか?
この項目ははてなーの皆さんは必読です。中身は紹介しません。はてなーは買って読みましょう。この本は少々お高いかもしれませんがそれだけの価値はあります。時々アルファブロガー(?)による妙な食事に関する主義主張が人気記事になっていますが、この本を読んで、クールなブコメでスターを集めましょう。