食品安全情報blog過去記事

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その他

  • 視点:欧州オーガニック業界の「ナチュラル」への熱中はCRISPRの革新を脅かし環境を傷つける

Viewpoint: European organic industry's obsession with 'natural' threatens CRISPR innovations and hurts the environment
Ludger Wess | Genetic Literacy Project | May 10, 2018
https://geneticliteracyproject.org/2018/05/10/viewpoint-european-organic-industrys-obsession-with-natural-threatens-crispr-innovations-and-hurts-the-environment/
自然とは何?ナチュラルとは何?哲学者はこの問題を昔から議論してきた。有機農業の支持者らはそれを知っているらしい。彼らによると「化学」と「遺伝子」の使用は自然ではない。しかし農家がどの技術を認めるかを決めるのに「ナチュラル」の概念を使うのは困難である。ほとんどの人が信じている有機農業は自然にないものは使わない。しかし有機農業自身が問題に直面した。湿り気の多い夏の間に増えるカビと戦う術がない。数年前までは有機農業でもホスホン酸カリウムが使えた。しかし実際のところこれは天然物ではなく、純粋に合成化合物で(化学者ならこれがグリホサートの類似化合物であることはすぐわかるだろう)今はバイエルになったRhȏne-Poulencがかつて開発したものである。だから欧州委員会有機農業には禁止された。この禁止に有機農業の農家は悲鳴を上げ何とかしようとした。たくさんの緑の党州大臣が農家に同情して例外を認めようとした。しかしドイツの農業大臣が例外的に農家に合成農薬の使用を認めようとしたとき、国の緑の党から厳しく批判された。さらにこの合成農薬を救うために、有機農業団体はホスホン酸カリウムが天然物であることを証明しようとし、NASAの研究者らが数百年前に火星からきた隕石に痕跡程度存在することを発見していたと報告した。だから自然である。
でも自然界にも遺伝子の水平伝達はある(以下略)
「オーガニック」の狂気はどこまでいくのだろう?
(ホスホン酸カリウムは2013年までは有機農業で使われていたので今でも検出される、らしい)

  • 何百万頭もの犬がオンラインで販売されている病気になった肉から作った「反ワクチン」錠剤の流行で脅かされている、王立動物虐待防止協会RSPCAが警告する

Millions of dogs threatened by rise of 'anti-vax' pills made from diseased flesh sold online, warns RSPCA
By Justin Stoneman and Henry Bodkin 12 May 2018 •
https://www.telegraph.co.uk/news/2018/05/12/millions-dogs-threatened-rise-anti-vax-pills-made-diseased-flesh/
ますます多くの、根拠のない反ワクチン「レメディ」がオンラインで販売されているため犬猫が予防可能な病気のリスクに晒されている。Sunday Telegraphの調査で「ホメオパシーノソード」の誤解を招く主張が明らかになってアマゾンが今週、死んだ動物の病気になった肉から作った製品の広告を排除することに合意した。昨夜RSPCAがオンラインでの「反ワクチン」製品の宣伝増加は、オーナーがワクチン接種を拒否してペットにとって「恐ろしい苦痛」のリスクがあるという。犬も猫も予防接種率が近年低下している

  • 2億個以上の卵のリコールの最中サルモネラは約3ダースの人を病気にした

Salmonella sickens nearly three dozen people amid recall of more than 200 million eggs
by Kristine Phillips May 12
https://www.washingtonpost.com/news/to-your-health/wp/2018/05/12/salmonella-sickens-nearly-three-dozen-people-following-recall-of-more-than-200-million-eggs/?noredirect=on&utm_term=.a586e3e9acc7
Rose Acre Farmsの卵による最新患者数35人。
Rose Acre Farmsは家族経営の会社で本社はSeymourにあり8州に17の施設がある。同社は従業員を再訓練し「衛生管理者」ポストを創設して対策しているという
この会社は数年前に20年近くにわたる政府との法廷闘争を行っていた。1990年に3州450人を病気にした食中毒をおこし、政府は問題の卵を生産した3つの農場の卵を売ることを禁止しクリーンアップを命じた。これがビジネスを脅かしたとして会社が政府に損害賠償を求めて裁判をおこした。裁判官が会社の主張を認めたり覆ったりして2009年に終わった。
(中毒出してるのに政府を訴える会社、というほうが評判が悪くなると思うのだがそうでもないのかな。)

  • 農薬がコンドルの保存を妨害する

Pesticides thwart condor conservation
By Pablo A. E. Alarcón, Sergio A. Lambertucci
Science11 May 2018 : 612
アルゼンチンで、牧場を襲う補食動物対策として農場主が設置したカルボフラン入り羊一頭が34羽の絶滅危惧種アンデスコンドルを殺した。この事件により中毒コンドル数が過去13か月で66に増加した。途上国でも先進国同様にカルボフランを禁止すべき

  • 雑誌がHPVワクチンで神経傷害になると主張する論文を取り下げ

Scienceニュース
Journal retracts paper claiming neurological damage from HPV vaccine
By Dennis NormileMay. 11, 2018 ,
http://www.sciencemag.org/news/2018/05/journal-retracts-paper-claiming-neurological-damage-hpv-vaccine
Scientific Reportsが今朝、HPVワクチンを与えたマウスが神経傷害の兆候を示したと主張する議論の多い論文を取り下げた。この論文は批判者から子宮頸がんを予防するためのワクチンへの一般の信頼を毀損することによって「壊滅的な」健康帰結をもたらす可能性のある「疑似科学」と非難されていた。アントワープ大学の分子生物学者Alex Vorstersは「私は最終的に取り下げられたことを歓迎するが時間がかかりすぎた」という。しかし議論は続くだろう。「著者らは取り下げに合意していない」と取り下げ通告にある。
この論文は2016年11月11日にオンライン発表された東京医科大学のToshihiro Nakajimaらのグループによるもので、大量のHPVワクチンを、血液脳関門を漏れやすくする毒素と一緒にマウスに与えて動きが悪くなったことと脳の傷害を記述していた。この論文が発表されて間もなく二つのグループが別々にScientific Reportsとその出版社(NPG)に問題点を指摘する文書を送っている。
当時、ScienceへのメールでNakajimaはこの論文を擁護していた。他の研究でもよく使われる手法であり批判には詳細な回答を準備しているとも書いていた。しかし今朝の取り下げ通知では批判者の意見を支持している。Nakajimaは意見を求めるメールにすぐに反応していない。
この論文は日本と世界中の公衆衛生提唱者に警鐘を鳴らした。一見HPVワクチンの副作用と言われる逸話に幾分かの科学的根拠を与えるように見えたからである。メディアはそのような有害反応に苦しむとされる若い女性を報道し、反ワクチン活動家たちは厚生労働省にワクチン接種勧奨を止めるよう圧力を強めた。2011年から無料予防接種を始めた日本の札幌では予防接種率は約70%からほぼゼロに低下した、と北海道大学がん疫学者のSharon Hanleyは言う。これは日本では現在毎年9000事例あまりの子宮頸がんの発症と3000人の死亡があるがそれが減ることはないことを意味する。
Hanleyと VorstersはScientific Reportsがこの論文の調査に長く時間をかけたことを批判している。この遅れが悪い科学が拡散することを許した。Scienceからのメールに対してScientific Reportsは守秘義務を理由にコメントできないという。
Hanleyは「残念ながら取り下げによる一般の人々への影響はないだろう−ほとんどの日本市民はこの論文を知らないので」という。しかし彼女は政府のワクチン推奨再開に役立つことを期待する。Vorstersは公衆衛生担当者は予防接種推奨アプローチを再考した方がいいかもしれないという。反ワクチン活動家達のロビー活動の様子を見ると、このインチキ論文は多分また別の雑誌に発表されるだろう。そして仮にそうならなかったとしてもネットには他にたくさんの悪い科学論文がある。それら全てを取り下げさせる代わりに、ワクチンのポジティブな影響により注目すべきなのかもしれない。
(評価が減点法でメディアは揚げ足取りに熱心な以上、何もしないのが最適になってしまっている。)

(参考
『反ワクチン運動の真実 死に至る選択』
訳者あとがき
http://honz.jp/articles/-/44748
反科学というよりも反政府社会運動
社会運動としての反種痘運動は成功した。イギリスの人々はワクチンを打たない自由を手に入れ、ロンドンはヨーロッパにおける天然痘流行の中心地になるのだ。)