食品安全情報blog過去記事

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本をその表紙(とウェブサイト)から判断する:「妊娠食」

Judging a Book by Its Cover (and Its Website): "The Fertility Diet"
Elizabeth Wade
June 25, 2008
http://www.acsh.org/factsfears/newsID.1170/news_detail.asp
不妊は多くの女性にとって深刻な問題で、簡単な解決法はなかなかない。原因のはっきりしない不妊を経験している女性は、何年もの不確実で困難な治療に疲れて「魔法の治療法」に飛びつきやすい。もし彼女らが本「妊娠食The Fertility Diet」を信じたら、新しい敵「トランス脂肪」を見つけるだろう。
Harvard Public Health Reviewの2008年 春/夏号に掲載されたこの本の書評では「トランス脂肪を避けてマメやナッツやその他の植物性蛋白質と全粒穀物を食べて毎日全乳または脱脂していない乳製品を食べることで妊娠の可能性が増えるかもしれない」とまとめている。
ハーバード大学医学部の権威を纏って、この本の表紙には副題「画期的な研究により、排卵を増やし妊娠可能性を上げる自然な方法が見つかった」と記されている。そして記されていないことは、これが不妊原因の1/3以下である不定排卵による不妊の400人の女性を対象にした観察疫学調査によるもので、根拠は研究参加者の自分のライフスタイル報告に基づくものであることである。結論が正しいとみなせるかどうかは他の研究者による再現性確認が必要である。
公正を期すために言うと著者はこの知見の限界をインタビューで明確にしている。インターネットで少し検索しただけで著者が「この食生活が妊娠の可能性を増やすように見えると説明したいだけで不妊を治せるとは言っていない」というようなことを言っているのを見つけることができる。私は著者を責めたいわけではない。
私が批判しているのはこの本のマーケティング戦略である。この本を宣伝するウェブサイトでは、どこにも「全ての女性にはあてはまらない」と言っていない。逆に「全ての人に利用できる安全でナチュラルで無料の方法」と宣伝している。
何世紀もの間、不妊については女性のせいにされてきた。食事や運動で妊娠できるという信念は、妊娠しにくい女性にあなたが悪いと責めるところまであと少しである。一部の女性にしか役に立たないThe Fertility Dietの大規模宣伝は、女性が一生懸命やるだけで不妊が克服できるものだという考え方を広めることで、無責任である。
不妊の女性は既に子どもを持て(た)ないことによる周囲からの反応に苦しんでいる。彼女らが既に感じている罪悪感をこの本がさらに増大させるべきではない。