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貝のマリンバイオトキシン−アザスピラシドグループ(1)− CONTAMパネルの意見

Marine biotoxins in shellfish Azaspiracid group[1] - Scientific Opinion of the Panel on Contaminants in the Food chain
08/10/2008
http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1211902121673.htm
アザスピラシド類(AZAs)は、吐き気や嘔吐、下痢、腹痛などの症状が出るアザスピラシド中毒(AZP)を誘発する貝毒のグループである。約20種の類似体が同定されているが、そのうち毒性の点と検出頻度の点で最も重要なのはAZA1、AZA2及び AZA3である。AZAsはカキやイガイ、ホタテ、アサリなどのろ過摂食性二枚貝各種に見られる。アイルランドにおける貝のAZAsモニタリングの結果、最も良く検出されるのはイガイであることがわかった。AZA毒素を産生する渦鞭毛藻が単離されたのはごく最近のことである。AZAは独特のらせん環構造、ヘテロ環状アミン(ピペリジン)、脂肪族カルボン酸分子をもつ、窒素を含むポリエーテル毒素である。貝のAZAsは調理に用いられる温度では分解しない。
AZAsの毒性学的データは限られており、主に急性毒性研究である。一部の国ではAZA1 = 1、AZA2 = 1.8 及びAZA3 = 1.4の毒性等価指数(TEF)が用いられている。少数のマウスでの腹腔内投与による死亡率という既存のデータからはしっかりしたTEFは導出できないため、暫定的にこれらの値を用いることにした。
長期(最大1年)反復投与試験はAZA1でだけ行われている。肺や胃、小腸、肝臓など複数の臓器に病理学的変化が観察されており、たまに肺がんが観察されている。これらの腫瘍は重大な毒性を誘発する用量でのみみられることから
CONTAMパネルはこの知見の妥当性は低いと考えた。遺伝毒性は報告されていない。AZAsのヒトや動物での慢性毒性データはTDIを設定するには不十分である。急性毒性の観点からヒトデータを用いてARfDを導出することにした。
ARfDを導き出すのに利用できるデータはヒトの中毒事故1例のみである。 CONTAMパネルはもっともありそうな推定として、AZA中毒のLOAELを一人あたり113 microg(60kgの成人で1.9 microg/kg体重に相当)とした。LOAELからNOAELへの換算の不確実係数として、症状が弱いことと可逆性であることから3を採用した。ヒトの感受性の個人差については、通常の10は必要なく、もとになったデータの数が少ないことから追加の不確実係数としての3を採用した。その結果、ARfDは0.2 microg AZA1当量/kg体重となった。
貝の摂取による健康リスク評価を行う場合には、AZAsの急性毒性から保護するためには、長期にわたる平均摂取量ではなく高摂取量を使うことが重要である。EU全域での貝類の摂取データは限られているため、EFSAは加盟国に相当する貝類の摂取量情報を要請した。提出されたデータに基づき、マリンバイオトキシンの急性毒性リスク評価には高摂取量として貝の身400gを用いることにした。
現在のEU規制値160 microg AZA1当量/kg貝の身では、400g食べると64 microg AZA1当量になり60kgのヒトの暴露量は約1 microg AZA1当量/kg体重となる。これはCONTAMパネルの設定したARfDの5倍になる。従ってこの量では感受性の高い消費者の健康にリスクとなる可能性を排除できない。摂取量と検出頻度データに基いて計算すると、現在ヨーロッパ市場で販売されている貝を食べることでARfD 0.2 microg AZA1当量/kg体重を超える確率は60kgのヒトで4%となる。 CONTAMパネルは体重60kgのヒトが400gの貝を食べてもARfDを超えないようにするには貝の身に含まれるAZA1当量は30 microg /kgを超えてはならない、と結論した。
EUではAZAs検出法としてマウスとラットのバイオアッセイが採用されている。 いずれの方法も定量性や特異性に欠けるなどの欠点がある。マウスの腹腔内投与による急性毒性データからは、マウスのバイオアッセイで現在のEU規制値160 microg AZA1当量/kg貝の身が検出できるかどうかは明確ではない。
現行のEU規制ではバイオアッセイに替わり国際的に認められた代替法の使用を認めている。しかしながら現時点ではAZA検出方法で評価されたものはない。現時点ではLC-MS/MS法が最も可能性が高いようだ。マリンバイオトキシンの規制には分析法のパフォーマンス基準が必要で、実験室間試験による評価を長期目標とすべきである。