食品安全情報blog過去記事

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魚介類の海洋性生物毒素 ドーモイ酸

Marine biotoxins in shellfish Domoic acid
24 July 2009
http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1211902707355.htm
ドーモイ酸(DA)およびその異性体はヒトに記憶喪失性貝中毒(ASP)を誘発するマリンバイオトキシンである。ASPの症状には、汚染魚介類を食べてから24-48時間以内の嘔吐・下痢・腹痛などの消化器系症状と/及び錯乱・記憶喪失・又は痙攣や昏睡などの重大な徴候などの神経系症状が含まれる。DAは水溶性の環状アミノ酸で、主にChondria属の海洋性の紅藻やPseudo-nitschia属の珪藻類が作る。最初に確認されたASPアウトブレークは1987年のカナダで、 Pseudonitzschia f. multiseriesの大発生により汚染されたイガイが関与した。DA異性体は米国やEU諸国でも検出されている。DAの異性体には何種類かがある(エピドーモイ酸とイソドーモイ酸のジアステレオアイソマー)が、魚介類から検出されているデータがあるのはDAとepi-DAのみである。
DAの毒性学的データは限られており、齧歯類カニクイザルでの注射による急性毒性が主で経口投与によるデータは少ない。実験動物やヒトでの重大な毒性は神経毒性である。DAの毒性影響は脳の特定領域(例えば海馬)の特定グルタミン酸受容体への高親和性結合による。少ないデータからは齧歯類よりカニクイザルの方が感受性が高いことが示唆されている。
DA経口投与では吸収率は低い。吸収されたDAは腎臓から速やかに排出され、腎障害があるとDA感受性が高くなる。
遺伝毒性データについては結論は出せない。慢性毒性データはない。そのためCONTAMパネルはTDIを設定できない。ヒトでの急性毒性データをもとにARfDを設定することにした。
ASPアウトブレークの際の数少ない(9人)データからは、重症の不可逆的影響は約4 mg/kg体重でおこり、弱い症状が見られたLOAELは0.9 mg/kg体重である。 急性経口毒性の性質はよくわかっていないが、この値を用いてARfDを設定するのが適切であると考えた。
LOAELをNOAELに換算する係数として3、ヒトの個体差のための安全係数を10として、ARfD 30 microg DA/kg b.w.を設定した。DAは貯蔵によりエピDAに変換されるた
め、ARfDはDAとエピDAの合計に適用される。
一回に食べる最大量として400g貝の身を用い、現行のEU規制値20 mg DA/kgだと食事からの暴露量は8 mg(体重60 kgの成人の場合130 microg/kg)になる。これはARfDの約4倍に相当し健康リスクとなりうると考えられる。現状の消費量と検出頻度のデータからはヨーロッパで販売されている貝を食べてARfD 30 microgDA/kg b.w.を超える可能性は1%程度と推定される。400g食べてARfDを超過しないための濃度は4.5 mg/kg貝の身である。
DAは熱に安定で調理により毒素が分解されない。茹でたり蒸したりする場合には毒素が流出するため量が減る可能性がある。ホタテについては加熱による肝膵から他の組織への毒素の再分布がおこる。
DA及びその異性体検出方法はHPLC-UVやELISAなどがあり、4.5 mg/kgより十分低い検出限界を示す。LC-MSも使えるであろう。