食品安全情報blog過去記事

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The Lancetより

Vol. 374 Number 9692, 5-11 September 2009

この号は南アフリカの保健衛生政策特集


スウェーデンにおけるファッドダイエット(気まぐれな食事療法)
Fad diets in Sweden, of all places
Jim Mann, Edwin R Nye
スウェーデン保健福祉委員会による糖尿病患者向けの食事ガイドラインに関する科学的レビューが進行中であるが、この結果についてはいつも注目される。
特効薬を欲しがる多くの人たちが魔法の健康効果を提供する気まぐれな食事法に関心を持ち、そのような本はしばしばベストセラーになる。超低炭水化物ダイエットであるアトキンスダイエットも例外ではなく、世界中に広がっている。これらの根拠は短期間の体重減少で明確な副作用がないことである。
ほとんどの当局は超低炭水化物高脂肪(LCHF)ダイエットに反対でありそのような助言は一般人向け及び糖尿病患者向け食事ガイドラインに取り入れられていない。しかしながら最近のスウェーデンでの経験は、マスメディアによる間違った報道に基づく食事療法が公衆衛生や個人の健康を脅かしかねない範囲まで影響していることを示した。
この物語は2007年に2人の栄養士がスウェーデン保健福祉委員会に一般開業医Annika Dahlqvist が科学的根拠に基づかないLCHFダイエットを糖尿病患者や一般人に勧めていると報告したことに始まる。告発を認めれば懲戒に値する。委員会は専門家による報告書を要請した。この報告書は2007年12月14日に有名な糖尿病専門医であるChristian Berneにより社会福祉委員会に提出された。その報告書では一連の警告とともに短期間の試験ではLCHFダイエットに幾分かの科学的根拠があると結論されていた。警告には長期試験がないこと、脂質のモニタリングなどが必要なことなどが記されていた。
これを根拠に、Berneの警告を繰り返しつつ(特に通常のアプローチに比べてLCHFダイエットの利点を示すデータは貧弱であった)も委員会はDahlqvistを無罪にした。その結果これまで比較的関心が低かった調査への興味が急速に拡大し、Dahlqvistは潔白であると報道され、Dahlqvist自身が彼女の食事療法は一般時にも糖尿病患者にも有効であると主張した。
この時もうひとつの問題がおこっていた。委員会は糖尿病患者向け食事ガイドラインを発表する予定だったがその委員に任命されていた2人が除名された。理由はスウェーデン栄養財団の関係者であり、この財団は世界中の他の財団同様企業から資金提供を受けているため利益相反があるとみなされたのだ。この財団は科学者が運営していて独立した助言を提供しており、除名された2人は国際的に尊敬されている科学者である。栄養学者は多くの国でそのような国の栄養財団をサポートしている。このことで医学や科学コミュニティーの怒りを買い、2008年9月26日から作業に入った報告書が待ち望まれた。
一方で専門家の意見を超えて間違った方向への熱意は拡大していった。タブロイド紙AftonbladetはLCHFダイエットの基本を解説し、Dahlqvistのブログを引用して学校や保育園でも「子どもたちの脳を救うため」にこの食事法を導入しようという呼びかけまでみられる。スウェーデン食品局が高脂肪食は有害でないという論文が8報しかないのに有害であるという論文は72あるとリストアップしたにも関わらず、高脂肪食への熱狂は持続した。Dahlqvistの本の一つはスウェーデンのノンフィクション部門でNo.1のベストセラーになった。
この物語はまだ終わっていない。この一連の出来事から、少なくとも一般の人々は専門家が信用できない理由と考え、必要な食生活改善を行わない理由になるだろう。