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重要な環境エピジェネティクス論文に疑問

ES & Tニュース
Key environmental epigenetics paper challenged
Environ. Sci. Technol., Article ASAP
DOI: 10.1021/es902777p
September 23, 2009
http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/es902777p
2005年Scienceに発表された環境健康影響研究や規制に大きな影響を与える論文に疑問が提示されている。この論文はワシントン州立大学のMichael Skinnerの研究室が発表したもので、胎児期の内分泌攪乱化学物質暴露の影響が4世代に渡って引き継がれるというものであった。
エピジェネティクスとはDNA配列の変化では説明できない遺伝子機能の変化で、 メチル化やヒストンの修飾などが関与する。栄養状態などで動物やヒトのエピジェネティックな変化が誘発されることが報告されている。化学物質暴露によるエピジェネティック変化についてはSkinnerの研究室だけが多世代にわたる影響を報告していた。2005年の論文は妊娠SDラットに胎児の性決定のおこる臨界期に極めて高用量のビンクロゾリンを与えると生まれてきた雄の精子が少なく動きも悪くなるが、その後の4世代に影響があるというものだった。Skinnerによればこれまでの報告では影響は2世代で終わっている。Skinnerのグループはその後同様の論文を9報発表し、ビンクロゾリンの影響は前立腺や腎臓の病気、免疫系異常、腫瘍などに拡大し、雌についても子宮出血や貧血、妊娠の遅れ、乳腺やその他の腫瘍の増加など影響を多数報告している。さらに行動影響も報告している。
しかし2009年6月にそのうちの一つの2006年の論文を著者らが取り下げている。その理由はデータの存在が確認できないということで、共著者らがデータの改竄に気がつかなかったとしている。この分野の他の研究者らはこの事例をSkinnerの研究室での他の仕事に疑問を投げかけるものとは見なさなかった。
しかし最近の論文や発表で、EPAの科学者、ドイツや日本の研究でビンクロゾリンで同じ実験をしても結果が再現できないことが報告されている。特に日本の実験ではSkinnerの実験条件を忠実に再現したのに結果は再現できなかった。
Skinnerの研究室ではビンクロゾリンの他によく知られた抗アンドロゲン作用のあるフルタミドで同じ実験をしているがビンクロゾリンと同じ影響は見られていない。
Skinnerの研究室のラットに特有な現象なのかもしれない。


Skinnerの2005年論文
Matthew D. Anway et al.
Science 3 June 2005:Vol. 308. no. 5727, pp. 1466-1469
Epigenetic Transgenerational Actions of Endocrine Disruptors and Male Fertility
ビンクロゾリンとメトキシクロールの胎児期暴露の影響(DNAのメチル化パターンの変化)が雄の生殖細胞を通してF4まで伝わるという論文。


日本の論文
Kunifumi Inawaka et al.,
Toxicology and Applied Pharmacology
Volume 237, Issue 2, 1 June 2009, Pages 178-187
Maternal exposure to anti-androgenic compounds, vinclozolin, flutamide and procymidone, has no effects on spermatogenesis and DNA methylation in male rats of subsequent generations
白井先生
(von Saalの再現できない論文といい、内分泌攪乱分野ってこういうの多い。)