食品安全情報blog過去記事

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EFSAはビスフェノールAについての助言を更新

EFSA updates advice on bisphenol A
30 September 2010
http://www.efsa.europa.eu/en/press/news/cef100930.htm
低用量でのビスフェノールAの毒性に関する最近の科学研究や論文を包括的に詳細に検討した結果、EFSAのCEFパネルは、2006年に設定され2008年に再確認された現状のBPAのTDI 0.05 mg/kg体重を改訂するような新しい根拠は無いと結論した。さらにCEFパネルは現在入手できるデータはBPAの神経行動への毒性についての説得力のある根拠とはならないとも発表した。
委員会のメンバーの一人がマイノリティ意見として一部の最近の研究でTDIを設定するのに用いたものより低い用量での有害影響に関する不確実性を指摘していると述べた。この委員はこれらの研究がTDIを引き下げるには使えないという他の委員の意見に合意するが、現状のTDIを暫定TDIとすることを薦めている。
CEFの委員は一部の研究で現状のTDIを設定するのに使った用量以下の用量のBPAを発生段階で暴露された動物に有害影響が報告されているが多くの欠陥がありヒト健康への妥当性については評価できない。将来新しい関連データが入手可能になればCEFパネルはこの意見を再考するだろう。

  • ビスフェノールAについての科学的意見:神経発達毒性研究、最近の毒性に関する学術論文、デンマークのリスク評価に関する助言の評価

Scientific Opinion on Bisphenol A: evaluation of a study investigating its neurodevelopmental toxicity, review of recent scientific literature on its toxicity and advice on the Danish risk assessment of Bisphenol A
30 September 2010
http://www.efsa.europa.eu/en/scdocs/scdoc/1829.htm
欧州委員会からの諮問については3つの部分(パートI-III)で回答し、パートIVは全体のまとめとする。
パートI
神経発達影響に関する不確実性に対応するためのStumpらによるGLP基準遵守OECDガイドライン426研究(2009)の結果は過去の多世代試験で導出されたNOAEL(5 mg/kg体重/日)を支持するものである。しかしながら学習や記憶試験については結論は出せず、BPAのリスク評価における価値は限られる。
(同時に出された意見参照)
パートII
2007年から2010年7月までに発表されたトキシコキネティクス、ヒト及び動物での毒性試験に関するデータをレビューした。採用基準は;オリジナルデータを発表している公表されているピアレビューのある雑誌のフルペーパー、バイオモニタリングだけの場合を除くヒト試験は全て、である。In vivo動物実験については最低5mg/kg体重以下の用量を含む複数用量での経口発達期暴露試験を採用した。さらにこれらの研究は質についての判断基準(サンプルサイズ、適切な対照群、陽性対照、形態変化と機能の相関を見ているか、適切な統計単位での観察)に従ってヒトリスク評価に使えるかどうかを評価した。
トキシコキネティクスの研究から、経口暴露後の体内濃度は非経口投与の場合より低く、食品からの暴露によるヒトリスクを評価する場合には経口投与による試験の方が妥当性が高いことを確認する。さらにヒト以外の霊長類(新生と成獣両方)での新しい知見は齧歯類よりヒトの方がBPAを速やかに排除するという見解を強化する。このような速やかな排出の結果、ヒトの方が齧歯類より遊離のBPAへの体内暴露量が相当低くなる。最近の知見によれば、ヒトでは未熟な乳児ですらグルクロン酸抱合と硫酸化によりBPAを効率的に排出することができる。従って通常用いられる種差についての不確実係数10は極めて安全側に偏っている。
子宮内暴露に関してはBPABPAのグルクロン酸抱合体の経胎盤輸送は、おこる可能性はあるものの、胎児の遊離BPA濃度は排出ポンプP糖タンパク質により極めて少なく保たれ、胎盤でもBPAのグルクロン酸抱合がおこる。授乳による総BPA(ほとんどはグルクロン酸抱合体であるが)暴露も極めて少ない。従って子宮内暴露や授乳による暴露は少ないと見なせる。
BPAの解毒に関する酵素のイソ型による個人差の可能性はある。しかしながらこれらの酵素の発現量が少ないヒトであっても、消費者が暴露されているような低用量の暴露による少量の血中遊離BPAを排出するには十分な代謝能力がある。食事からの推定暴露量は、保守的なものでも成人で最大1.5、3-6ヶ月の乳児で最大13 microg/kgである。このような暴露量では成人や胎児のBPA代謝能力を超えることは予想できない。
最近の疫学研究でBPAの尿中濃度と成人の健康影響(冠動脈心疾患、生殖器系疾患)や少女の行動に統計学的に有意な関連があることが示唆された。このような横断疫学研究はBPA暴露と健康影響の関連の有無を示すことはできてもそのデザインの本質から因果関係を証明することはできない。さらにこれらの研究にはいくつかの欠点があり報告された知見の意味に疑問を投げかける。従ってこれらの研究からは意味のあるリスク評価に関する結論は出せない。
5mg/kg体重以下の影響を報告した発達生殖毒性に関する動物実験は極めて重大な欠陥があり意味がない。妥当な試験では5mg/kg体重以下の用量のBPAでの発達生殖毒性への懸念はない。
脳の異なる領域での受容体発現のような意味があるかもしれない生化学的変化が報告されている。しかしながら機能的有害影響との相関が無いためヒト健康影響についての妥当性は評価できない。Ryanらの研究(2010a)で、性的二型核発達へのBPAの影響が調べられていて、エストロゲン処理したメスの子どもでオスのようなサッカリン嗜好性の削減とロードシス行動の抑制が観察されているがBPAでは観察されていない。Stumpらの研究(2009,パートI)では学習や記憶に与えるBPAの影響は主にデータのばらつきが大きいため結論を出せない。他の最近の研究は方法論的に欠陥がある。従ってCEFパネルは現在入手できるデータはBPAの神経行動毒性についての信頼できる根拠となるとは考えない。
Jenkinsら(2009)による研究は授乳によるBPA暴露で発がん物質誘発性の乳がん感受性が高まる可能性を初めて示したものである。ジメチルベンズアントラセン(DMBA)誘発性乳腺腫瘍という同じモデルを用いた子宮内BPA暴露で、Betancourt ら (2010b)も乳腺の発がん感受性増強を報告している。どちらの研究デザインも欠陥があり、特に子のBPA暴露に関する不確実性から、CEFパネルはこれらの研究を根拠にTDIを導出することはできないと考える。しかし最高用量では乳腺で細胞増殖からアポトーシスへの細胞割合のシフトが見られることを注記する。他の研究で得られた子宮内暴露によるメカニズムのデータや発がんにおける細胞増殖/アポトーシス比の意味などから、Jenkins とBetancourtの報告における影響についてはさらなる検討に値するだろう。
また免疫系パラメーターへの修飾もBPA研究における新興分野である。いくつかの研究でサイトカインやT細胞集団などの変化が報告されている。しかしながらいずれも実験デザインや報告のしかたに欠陥があり、TDI導出の際に考慮することはできない。
BPAの内分泌への影響によるメカニズムを示唆する多数のin vitro及びin vivoデータを集めた。高用量のBPA(5 mg/kg体重/日を超える)には、他のエストロゲン様物質同様何らかの生化学的及び分子的影響があるだろう。BPAは古典的ホルモン受容体に関係なく、低用量で影響があると主張されている。BPAはこれらの受容体への結合力は弱く、キナーゼを介した細胞膜にある信号伝達経路により影響が出るのかもしれない。しかしながら明確な用量反応性が無く実験デザインに欠陥があることから、観察されている生化学及び分子的変化にヒト健康影響上の意味があるのかどうか結論できない。BPAの低用量での共通する明確な作用機序がなく、報告されているBPAの影響の毒性学的意味が評価できないためにこれらの結果はTDI導出の際に考慮することはできない。
EFSAは内分泌活性のある物質について共通の戦略を開発する内部専門委員会を設立した。CEFパネルはEFSAのこの作業を見守る。
パートIII
デンマークBPAリスク評価について。
DTU Food Instituteの結論は主に3つの主張からなる。(i)Stumpらの研究で低用量BPAのオスで学習能力が低下したことから学習能力への影響について不確実性がある;(ii)BPAの用量反応曲線が単相ではない可能性がある;(iii)これまで学習や記憶などのような指標は考慮されていない。
についてはビール型迷路試験で調べられた学習や記憶への影響は評価できず、リスク評価には使えない。(ii)についてはBPAの低用量影響を主張する研究のほとんどは複数の欠陥があり低用量影響に特有の有害影響を明確に再現できたものはない。
全体として包括的に評価するとTDI 0.05 mg/kg体重を改訂するような新しい根拠は無い。