食品安全情報blog過去記事

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妊娠中の軽い飲酒は子どもの行動や知能の発達に悪影響を与えない

Light drinking during pregnancy does not harm child's behavioral or intellectual development
5-Oct-2010
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2010-10/bmj-ldd100510.php
Journal of Epidemiology and Community Healthにオンライン発表された研究によれば、妊娠中の軽い飲酒は小さい子どもの行動や知能の発達に悪影響を与えない。先に3才までの研究で同様の結論が出されていたが、より遅くなってからの影響の可能性を調べた。
2000年9月から2002年までに英国で生まれた11513人の子どもたちの長期健康を調べる大規模研究であるミレニアムコホート研究のデータを用いた。
母親の飲酒量としては、全く飲まない、軽い(週に1-2ユニット)、適量(週に3-5ユニット)、大量または無謀飲酒(週に7ユニット以上または一度に6ユニット以上)に分類した。子どもは3才と5才で評価した。
全く飲酒したことのない母親は6%以下で、60%は妊娠中は飲酒を控えたと回答した。軽い飲酒は約26%、適量が5.5%、重度飲酒は2.5%だった。
全体として発育上の問題のあるのは男の子に多く、内容としては行動上の問題、多動、人間関係である。女の子は情動的問題が多い。認知機能は平均で女の子のほうが高い。
母親が重度飲酒の場合子どもたちの多動やその他の問題が多いが、軽度飲酒では子どもたちの行動や知能の発達に悪影響があるという証拠はみつからなかった。むしろ軽度飲酒の母親の子どもたちのほうが妊娠中に断酒していた母親の子どもたちより行動上の問題が30%少なく認知機能のスコアも高かった。

これについて
Science Media Center
妊娠中に軽い飲酒はOK? 専門家の反応
Is light drinking during pregnancy okay? Experts respond
October 6th, 2010.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2010/10/06/is-light-drinking-during-pregnancy-okay-experts-respond/
英国のミレニアムコホート研究のデータを使った研究で妊娠中の軽い飲酒は子どもの行動や知能の発育に悪影響を与えないことだ示唆された。
ニュージーランドの保健省とアルコール助言委員会ALACは、妊娠中の女性には禁酒を勧めている。ALACは「たとえ1-2回の飲酒でも赤ちゃんの知能に影響する可能性がある。たくさん飲めばより大きなダメージがある。飲酒したから必ず障害がおきるということはないがどんなときに有害影響がおこるのか知るのは不可能である」と述べている。
SMCはこの分野の専門家に質問した。
オタゴ大学Dr Helen Moriarty
新しい論文を見ると既存の助言が疑問に思われるかもしれない。しかしながらこの知見に疑問を投げかける欠陥もある。一つは後ろ向き研究で、母親が妊娠終了後9ヶ月経過してから妊娠中の飲酒についての質問に答えていることである。さらに真の参加者は21825人なのに解析されたのは11513−11374人で52-53%しかない。
オークランド大学Dr Sheryl Parackal
この研究で調べられた項目は限られたものであり「影響が全くない」とは言えない。妊娠中に断酒した女性より軽度飲酒の女性のほうが結果が良かったのは驚くべきことではなく、多くの女性が妊娠に気がつくのは妊娠4-8週である。NZの研究では女性の半分が妊娠に気がつく前に飲酒していて、しかもかなりの割合で暴飲したことがある。多くの女性にとって妊娠の開始は妊娠を自覚した時からで、それ以前の飲酒は回答しないだろう。
ニュージーランド小児科学会長Dr Rosemary Marks
このコホート研究の参加者は乳児が9ヶ月の時に母親に妊娠中の飲酒について尋ねている。アルコールと妊娠について最も重要な時期は妊娠後最初の数週間で、妊娠の自覚がない時期が含まれる。また現在ほとんどの女性は妊娠中に飲酒するのは問題があるということを知っており、実際より少なく報告する可能性がある。また飲酒と喫煙には強い相関があり軽い飲酒の集団は喫煙率も低い。
オークランド大学Dr Trecia Wouldes
著者らはミレニアムコホート研究の先の報告でも軽い飲酒群では臨床的に意味のある有害影響はなかったという結果を発表している。しかし「軽い飲酒」群が教育レベルも高く経済的にも恵まれている社会経済的に有利な集団であることに注意すべきである。妊娠初期の実際のアルコール暴露量データが必要である。
オタゴ大学Jennie Connor教授
プレスリリースにある軽度飲酒の母親の子どもたちのほうが妊娠中に断酒していた母親の子どもたちより行動上の問題が30%少ないという主張はこの論文のデータからは言えない。
オークランド大学Dr Susan Morton
ほぼ同様