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食品中ポリ臭化ビフェニル(PBBs)に関する科学的意見

Scientific Opinion on Polybrominated Biphenyls (PBBs) in Food
13 October 2010
http://www.efsa.europa.eu/en/scdocs/scdoc/1789.htm
PBBは合成繊維やポリマーに使われた難燃剤の添加物で、ポリマーには化学結合しないために環境中に放出される。デカBBが2000年頃まで作られていたのを除き1980年代半ばまで製造されていた。
PBBは二つのフェニル基に臭素がついた基本構造をもつ臭素炭化水素である。PBB同族体と呼ばれるものには臭素の位置や数の違う209の化合物が理論上存在する。PCB同様にベンゼン環は中心結合の周りを回転可能で、オルト置換基の程度に依存して二つのフェニル基が平面に並んだり非平面上にあったりする。オルト位の水素が臭素置換されたPBBをオルトPBBと呼び、オルト位の水素が置換されていないものを非オルトPBBと呼ぶ。この分子構造の違いがPBBの毒性を決める受容体との結合に関連する。
PBBは蒸気圧と水溶性の低い脂溶性化合物で、臭素がたくさんついているほど水溶性が下がる。一般的に化学的には安定で環境中に長くとどまり生物濃縮される。臭素がたくさんついたビフェニルは光分解と還元的脱臭化により臭素数の少ない同族体になる。
1983年にEUではPBBの繊維への使用を制限し2006年には電子部品にPBBが含まれてはならないという規制が発効した。ただし重量%で0.1%は許容される。
PBBは環境中や食品、飼料中に低濃度で存在する。
CONTAMパネルの助言により2006年以降モニタリングが行われ、2003-2009年の794食品について16のPBBのデータが6か国からEFSAに提出された。CONTAMパネルは入手できたデータを評価した。
PBBのトキシコキネティクスのデータは限られているが、消化管でかなりの部分が吸収され臭素がたくさんついた同族体は脂肪に蓄積し脱臭素化や水酸化がおこる。ラットにおけるBB 153のみかけの半減期は9-69週の間でばらついている。ヒトでの血清中半減期は10-30年の間であろう。
PBBの毒性試験は製造や使用が中止されたため数十年前のものである。経口による主な標的臓器は肝、生殖器系、甲状腺ホルモン恒常性、神経や免疫系である。PBBの経口による急性毒性は低く単回投与のLD50は>1000 mg/kg体重である。
PBBは非遺伝毒性作用メカニズムで齧歯類の肝発がん性があるが閾値がありNOELは0.15 mg/kg体重である。オルト置換同族体が核受容体と相互作用して、一方非オルト同族体はAhR活性化と細胞傷害性によりがんを誘発すると考えられている。
PBB暴露と神経発達影響のような健康影響とが関連するという疫学データがいくつかあるが、知見は限られたもので一貫せず、他の交絡要因が解釈の妨げになっている。
CONTAMパネルは参照用量設定のための重大な影響として肝発がん性を選択し、この指標におけるNOEL 0.15 mg/kgを使う。ただしこれは工業用PBB混合物を用いた試験により導き出されたもので食品に含まれる同族体の分布とは異なるため最悪ケースであることを注記する。
母乳を与えられている乳児を除くと、油分の多い魚をたくさん食べる集団が最も食事からのPBB暴露量が多い集団となる。BB-49, -52, -77, -101 および -153の推定暴露量の上限は0.15 ng/kg b.w. per dayで、これをNOEL 0.15 mg/kgと比較すると約6桁低い。他の集団ではさらに低い。母乳を与えられている乳児では 0.9〜 1.4 ng/kg b.w. per dayで、これは毒性学的参照量より5桁少ない。
さらに非オルト同族体についての懸念の可能性があることからBB-77、 -126および -169の暴露量推定も行った。高摂取群(95パーセンタイル)での摂取量は0.3 pg/kg b.w. per day程度である。非オルトPCBと同程度のTEFと仮定すると非オルトPBBの推定暴露は0.01 pg TEQ/kg b.w. per dayとなる。ヨーロッパ人のダイオキシンダイオキシン様化合物へのバックグラウンド暴露量を考えると、この過剰推定された非オルトPBBの暴露量は無視できる。
CONTAMパネルはヨーロッパにおける食事からのPBB暴露に懸念はないと結論した。さらにPBBは最早使用・生産されておらず環境中濃度も低下していることからPBBの研究やモニタリングの優先順位は低いと結論した。