食品安全情報blog過去記事

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Natureニュース

  • 米国のリシン攻撃は有害と言うより怖がらせ

US ricin attacks are more scary than harmful
18 April 2013
Erika Check Hayden& Meredith Wadman
http://www.nature.com/news/us-ricin-attacks-are-more-scary-than-harmful-1.12834
研究者らは行き詰まったワクチン開発を更新したい
FBIがアメリカの政治家にリシン汚染しているとみられる3つの手紙が送られたこととの関連で容疑者を逮捕した。Barack Obama大統領宛、共和党上院議員宛、名前を公表していないミシシッピの政府役人宛、である。しかしこの事件の危険性は比較的少ない。リシンは微量で致死的ではあるが原料を最も有害な形態、つまり吸入可能な微粒子、に加工するのは難しい。そのためインターネットにトウゴマからの作り方が書いてあっても集団殺傷事件の原因にはなりにくい。これまでリシンを使ったバイオテロの試みが2003年と2004年におこっているが死者はいない。Monterey Institute of International Studies の生物化学兵器不拡散長のRaymond Zilinskasは、「封筒に入ったリシンが誰かを傷つけることは想像しにくい。人々を怖がらせるのが目的だろう」という。
しかし米国政府はリシンを二番目に懸念の高い生物剤群と位置づけていてワクチン開発に研究費を出している。しかし開発は進んでいない。

  • リシンについてのQ & A

The quick facts about ricin
Erika Check Hayden
17 April 2013
http://www.nature.com/news/the-quick-facts-about-ricin-1.12819
Natureがリシンについて説明する
リシンとは何?
リシンはひまし油を作る植物Ricinus communis(トウゴマ)の実にある毒素で、油を絞った後のマッシュとよばれる残渣に含まれる
どのくらい危険?
CDCによるとリシンは「極めて有毒very toxic」で、サルのデータからは3mgを吸入すると成人が死ぬことが示唆されている。
どのような作用か?
タンパク質を作る細胞内小器官であるリボソームを不活性課する。細胞が生きるのに必須のタンパク質を作れなくなり死亡する。
リシン中毒の症状は?
どれだけ摂取したかによる。吸入すると呼吸困難になり熱、咳、吐き気を催す。食べた場合は嘔吐や下痢で脱水になり、発作も誘発する。症状が出るのは暴露の4時間後から24時間後。暴露後1.5から3日で死亡する。
どのようにして暴露されるのか?
トウゴマをたくさん食べる、自分で毒を飲むことで中毒になる。しかしエアロゾル粒子として吸入あるいは皮下注射することで致死的バイオテロ剤になる。リシンに触っただけで死ぬことはないが、触った手で食べものを食べたり手を口に持っていったりすると食べる可能性がある。
戦争やテロにどのように使われてきたか?
リシンは生物兵器としての長い使用歴がある。米国陸軍省は1918年にリシンを使うことを検討し第二次世界大戦中に英国の科学者と協力してリシン爆弾を開発したが一度も戦闘に使われたことはないようだ。米軍は1940年代に吸入可能なリシン粉末での実験を行っている。
リシンはおそらく1978年にロンドンでブルガリアのジャーナリストGeorgi Markovを殺すのにつかわれ、1980年代にイラク軍が砲弾にいれた。1990年代半ばには民兵集団ミネソタ愛国評議会Minnesota Patriots Councilがリシンを使って法の執行に携わる官僚を殺そうとしたことで有罪判決を受けた。
2003年サウスカロライナ郵便局とホワイトハウス宛の手紙、2004年にはBill Frist上院議員の郵便室やその他多くの議員宛の郵便からリシンが検出されたが病気や死亡はなかった。またアルカイダのようなテロリスト集団の一員と疑われる人々が所有していることがみつかっている。
どうやって検出するのか?
郵便仕分け施設などを含む米国中のセンサーが定期的にリシンやその他の毒素や病原体をチェックしている。もし陽性の場合実験室でリシンタンパク質やトウゴマDNAに対する抗体を使ったフォローアップ検査が行われる。最新の事例では最初にワシントンDCの郵便局で検出されメリーランドの検査室で確認された。
リシン中毒の治療法はあるか?
リシンには解毒剤はない。ニュージャージー州プリンストンのSoligenixという会社がワクチンを開発中であるが極めて初期の臨床試験までしかいっておらずFDAの承認も得られていない。理論的には中毒患者に対して「緊急使用用認可」で投与することはできる。しかしながらワクチンは人体が抗体を作ることを促進することで作用するので、暴露後4時間で不可逆的であるリシン中毒が既に暴露されたヒトで十分役にたつことはありそうにない。米国国立アレルギー感染病研究所がリシン中毒治療薬の研究に資金を提供している。